川上から川下まで~五方よしの企業精神~
—チャロン・ポカパン・フーズ—

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人権の尊重・配慮に関するHighlight
地域社会への貢献に関するHighlight
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末吉里花(Rika Sueyoshi)
一般社団法人エシカル協会代表理事

『世界ふしぎ発見!』(TBS系)のミステリーハンターとしての経験から世界各国のあらゆる地域で環境問題や人権侵害等の問題が生じているのを目の当たりにし、2015年にエシカル協会を設立。以来、『エシカル』と言う概念を浸透すべく、日本全国の企業や高校、大学などで講演、各地のイベントでトークショーを行っている。

私が日々活動を通じて伝えている「エシカル」とは、地域活性化や雇用なども含む、人や社会、地球環境、地域に配慮した生産や消費行動のことを指す。今回の訪問で、チャロン・ポカパン・フーズ(CPF)の経営と生産はまさにエシカルであることが分かった。私たち消費者は、知らないうちに環境破壊や強制労働、児童労働、動物虐待などといった問題に加担してしまう可能性がある。そういったリスクを減らすためにも、企業はエシカルなサプライチェーンを確保する責任があり、私たち消費者も手にする商品がどのように作られているのか、その背景を知ろうとすることが求められる。エシカルが抱える課題として、「考え方が浸透しない」が挙げられるが、CPFのようなグルーバルな大企業がエシカルな生産をしてくれれば、消費者は自然とエシカルな消費をすることができて、この考え方も広がるだろう。CPFがどのようにエシカルな商品を社会に提供しているかを見てみよう。

1. はじめに

今回の視察で最も印象に残ったことのひとつに、チャロン・ポカパン(以下CP)グループ傘下にあるスーパーFresh Martの訪問がある。タイ国内に410店舗あるFresh Martは、生鮮食品から加工食品、冷凍食品、日用雑貨まで幅広く取り揃えており、商品のうち7割がCPFのものだ。その店内を実際に目の当たりにして何より先進的で意義深い取組だと感じたのは、CPFの商品には、必ずバーコードがついており、消費者が専用アプリでバーコードを読み込むと原材料や製造過程を追跡することができるようになっていることだ。卵もひとつひとつに番号が入っており、どこの農場のものか調べることができる。消費者の手に渡るまで徹底した管理が、消費者の安心に繋がる。大げさかも知れないが、その様子はまるで未来のエシカルな消費の姿を見ているようだった。
今回、私はCPグループの中でも、食品・飼料事業を統括しているCPFのバンコク本社および飼料工場、養鶏加工工場、そして先に触れた店舗を訪ねる機会を得て、川上の飼料生産から川下の鶏肉加工まで、すべてのプロセスをタイ国内だけで、しかも自社で手掛ける一貫生産体制の様子を目の当たりにした。その徹底した経営哲学は、伊藤忠商事の創業者、伊藤忠兵衛が事業の基盤としていた近江商人の「三方よし」の精神と非常に親和性が高かった。

2. チャロン・ポカパン・グループ社とは

2014年タイ最大級の財閥、チャロン・ポカパン(CP)グループ(以下CPグループ)が、伊藤忠商事の大株主に躍り出て、両社が資本・業務提携したニュースは、私を含め多くの人を驚かせた。CPグループは、タイで一番大きな民間企業グループである。傘下に約300社の企業があり、売上高約4兆円超、従業員数約30万人を抱え、100カ国以上で商品を販売しているアジア有数の複合企業だ。中国華僑の兄弟が1921年、バンコクで野菜種子の取り扱いをスタートしたのが始まりだ。中核の飼料事業は世界最大級で、1998年に小売事業の統括会社CPフィードミル(現CPF)を設立して以来、飼料製造、畜産物・生産物生産、食品加工、小売りにも参入し、CPFのグループ内における役割は大きい。

3. 機械化・効率化された飼料工場

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Pak Thong Chaiの飼料工場

今回の視察では、まずPak Thong Chaiという飼料工場を訪れた。ここはバンコクの中心地から北東に車で約4時間走った郊外にある。CPFの飼料工場は現在タイ国内で12工場あるが、たいてい都心から離れた郊外に位置する。なぜならば、飼料の原材料となるトウモロコシを育ててくれる農家や養鶏場へのアクセスが良いからだ。巨大な塔がそびえ立つ飼料工場は、内部に入ると細部に至るまで行き届いた清潔感と、ハイテクな機械、そして従業員の少なさが目をひいた。鶏が消化しやすい大きさまでトウモロコシを挽く機械の操作や、栄養価の高い飼料に調質加工するための装置など、どの工程もコンピュータ化されており、人を通じて外部から持ち込まれる異物やゴミなどを徹底的に排除している。飼料が養鶏場に輸送される際も、トラックごとに消毒されるので、徹底した衛生管理が行き届いていると共に、途中で菌に感染する機会を極力なくすため、最短最速ルートで輸送される仕組みになっている(輸送先は一か所のみで、トラックは輸送中サテライトで監視されている)。この工場で働く従業員はわずか60人程度(同規模工場の場合100名程度が平均的)。これだけ大規模な工場としてはやや少ない人数だろう。自動化されたシステムを導入することで、少人数の体制でも管理が可能というわけだ。また環境への配慮も出来る限りのことを実践していた。飼料を高温で温める過程で使用するボイラーの燃料は、すべて飼料に使用するコーンの芯を使ったバイオマスでまかなっている。ユニークだったのは、工場敷地内の緑地化である。現在、敷地のほぼ半分、45%が森になっている。この取組は続けていくことで、工場で働く従業員にとっても、地域にとっても財産となっていくだろう。工場を案内してくれた担当者は、しきりに「衛生的な飼料」という言葉を繰り返した。食の安全を確保は、紛れもなく川上となる飼料工場から始まり、その責任は大きい、ということを実感した。

4. 水滴一つ落ちていない養鶏加工工場

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CPF Executive Vice President of Poultry Business Siripong Aroonratana

養鶏加工工場の話をする前に、CPFがどのような種類の鶏を扱っているかを説明しなければならない。その昔、タイでは鶏といえば、農家は地鶏を育てていた。しかし、地鶏は生産数に限りがあり、大きさもまちまちで機械で加工するには向いていない。こういった問題点を改善するために、1970年にCPグループは、世界最大のブロイラー原種生産会社、米アーバーエーカー社からブロイラーのヒナを導入することを決定。ブロイラーとはすなわち食肉専用の鶏であり、通常の鶏よりも生育が早く、成長するとほとんどが同じ大きさになり、食用部位が多く収穫できることで知られている。最初はヒナを飼育してもらう農家への資金融資から、鶏舎づくりの指導、飼料の供給する契約生産方式をとり、農家の信頼を得ていった。70年代後半、CPグループは飼料工場、ヒナをふ化させる施設、養鶏場、解体、加工工場すべての過程を1つの地域に統合する「究極の垂直統合」を実現させた。大量生産のプロセスの中で、川上から川下まで、ひとつの地域で完結できるという手法は、家禽類の飼養過程で問われる疾病の侵入リスクの低減や早期発見が可能となり、最終製品のトレーサビリティと安全を確保するためには必須である。工場視察の前に、CPF Executive Vice President of Poultry Business Siripong Aroonratana氏に話を聞いた。現在、CPFの契約農場では、従業員が生活する居住エリアとブロイラーを飼育する養鶏エリアに分かれており、徹底した配慮がなされている。また、CPグループは輸出先国の消費者や流通業者からの要請に対応するため、アニマルウェルフェア(動物福祉)にも積極的に取組んでいる。英国でも厳しいTESCO(英国系小売店)の基準を満たした欧州域外で初の鶏肉企業となったことで、どの国でも通用するようになったという。アニマルウェルフェアへの取組が、消費者保護に資するとともに、輸出の増加にも繋がるという社内の評価だろう。

さて、次に視察した養鶏加工工場は、Pak Thong Chai飼料工場から車で約30分の距離にあった。敷地内に足を踏み入れると、とてもではないがすべて歩いて回れるような大きさではないことがわかる。所々に英国庭園のようなガーデニングが施され、一見養鶏加工工場には見えない。加工工場は巨大な長方形の建物で、それぞれの工程を追って見学できるようになっていた。農場で丁寧に育てられた鶏が運ばれてきて、機械と人間の手によって加工され、最終的に製品になるまでの流れが目の前で繰り広げられるわけであるが、最も驚いたのが、工場の棚や床に1滴たりとも水や血などが落ちていないという点である。これも食の安全と衛生を追求した結果だろう。鶏肉を、それぞれの用途のための大きさに切り揃える工程と検品の作業のみ、従業員の手によって行われており、他はすべて機械によって自動化されていた。毎日38万羽もの鶏を加工・出荷しているだけある。チキンナゲットや唐揚げのように冷凍食品となる製品の揚げ油は、RSPO認証のものを使用。酸化度を常に確認して、揚げ油として使えなくなった油は、敷地内を走る車の燃料として再利用される。注目すべき点は、CPグループが大切にしてきている「多様性の内包」だ。ここで働く6000人の従業員のうち6割はタイ出身だが、残りの4割はカンボジア人である。事故が起きた時にもすぐに本人に分かる言語での対応ができるように、カンボジア人従業員の制服はタイ人のそれと異なり、さらに注意事項やサインもタイ語、カンボジア語、英語の3ヶ国語で記載されている。カンボジア人には敷地内に居住できる寮が建てられていた。

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Nakhonratchasima Factory (CPF Korat)入口にて

私にとって印象的だったのは、ここで働くすべての従業員のきびきびした労働態度と、仕事に対する誇りが感じられたことである。CPFのようなグローバルな大企業において、工場の従業員だけでなく、すべてのサプライチェーンに携わる人たちの人権を守ることは、企業の持続可能性に関わってくる。Siripong氏はCPFの特徴として、欧州との取引も多いため、先述した通り、最も厳しいとされる国際的な基準をクリアし、様々な国際認証も取得している点を強調した(HACCP, Animal Welfare等)。また、CPFは人権、労働権、地球環境、腐敗防止に配慮した取組である国連グローバル・コンパクトの一員でもある。いつ誰が抜き打ちで検査をしに来ても問題ない、と言える現場を実際に見て、高水準を保ち実践する経営者と従業員のモチベーションと視座の高さを知ることができた。

5. 消費者の手に

最終製品は、タイ国内だけでなく世界へと運ばれる。タイ国内だとCPグループ傘下にあるスーパー、Fresh Martで多くの製品を手にすることができる。とても清潔感の高いFresh Martの店内で販売されているCPFの商品には、必ずバーコードがついており、消費者が原材料や製造過程を追跡することができるようになっていることは冒頭で述べた通りだ。このように「作る責任」を、サプライチェーンを通して実現しているCPFは、2015年に国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)の目標12に寄与していると言える。将来、こうした仕組みが全世界に広がれば、エシカルな考え方が加速度的に浸透する一助になるだろう。

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CP Fresh Mart
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CP Fresh Mart店内の様子
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CP Fresh Mart店内の様子
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店内に綺麗に陳列されたCPグループの商品
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100%トレーサブルな卵

同じくCPグループ傘下のファストフード店、CHESTER'Sで、フライドチキンを食した。臭みが全くなく、ジューシーでとても美味しい鶏肉だった。平日だというのに、店内は子供から高齢者まで多くのタイ人で賑わっており、皆美味しそうに鶏肉を食べていた。
2050年、世界の人口が100億人近くになった時、食糧供給をどうすればいいか。CPFはそこまで先の未来を予測しながら経営の戦略を立てている。「世界のキッチンになる」をスローガンに打ち出したCPFは、今30カ国以上の輸出先(日本は内4割)で合計約30億人に安全な食を届け続けており、その試みは着実に広がりつつあることを実感した。

国を利し、民を利し、企業を利す

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(左から)CPF CSR & Sustainable Development Senior Vice President Wuthichai Sithipreedanant氏、筆者、伊藤忠商事村上氏、CPF Global Sustainability Network Assistant Vice President Patcharaporn Sagulwiwat

CPグループの社是は「国を利し、民を利し、企業を利す」である。この壮大な経営哲学を支えているひとつの要が、CPFのCSR部門である、CSR & Sustainable Developmentである。今回、同組織のSenior Vice President Wuthichai Sithipreedanant氏に話を聞いた。CPFのCSRでは、「食の安全」、「自給自足の社会」、「自然との調和」に重きを置き、CPFだからこそ実現できる高い目標を掲げて、プロジェクトを次々と興している。私がこれらの中でも最も注目したいのが、小規模農家への積極的な支援、CPFの農場や工場の周辺にある地域コミュニティのエンパワメント、そして子どもたちへの教育である。2020年までに、農業と食の基礎を支える約5万の小規模農家とウィンウィンなパートナーシップを組むことで、コミュニティに良い影響を与えようとしている。Wuthichai氏いわく、地域に暮らす高齢者の支援にも積極的だ。社会や家族に取り残された高齢者のもとに、毎月ボランティアの社員が訪問をして身の回りのお世話をするだけでなく、CPFの財団から寄付も行っている。また、政府とともに“Growing Happiness, Growing Future Project”をCPFの工場や農場周辺の600以上の学校で展開。15万人もの子どもたちに食の安全や農業・養鶏・魚の養殖などを教えてきている。1989年から始めた“Raising Layer for Student's Lunch Project”も面白い発想のプロジェクトで、地方の子どもたちに良質なタンパク質を卵や鶏肉から摂取してもらうために、鶏の育て方から卵の産ませ方まで教えてきた。まさに「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」という方法だ。
どのプロジェクトも長続きをして良い結果を出しているのは、社員のモチベーションに他ならない。CPFでは各事業分野の組織長を含めた社員総勢100名程度がCSRリーダーとして任命されており、彼らが社員を率いて精力的にCSR活動を推進している。CPFのCSRの取組は、タイ国内を飛び越え、アジア地域にも及び始めており、本業を通じたCSRのあり方をまざまざと意識させられた。

6. 終わりに

今回、現地視察できたのはほんの一部の飼料工場と加工工場、店舗ではあったが、私たち日本人が日常的に手にすることができる「食品」が作られる生の現場をこの目で見ることができて、非常に収穫が大きかった。CPグループのような巨大なグローバル企業が、果たしてどこまで川上から川下まで一貫して透明性と持続可能性をもって経営されているのか想像ができなかったが、実際は視座の高い使命を持って、発展を続けながら社会と人のためにコミットしていた。持続可能性とビジネスの成長はトレードオフの関係にはないことが証明されたといっても過言ではない。持続可能性に取組むことで、コスト削減やエネルギー使用のイノベーション、優秀な人材の確保をも実現していた。
最後に、私から提案したいことがある。「国(世間)を利し、民(買い手)を利し、企業(売り手)を利す」という企業精神はまさに、伊藤忠商事の掲げる「三方よし」と合致している。だからこそ両社が手を組むことによって未来により良いインパクトを与えることができると確信した。私はこの「三方よし」に加えてもう二つ提案したい。「作り手よし」と「未来よし」である。CPグループには引き続き、この「五方よし」の哲学を、国際社会に向けて身をもって範を示していってほしい。