インド移動図書館プロジェクト

インド移動図書館プロジェクト

背景

近年、経済の急発展で注目を浴びているインド社会には、約1800万人にのぼるストリートチルドレンがいると言われており、現地でも解決へのニーズの高い社会的課題です。伊藤忠商事は、その社会貢献活動基本方針の一つに「次世代育成」を掲げ、次世代を担う青少年の健全な育成を支援する活動を行っており、その方針に則って、子ども支援専門の国際組織である公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)とともに、インド マハラシュトラ州ムンバイ市M-East区における移動図書館(MLC:Mobile Learning Center)プロジェクトを実施しました。
本プロジェクトは、公益財団法人 伊藤忠記念財団を通じて長年継続して取り組んできた国内外の子どもたちへの読書支援活動の経験を活かせる支援であり、子どもたちの成長に欠かせない「本」や「読書」を通じて、インドにおける貧困層の子ども達の正規の学校教育への橋渡しを目指したものです。
また当社は、企業理念「豊かさを担う責任」においてSociety(社会)の豊かさとともにIndividual(個人)の豊かさを担い、人権と個性を尊重する方針を掲げており、サプライヤーに対しても人権の尊重・児童労働の不使用等の方針を明確に打ち出すなど、事業活動においても「人権の尊重」を重視しており、今回、このプロジェクトが子どもたちの人権、主に教育を受ける権利の尊重に資すると考え、本プロジェクトに取り組みました。
また、本プロジェクトは、「持続可能な開発目標」(SDGs)の4で定められているすべての人への包摂的かつ公正な質の高い教育の確保にも寄与します。

プロジェクト概要

プロジェクトパートナー

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
セーブ・ザ・チルドレン・インド

プロジェクトの目的

スラム街に暮らす子どもたちや、ストリートチルドレンといった正規の教育を受けることができない3歳~14歳の子どもたちを対象に、移動図書館を通じて「教育」を届ける。

プロジェクト期間

第1期:2013年11月~2016年3月
(事業実施のための準備調査期間を含む)
第2期:2016年4月~2017年3月

プロジェクト実施地域

インド マハラシュトラ州 ムンバイ市 M-East区

プロジェクト予算

2,650万円

活動内容
  1. 移動図書館を通じた教育の機会の提供
  2. 児童労働撲滅へ向けた意識向上のための活動
  3. 児童労働からの解放と正規の学校への入学
  4. 行政に対する政策提言

プロジェクト対象地域の状況

インド マハラシュトラ州ムンバイ市M-East区には「デオナー」と呼ばれるインドで一番古くて大きいと言われているゴミ集積所があり、1日に捨てられるゴミの量は5,500トンもあると言われています。今回のプロジェクト対象地域はその集積場に隣接している11のコミュニティです。

M-East区では人口の77%がスラム街に住んでおり、平均識字率は66%と、インド全体の識字率74%に対して低い値となっています。また、55%以上の子どもたちが学校を中退しており、その要因として、(1)地域の教育に対する理解の低さ、(2)質の低い教育、(3)都市部における移民・貧困問題、(4)ゴミ廃棄場などでの過酷な労働環境などが考えられています。

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デオナーゴミ集積所の様子

ムンバイ市M-East区内のプロジェクト対象コミュニティ

a) Sanjay Nagar Ⅱ, b) Nirankari Nagar, c) Adarsh Nagar, d) Bharat Nagar, e) Padma nagar, f) Shanti nagar, g) Kamala raman nagar, h) Umarkhadi round, i) Baba Nagar, j) Rafi nagar, k) Chikal Wadi

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ゴミ集積場で働く子どもたち
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プロジェクト対象地域の
スラム街の様子

事業実施のための準備(ベースライン)調査の実施

プロジェクト対象地域のストリートチルドレンやスラム街に住む子どもたちの現状の把握、また子ども達の問題とその深刻度の把握のために、2013年11月にベースライン調査を行いました。その結果として、対象地域の子ども達について以下の状況を把握することができました。

ベースライン調査 結果

  • 調査対象5~14歳の1282人
  • 56%の子どもたちは就学前教育施設に入学していた
  • 6歳から14歳の子どものうち、42%が一度も就学前教育施設に入学したことがなかった
  • 8.7%の子どもたちは学校に行ったことがなく、6.4%の子どもたちは学校を中退した
  • 約80%の子どもたちは学校に通っているが、不定期に通っていることが多い
  • 29人の子どもが労働に従事していた(くず拾い:20人、ホテルやショップでの仕事:3人、日雇い労働:2人、服飾関係:2人、家族ビジネス・家事:2人) *子ども自身が働いていると認めているケースのみ。

プロジェクトの内容とその成果

第1期:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンを通じた取組(2013年11月—2016年3月)

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2015年12月には当社小林CAOも視察

第1期では、柱となる4つの活動(1.移動図書館を通じた教育の機会の提供、2.児童労働撲滅へ向けた意識向上のための活動、3.児童労働からの解放と正規の学校への入学、4.行政に対する政策提言)につき、プロジェクトが終了した際に目標とする結果を得るために、それぞれ細かい活動内容と成果指標を定め、活動を実施しました。

第1期 成果指標

活動の柱 目標とする結果 アウトカム

活動1:
移動図書館を通じた教育の機会の提供

年間600人(合計1,200人)の子どもたちが移動図書館を通じて教育機会を得る

1,995人の子どもたちが移動図書館を通じて教育の機会を得た

活動2:
児童労働撲滅へ向けた意識向上のための活動

スラム街に住む子どもたちやストリートチルドレンが児童労働として搾取されることを防ぐために、保護者、雇用人、行政やコミュニティの子どもの保護や教育に関する意識が向上する

延べ2,219人の保護者、雇用者、教育関係者が、子どもの保護や教育の重要性について学ぶ機会を得た

活動3:
児童労働からの解放と正規の学校への入学

事業対象の子どもたちが危険な状況下で働く児童労働から解放され、うち25%(300人)が正規の学校に入学する

382人の子どもたちが正規の学校に入学を果たした

活動4:
行政に対する政策提言

スラム街に住む子どもたちやストリートチルドレンに対しても教育の機会が提供されるよう、行政の意識が向上される

本事業の成果と学びをローカルNGOと共有するとともに、地方政府への提言がなされた

第2期:セーブ・ザ・チルドレン・インドとの取組(2016年4月—2017年3月)

第2期では、MLCを通じて多くの子どもたちに教育の機会の提供する活動を継続するとともに、子どもたちの正規の小学校への入学を増やすために幼児教育・保育に関する活動にも注力しました。

第2期 成果指標

活動の柱 目標とする結果 アウトカム

活動1:
就学前教育センターから小学校への進学の増加

幼児教育・保育に対する保護者(年間200人)の意識を高め、就学前教育センターの職員(年間20人)の研修による質の向上を図り、子どもたちの就学前教育センターへの入所を促す

戸別訪問等を通じ200人の保護者への意識向上を図った結果、100人の子どもたちが新たに就学前教育センターへ入所した。また80人の就学前教育センターの職員の研修を実施した

活動2:
移動図書館を通じた教育の機会の提供

年間700人の子どもたちに移動図書館を通じて教育の機会を提供、200人が正規の学校へ入学する

700人の子どもたちが移動図書館を通じて教育の機会を得て、210人の子どもたちが正規の学校に入学を果たした

ケースストーリー

ルビナさんのケース

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ルビナさん(真ん中の緑色のスカーフをかぶった女の子)

登録者の一人、ルビナさんは両親そして5人の兄妹とビハール州の小さな貧しい農村に暮らしていました。小学校2年生になったころ、家計を助けるために学校を退学して働くことを余儀なくされましたが、ルビナさんの祖母がどうにかして学校に通わせてあげたいと、叔父の家に彼女を連れて移住しました。
しかし、彼女は叔父の家でも家事労働をする日々が続き、祖母はふがいなさを感じていました。そんなある日、訪問調査を行っていたセーブ・ザ・チルドレンのスタッフと出会い、ルビナさんをMLCに通わせることができるようになりました。
MLCで勉強の遅れを取戻し、再び学校に通うようになり、ルビナさんは明るい子どもになりました。今も家事をしていますが、時間を見つけてMLCに通い、学校の勉強の復習をしたり、アートクラスを楽しむことができるようになりました。

シャビールさん、アリファさん、ワジダさんのケース

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シャビールさん(右から二人目)、アリファさん(ピンクのドレス)、ワジダさん(最前列グリーンのドレス)

シャビールさん(12)、アリファさん(11)、ワジダさん(10)たち兄妹に出会ったころ、彼らは学校に通うことなく、近所で遊んだり、ぶらぶらする日々を過ごしていました。両親は子どもたちを学校に入学させるための「正式な書類」を準備できないという理由から、学校へ通わせていなかったのです。MLCに登録後、スタッフが入学手続きをサポートし、兄妹は無事学校に通い始めることができました。ワジダさんは「学校に入ったとき、とてもうれしかった。私たちには学校に通うお金がないとあきらめていたから。入学できたことが、今でも信じられない!!」と大変喜んでいます。

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イシュティヤクさん

イシュティヤクさんのケース

イシュティヤクさん(14)は、10年前に母親と3人の兄弟と一緒に、ネパールとの国境に近いウッタル・プラデーシュ州からこのスラム街に移住してきました。家族はとても貧しく、毎日生きていくために、彼は学校を退学して近くのゴミ捨て場でくず拾いをしていました。スタッフはコミュニティを家庭訪問している時にイシュティヤクさんと出会い、仕事の合間に彼をMLCに通わせるよう、母親を何度も説得しました。その結果、彼はMLCに通うようになり、再び学ぶことの楽しさを感じるようになりました。少しずつ自信を取り戻した彼は、MLCに通い始めてから6か月後、とうとう学校に再入学を果たしました。

イシュティヤクさんは「僕は学校に戻れる方法を知らなかった。でもこの青いバス(MLC)がもう一度学校で勉強できるように助けてくれたんだ。学校で勉強ができて、とてもうれしい。」と話しています。今日では、イシュティヤクさんは学校に通いながら、母親を助けるために働いています。そして、引き続きMLCに通い、他の子どもたちと一緒に勉強したり、活動に参加したりしています。

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シファさんとお母さん

シファさんのケース

貧しく子どもが多い家庭では、特別なケアが必要な子どもは家の中に閉じ込められ、必要なケアや情報に十分にアクセスできない場合があります。スタッフがコミュニティでの家庭訪問をしている時に、シファさん(5歳)と家族に出会いました。彼女には日常生活をスムーズに送るための特別なケアとトレーニングが必要ですが、家族はとても貧しいため、遠く離れた特別支援学校に通わせることができませんでした。スタッフが彼女をMLCに連れてくるように家族を説得したところ、彼女はおばさんに連れられてMLCにやってきました。カラフルで楽しそうなバスと映像機器を見た瞬間、彼女の目は生き生きと輝き、とても興奮した様子でした。その後、彼女は定期的にMLCに通うようになり、ビデオや本を使った授業で楽しく学んでいます。

シファさんのお母さんは「私は娘を通わせることができる場所を知りませんでした。一人だと、子どもを安心して預けられる場所を見つけることはとても難しいです。MLCは、娘が楽しむだけでなく、様々なことを学ぶことができる最も安全な場所の一つだと感じています。」と話しています。スタッフは引き続き家族と協力しながら、シファさんの特別支援学校への入学準備を進めています。

  • 全ての写真はセーブ・ザ・チルドレンの提供によるものです。