第6回「自然景観と共存する豪州産石炭のサプライチェーン」

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自然景観と共存する豪州産石炭のサプライチェーン

取扱商品ごとのサプライチェーン全体像を報告する「サプライチェーン・ルポルタージュ・プロジェクト」。
第6回目の今年は、豪州の炭砿採掘現場から港湾での船積みまでのサプライチェーンの現場を取り上げます。持続可能な資源の利用のため、環境保全・労働安全等に配慮した管理の実態を紹介します。

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現地報告: 山冨 二郎(やまとみ じろう)

工学博士
東京大学 大学院工学系研究科 教授

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オーストラリア(豪州)のニューサウスウェールズ州、シドニーから北に直線距離で約150km離れたハンターバレーに良質な石炭の産炭地がある。ハンターバレーはワインの産地として有名で、放牧地とぶどう畑が広がる緑野を抜けると、炭砿が鉱区を接して連なる地帯となっている。2014年3月、資源メジャーのグレンコア・コール・アセット・オーストラリア社(Glencore Coal Assets Australia)※が保有するラベンスワース炭砿内にあるラベンスワース・ノース(Ravensworth North、以下RVN)炭砿を訪問し、操業状況とCSR活動を調査した。伊藤忠商事は現地法人を通じてRVNの権益を10%保持している。

  • 資源メジャーのグレンコア・エクストラータ社のグループ会社。

STEP01「採炭・リハビリテーション」

炭砿現場における環境への配慮

RVNは2012年5月から本格操業を開始し、初年度は約300万トンの原炭を生産。2014年にかけて設備増強を行い、2015年は約1,100万トンの原炭(精炭ベース約780万トン/年)の生産を計画している。埋蔵炭量は2.8億トン(原炭)、可採年数は20年以上となっており、ハンターバレーで最後の大規模・優良炭砿の開発と現地マネージャーは語っていた。立ち上げのために、RVN炭砿は選炭・出荷プラントの拡張、道路・送電線の移設、ダンプ・ショベルの購入など、約14億豪ドルの投資を行った。
2010年から2013年までの4年間で、RVN開発・採炭活動により493haの土地が改変されたが、ラベンスワース炭砿全体で396haの緑化植栽を行った。採炭する際には、剥土といわれる石炭を覆う表土を取り除くのだが、表土は一旦、周辺に設けた堆積場等に保管し、採掘跡のリハビリテーションに使用する。採掘された石炭は選炭場に運ばれ、石炭以外の土石が取り除かれ、その土石は露天採掘場跡に堆積処分している。その後、植物の種を撒く一連のリハビリテーション作業により、林と牧草地が混在するハンターバレーの典型的な景観になるように計画されている。
RVNが操業において特に注意を払っているのは、粉じんと発破振動による地域への影響である。場内外の複数箇所で、大気・水質のモニタリングを行っており、散水車による散水、スプリンクラーの設置などに加え霧発生機や放水銃も導入し、風の強い時には操業を中断する措置もとることで、成果を上げている。2013年に周辺住民から3件の発破振動に関する苦情が寄せられ、担当者が直ちに必要な対応にあたった。地域社会との良好な関係保持は、鉱山操業に必須なものであり、ラベンスワース炭砿全体で、操業全体に関するレポートを年数回発行するなど取組みがなされている。

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世界最大級のダンプトラックや油圧ショベルも稼働している
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ハンターバレーの景観

労働安全衛生

従業員の安全と健康を守る

RVNは従業員の研修にも力を入れており、例えば事務所へ向かう道路には、安全9ヵ条の看板が立ち並ぶ。そして正面玄関に入ると、従業員及びゲストは、安全な行動や操業のための質問事項小テストをモニター画面で行い、続いてアルコール濃度を測る呼気テストを機械で受ける。炭砿現場は、乗用車の何十倍も大きなダンプトラックが石炭を積んで激しく往来しており、機械の正しい操業が非常に大事であることが実感できる。

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地域とのコミュニケーション

地域に根付いたコミュニケーションの実現

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RVNは、連邦・州や地元の町と継続的なコミュニケーションにも努めている。例えば2013年には、植樹祭・学校の設立記念行事・救助ヘリの訓練・ガン撲滅運動など26件の地域活動に参加し、半年に1回は住民・行政機関の代表も参加する協議会を開き、操業状況・モニタリング結果・保安成績などを報告、地域支援プログラムを協議している。

STEP02「鉄道輸送」

炭砿から港までの鉄道輸送

ラべンスワース炭砿の選炭・出荷プラントには鉄道のレールが引込まれており、輸出用の精炭を貨車に払出し、ニューキャッスル港まで約100kmを鉄道で輸送する。2013年の出荷実績は約724万トンで、輸送中の飛散も防止するよう対策を講じながら979本の列車が運行された。

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ハンターバレー炭砿地区から港まで、鉄道で輸送される石炭

STEP03「貯炭・船積」

積出港での環境・安全への配慮

ニューキャッスル港には石炭ターミナルが3つあり、合計で年間約2億トンの出荷能力を持っている(2012年実績は約1.34億トン)。最大出荷能力を持つクーラガン(1.2億トン/年)と、カーリントン(2,500万トン/年)の2つのターミナルは、ポート・ワラタ・コール・サービス社(Port Waratah Coal Services Limited、以下PWCS)が運営している。同社にはグレンコア・エクストラータ社を含む鉱山会社と日系のユーザー及び伊藤忠商事を含む商社などが出資しており、RVN炭砿の石炭もPWCS社のターミナルから日本等アジアへ輸出されている。
クーラガンには、貨車の底が開いて中に積んでいた石炭を自動で荷卸しする設備が4系列あり、石炭を屋外貯炭場までベルトコンベヤで運搬する。貯炭場は4面あって、それぞれが長さ2.5 km × 幅 56 mと巨大だ。貯炭場では、天気に合わせ定期的な散水による粉じん抑制が行われる。出荷時には、リクレーマによって石炭を掻き込み、ベルトコンベヤに移送し、シップローダによって船積みされる。PWCS社も環境保全と、地域社会とのコミュニティ・リレーションズに積極的で、石炭取扱量の増加にもかかわらず、定点観測された粉じん降灰量に変化がないことをアピールしている。
従業員の安全確保のための教育・研修は勿論のこと、長年のノウハウに基づく安全な操業を徹底していた。

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石炭を積んだ貨車の荷卸し場
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大きなリクレーマが回転しながら、石炭をベルトコンベヤに乗せる
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船積みの様子

コラム

世界に求められる日本の環境負荷低減型の石炭利用技術

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加藤 元彦氏
専務理事・事務局長
一般財団法人
石炭エネルギーセンター

2014年4月に新たなエネルギー基本計画が閣議決定され、その中で石炭は「CO2の問題があるが、優れた重要なベースロード電源の燃料として再評価。環境負荷を低減しつつ活用していくエネルギー源」とされた。現在、日本の一次エネルギーの約25%を石炭が担っているが、今後ともその重要性は変わらない。世界的にも、特に新興国にとって経済発展のもととなる電力開発に石炭火力は極めて重要な位置付けであり、石炭需要の増大が見込まれる。石炭の利用について、日本は、高効率化、環境対策、設備運用、いずれも世界の最高水準の技術を有している。環境と調和した石炭の開発、利用について日本が果たすべき役割は大きい。

視察を終えて~日本社会と豪州炭サプライチェーン~

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山冨 二郎 氏
工学博士
東京大学
大学院工学系研究科
教授

SLファンでないかぎり、石炭を目にしたことのある日本人は少なくなったのではなかろうか。豪州の石炭輸出量は、この数年で中国向けを中心に急増しているが、最大の輸出相手国は依然として日本である。ハンターバレーの炭砿は、操業が環境や自然に与える負荷を十分に認識し、地域社会を大切にしながら日本へ向けて石炭を送り出している。石炭の持続的な供給に努める現場の実態について、またそこに関わる商社の役割について、日本社会と日本人にもっと知ってほしいという思いを込めた。