サプライチェーン・ルポルタージュ
第1回「綿花からTシャツまで」

プレオーガニックコットンプログラム

プレオーガニックコットンプログラム

課題解決のための有機農業の導入

化学肥料と農薬の多用による諸問題を解決するために、牛糞等でつくる肥料と、植物でつくる除虫剤等によって、有機綿花栽培を復活させようとする動きが起きています。伊藤忠商事は、Kurkku(クルック)と共同で、綿花の有機農業化を促進するために「プレオーガニックコットンプログラム」を行っています。

  1. 事業の概要

    本プログラムは、農家啓発の支援組合、ラージ・エコファームのRajesh 氏の取組に賛同した伊藤忠商事と、音楽プロデューサー小林武史氏が代表を務めるKurkku(クルック)が提唱しました。Rajesh 氏は、化学肥料、農薬に替えて、インドの農家で自給自足できる牛糞、草木だけで行う有機農法の手法及びその益を綿花農家に説き、転換を呼びかけています。有機農法への転換後、有機認証までにはおよそ3年が必要です。また、短期的には生産量が2割ほど落ちます。この、完全オーガニックにいたる途中段階の綿花を「プレオーガニックコットン」と名付け、生産減少分を仕入値に上乗せすることにしました。この仕組みに支えられて、現在600戸以上の農家が本プログラムに参加しています。

  2. 伊藤忠商事の役割

    伊藤忠商事は、販売数量を想定し、種植え付け前に買付(支援)数量をコミットして、生産されたプレオーガニックコットン全量をパットスピン・インディア社から仕入れます。販売量及び相場リスク等のリスクは伊藤忠が負担し、生産された綿花、綿糸、製品を多方面に販売していきます。kurkkuと共同運営することで、プレオーガニックコットンの消費者への認知度向上も行っています。

STEP01「栽培する」

プレオーガニックコットンプログラムの綿花は、インド最大級のオーガニック農業支援組合、ラージ・エコファームが支援している農家で栽培されています。

農家

ウマルダッド村 Nanka 氏

「一番良かったのは、農薬を止めて、皮膚のかゆみが無くなったことです。綿花の他、小麦、トウモロコシを作っていますが、すべて無農薬に切り替えました」

Nanka 氏の農地
Nanka 氏の農地
写真
Nanka氏(前列右)

ボパルプラ村 Patel 氏他

「市場で他の農家からラージ・エコファームを紹介されました。ここは300人の村ですが、そのうち7割が有機農法になりました」

牛がいる農家の家並み
牛がいる農家の家並み
ボパルプラ村の皆さんと
ボパルプラ村の皆さんと

ラージ・エコファーム — 有機農法指導及び綿花一次加工

Managing Director Rajesh Tanwar 氏

「農家の健康と生活、農地の環境、これらを総合的に改善し、インド全体に広げるのが私の目標です」

ラージ・エコファーム社
ラージ・エコファーム社
Rajesh Tanwar 氏
Rajesh Tanwar 氏

綿作農業における課題

インドの綿花栽培は、1960年代前後、化学肥料と農薬が普及し、収穫が飛躍的に増えました。生産量増加の一方、化学肥料と農薬の併用によって、土壌、農地の環境が悪化したことに加え、インドの農家の人々の多くが、読み書きができず農業教育が不足しているために、農薬の適正な使用方法がわからず、農薬を過度に散布したり、マスクをつけずに直接吸ってしまったりして、皮膚病や肺病等にかかるという問題が広がっています。
経済的な側面では、市場における農家の立場が弱く、充分な収入が得られないことや、また、化学肥料や農薬のコスト負担が収入に対して大きいという構造のために、収穫量が増えても貧困から抜け出せないでいるのが多くのインドの綿花農家の現実です。

STEP02「糸に紡ぐ」

紡績はパットスピン・インディアで行っています。同社は風車9台を有し、風力発電を利用し紡績を行う環境に配慮した企業です。

パットスピン・インディア社

Managing DirectorUmang Patodia 氏

「Rajesh 氏の方針に賛同しました。また、伊藤忠商事が本気でオーガニックを推進しようとしていることが、この事業を支えています」

写真
写真
紡績前の綿花
紡績前の綿花
写真
紡績機械
同社の風力発電
同社の風力発電

中国に出荷

STEP03「生地に編む」

紡績された糸はインドから中国に輸入され、編み立て工場にてプレオーガニックコットンの生地が編まれます。

編み立ての機械
編み立ての機械
編み立ての機械
編み立ての機械
編み立ての機械
編み立ての機械

STEP04「染める」

生地になったプレオーガニックコットンは近隣の染色工場で染められます。(プレオーガニックコットンの風合いを活かすために過度な染色はしません。)

染色の様子
染色の様子
染色の様子
染色の機械

STEP05「縫う」

上海ゼファーや上海春潮などの縫製工場ではプレオーガニックコットンの糸を輸入し、周辺の協力工場での編立て・染色を経て製品を縫製しています。縫製にあたり、通常のコットン製品と混ざらないように最大限の配慮をしています。

上海ゼファー国際貿易有限公司

総経理 岩淵 好史 氏 (写真右)
「私たちが受注している米国他の衣料ブランド企業から、CSR観点の調査、視察がよく来るようになりました。アパレル企業にとって、社会、環境配慮は馴染み深いものになっています」

写真

上海春潮制衣有限公司

総経理 荘 保観 氏
「上海は万博を控えていることもあって、環境、労働の規制を、地方政府が急速に進めており、各社懸命にこれに応えているように思います」

写真
パットスピン社のプレオーガニックコットンの梱包の横に立つ社長
パットスピン社のプレオーガニックコットンの梱包の横に立つ社長

工場における課題

今回、インドの紡績工場と上海の編立て工場、染色工場、縫製工場を訪問しました。繊維産業の工場における課題は、染色工程での使用エネルギー量の削減や排水の浄化、縫製工程での労働環境等です。中国では、国や地域政府による企業の規制管理が日々進んでいます。規制のレベルの地域差はいまだ大きいものの、大きく見れば環境、社会両面の改善が年々進んでいます。

日本に輸出

STEP06「マーケティング・販売」

消費者にプレオーガニックコットンのよさを理解し商品を買ってもらうために、kurkkuと共同でマーケティング・広報活動に力を入れています。プログラムに賛同いただいたイトキン(株)を通じてプレオーガニックコットンのTシャツを販売しています。

イトキン株式会社

写真

取締役
須賀 智博 氏
「企業が消費者を選ぶ時代から、お客様から求められる信頼感や安らぎを提案することが必要な時代となりました。当社もプレオーガニックコットンの基本理念に賛同し、一人でも多くの人に支援いただけるように継続的に展開していきます」

視察とヒアリングの所感

(株)CSR経営研究所 CSRコンサルタント 山口 智彦 氏

(株)CSR経営研究所
CSRコンサルタント
山口 智彦 氏

(株)CSR経営研究所 山口智彦氏に、農家から縫製工場まで、各現場の視察とヒアリングを行っていただきました。

1. サプライチェーン全般について

インドの綿作農家は、多くの人が文字を持たず、経済的な駆け引きに未熟であること、家族経営で組織に属していないこと等のために不利な立場にいることが諸問題の根本原因のように思われます。時間をかけても基礎教育の社会制度等を整え、生産性が高く、健康に良く、環境に良い農法を身に付け、経済社会における生き方を体得することが最も重要と感じました。一方、紡績以降の後工程については規制等の整備もあり、CSR観点での課題は農家の困難さと比較すると小さいように思われます。

2. プレオーガニックコットンプログラムについて

本プログラムは、農家への啓発を基本として実践的な有機農法の普及を進めており、関係者各位のお話を伺うにつけ、プログラムが目指す農家の健康回復、生活向上、土壌環境の回復を矛盾無く実現する仕組みであることがよく分かりました。一方、有機綿作には手がかかります。農家がこれを続けていくためには、この綿製品が適正な価格で一定量売れることが必要です。製品化までのトレースまで含めた全体の運用にかかるコストを消費者に正確に伝え、それが理解され、広く購入されるかどうかが本プログラムの成否を分けるものと思います。売る側と買う側の呼応によってビジネスを成功させ、将来は有機化を拡大するとともに、今後は、伊藤忠商事の綿事業全域で、源流にさかのぼり社会・環境配慮を進めていただきたいと思います。