第5回「リチウムイオン二次電池が出来るまで」

リチウムイオン二次電池ができるまで

リチウムイオン二次電池ができるまで

第5回は、再生可能クリーンエネルギー社会の実現に大きな役割を担うリチウムイオン電池(以下、LiB)を取り上げます。伊藤忠商事は、グループ会社と協力し、マーケティング・技術開発力や原材料調達・物流機能等を結集し、LiBがより身近な製品となるようサプライチェーン構築に力を入れています。

  • 掲載内容は2013年3月期CSRレポート発行時の状況に基づいています。
  • 写真について
    ファミリーマート「つくば研究学園店」で2010~ 12年に実施した実証実験。太陽光発電エネルギーを蓄電し、電気自動車の急速充電を実現した。
写真

現地報告: 宮田 秀明(みやたひであき)

社会システムデザイン株式会社代表取締役社長
東京大学名誉教授
一般社団法人二次電池社会システム研究会
代表理事
一般社団法人東日本未来都市研究会
代表理事

背景

1991年に日本のメーカーによって製品化された電子機器用の小型LiBは、今や完全にコモディティー化した。「電気は貯蔵できる」というパラダイムシフトは、定置用・車載用の大型LiBによって、より大きな規模で世の中を変え、ビジネスを変えようとしている。伊藤忠グループのこの問題への取組みについて、現場を追ってみた。

定置用・車載用リチウムイオン電池(LiB)の製造の流れ

LiBの発明者である吉野彰さんは、「電池」と名付けなければよかったかもしれないと語ったことがある。蓄電の仕組みがそれまでの電池とは全く違い、化学反応を起こすのではなく、電圧をかけると正極と負極の間をリチウムイオンが移動するだけで充電放電が行われるからだ。

STEP01「原料」

リチウム資源開発

写真
米国カリフォルニア州南部にある地熱かん水の井戸

現在リチウムは、世界の約7割のシェアを南米の塩湖で生産する既存メーカー3社が占めている。米国カリフォルニア州のSimbol Materials社(以下、SIM社)では、地熱発電所の使用済み地熱かん水に含まれるリチウムを回収し製品化する、世界初の画期的な製造方法を独自に開発しており、既に実証試験にも成功している。SIM社の天候の影響を受けない世界唯一の製法は、南米の天日乾燥工程と比べ増設が容易なので、生産能力を拡張することでコスト競争力を一層高めることができるという。
2010年6月、伊藤忠商事はSIM社に出資し、LiBの主要部材である正極材や電解液に含まれる電解質、その他工業製品向けに、リチウム化合物の供給を目指している。

STEP02「材料」

正極材の製造

取材先:戸田工業(株)(以下、戸田工業)

2012年12月に資本・業務提携契約を締結。伊藤忠商事の持分法適用関連会社。戸田工業と伊藤忠商事は、北米及び中国でも正極材製造販売の合弁事業を展開中。

写真
原料を混合して容器に入れ、オーブンのような焼成機械にかけていく

正極材に使われる材料はリチウム以外にマンガン、コバルト、ニッケルなどがあり、このうちどの原料を組み合わせて正極材とするかが、電池の性能、寿命を決める。だから正極材の設計と製造はLiBの製造の中心的な部分といってもいいくらいだ。正極材の製造過程は溶解・反応・乾燥・混合・焼成・粉砕なのだが、この過程での異物混入は、製品の寿命や安全性に致命的な影響を与えるので、絶対に避けなくてはならない。よって、電磁石などで鉄分混入の可能性を高精度でチェックするなど、工場は食品工場のように清潔だ。
リチウムをはじめとする正極材の原料は、ほとんどすべてが輸入に頼っている。戸田工業のような世界トップの製造技術を、SIM社のリチウムも扱っていく伊藤忠商事の調達サプライチェーンによって強力に支えていくべきだろう。

負極材の製造

取材先:(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン(以下、KBMJ)

2011年4月に(株)クレハと合弁で設立。2012年に(株)クラレと(株)産業革新機構が株主に加わる。伊藤忠商事の持分法適用関連会社。負極材の生産に加え、電極の製造時に使われる接着剤(バインダー)の生産は業界トップシェアを持つメーカーでもある。

写真
クラスター構造

LiBは充電するために電圧をかけると、リチウムイオンが正極から負極へ移動する。移動先である負極材の分子構造の中にリチウムイオンがどのように収納できるかにより電池の充電容量、パワー、耐久性などの性能が変わる。
負極材は見た目は黒いカーボンの粉で、製造プロセスは粒状化・熱処理・粉砕・焼成と全自動化されている。ここにはKBMJの貴重なノウハウが詰め込まれていて、クラスター構造という特殊な空間をデザインして作ることで、進化するLiBのニーズに応えるものを製造している。今後、KBMJでは豊富な経験や技術力により、ヤシガラなどの植物由来の原料から製造した負極材の発売を行い、急拡大する需要とコストダウンの要求に応えていく予定だ。

STEP03「製品」

電極の製造

写真
(左)負極部品
(右)伊藤忠商事の出資先である(株)ヒラノテクシード製LiB電極用塗工装置。伊藤忠商事は塗工装置をはじめLiB各種製造装置を国内外に販売している

ロール状に巻かれたアルミの薄い板に何十ミクロンの厚さで正極材を塗布すると正極部品ができる。同じように薄い銅板に負極材を塗布すると負極部品ができる。この段階での塗布技術を支えるのは精密な塗工機械である。

組み立て

写真

製品の大きさに切り取られた正極部品と負極部品の間にセパレータという絶縁体を挟み、電解液を注入しアルミパックのように包んで封をすると、ラミネート型LiBの基本パーツが完成する。
車載用や定置用の電池は、基本パーツを何枚か並べてアルミ箱などに収めてセルを作る。一つのセルは電圧4ボルト位なので、必要な容量に合わせてセルを直列に組み合わせて組電池を完成させる。充放電を安全に効率よく行うために、コンピューターによる充放電管理も不可欠だ。

STEP04-1「用途」

定置用リチウムイオン電池

近年、新築住宅にLiBを標準装備する企業も出てきているようだが、2011年3月に完成した伊藤忠都市開発(株)のマンション「クレヴィア二子玉川」はその一つだ。5階建51戸のマンションの屋上には約10KWの太陽光パネルが設置され、1階の駐車場脇には24KWhのLiBを使ったエネルギー管理システムが導入されている。ここではマンションの共用部分の電気を供給すると共に、一部を売電している。電気自動車を使ったカーシェアリングも行っており、好評だそうだ。
2013年1月に竣工した「クレヴィア千川」では、伊藤忠エネクス(株)の蓄電システムを導入している。停電時には、集会室の照明やコンセントに電気を供給したり、ポンプを動かして井戸水を供給するなど非常用電源として利用できる。
伊藤忠エネクス(株)の蓄電システムは一般家庭用で、太陽光発電システムや燃料電池(エネファーム)とLiBを組み合わせることで、『創エネ』+『蓄エネ』によるエネルギーを自給自足するライフスタイルを提案し、設置事例が増えてきているようだ。 これらLiBは、伊藤忠商事が調達してきたものだ。

写真
クレヴィア二子玉川
写真
蓄電池設置事例
図
クレヴィア千川の蓄電システム概要

STEP04-2「用途」

車載用リチウムイオン電池

電気自動車の開発競争では日本が先行しているが、普及はまだ助走段階で、日本での販売は年間2万台程度だ。
しかし、急速に進むモータリゼーションと同時に進む大気汚染の深刻化が電気自動車普及の後押しとなる中国をはじめ、近い将来、普及は急速に進むかもしれない。仮に世界中で生産される乗用車の10%が環境対応車になれば、既に確立されている電子機器用の小型電池市場の10倍を超える規模になるだろう。
伊藤忠商事は、2010年から環境省や自治体の公共交通機関の電気自動車化の実証プロジェクト等に、LiBの供給を行ってきた。2010~12年は、つくば市でコンビニの協力を得て、太陽光発電を発電源とした電気自動車の充電ステーションとしての実証実験を成功させている。

写真
秋田県で走行中のLiB搭載の電動バス
図
つくば市のコンビニ店舗で行った実証実験例

コラム

クリーンエネルギーに期待される未来!

写真

太田 直樹氏
24M Technologies, Inc.のCTO
(MIT発のベンチャー会社)
元Ener1/EnerDel, Inc.のCTO

エネルギー供給の最適化のためには、用途別には勿論のこと、地域ごとにインフラ整備状況、国土面積、化石燃料・クリーン資源へのアクセス事情が異なるので、個別対応が必要とされる。例えば米国は国土が広くインフラが老朽化しており、周波数調整などが供給の最適化に貢献する一方、国土は広いが経済発展にインフラが追いつかないロシアでは、分散型の電源が短期的に貢献する。
その上、クリーンエネルギーの普及のためには、化石燃料と戦えるコスト競争力が必要である。米国の電気料金は州により異なるが、極めて安価である。米国のベンチャー企業、大手企業が大胆なコスト削減技術にしのぎを削っている。
クリーンエネルギーと蓄電技術の応用が実使用に耐えうることは過去10年で証明された。普及は遅れているが、2018年には、1兆円規模の産業になるものとPike Research社は予測している。今後10年で、クリーンエネルギーが主要エネルギーとなり、平和に貢献することが期待されている。

視察を終えて ~地産地消型エネルギー社会を目指して~

社会システムデザイン株式会社 代表取締役社長 宮田 秀明 氏

社会システムデザイン株式会社
代表取締役社長
宮田 秀明 氏

原発の将来が見えないことから、日本の資源エネルギーと環境問題の解決のためには再生可能エネルギーの大規模な導入が不可欠である。そのためには土地の有効利用と大規模な蓄電設備の導入が最重要課題だと思う。例えば、東北の複数の公共施設では、太陽光発電とLiBの導入が始まっている。国土の狭い日本でも、40万ヘクタールの休耕地、耕作放棄地がある。この面積に太陽電池を置くだけで電力需要の30%が賄えてしまうが、天候次第の気まぐれな発電をするので、蓄電設備の併設はだんだん不可欠になっていくだろう。
今回の取材で日本のLiBのサプライチェーンのすべての段階で優れた技術と素晴らしい研究者・技術者の方々とお会いすることができた。LiBの原材料調達からエネルギー管理システム構築までの長いサプライチェーンをいかに競争力のある構造にできるかは、この新しい産業を戦略的に育成していくために極めて重要だ。総合商社の果たす役割は大きく、今後も全社横断的に取り組んで欲しいと思っている。