Managemant Eye

持続的成長を促す「働き方改革」 Part.1

「無駄なコストを削減し、その分を社員に還元するのが肝要」

伊藤忠商事株式会社 代表取締役会長CEO
岡藤正広

伊藤忠商事は、業界に先駆けて「働き方改革」に着手しました。以来、業績も順調に拡大しています。

結果論ですが、「働き方改革」が好業績を後押ししてきたのは事実です。一番大きかったのは「朝型勤務」で、「限られた時間の中でいかに生産性を上げるか」という社員の意識改革ができたことです。

私が社長に就任した2010年当時はフレックスタイム制で、意識改革にはこれが一番のネックでした。コアタイムは午前10時から午後3時。多くの社員が午前10時に出社して、夜遅くまで残業するというのが常態化していました。翌年、東日本大震災が発生した直後のこと。早朝から事業会社を回り、東北にある事業所の状況などを確認して10時頃に会社に戻ってきたら、本社近くの地下鉄出口から大勢の社員がゾロゾロと会社へ向かっていたわけです。「これはおかしい」と強く感じました。お客様が大変なときに、うちの社員はいつも通り10時に出社している。「商社の人間がこれでいいのか」と。そこで、役職者に9時までの出社を推奨することから始め、社内に9時出社が定着したところでフレックスタイム制度を廃止。「朝型勤務」へシフトしたわけです。

「朝型勤務」で残業が減ると給料も減る。それは困ると考えるのが社員です。意識改革を促すには、それなりのインセンティブが必要になりますね。

まず、午前5時から8時の早朝勤務時間に出社した時間管理対象の社員には、9時まで深夜残業と同じく5割増の賃金を払うことにしました。他にも、朝食の無料配布や朝活セミナーなど、さまざまな施策を実施し、今や約半数の社員が朝8時までに出社しています。

結果、導入前と比較して残業時間は10%以上減りました。さらに、夜間の光熱費や深夜のタクシー代も減り、割増賃金や朝食代などの追加コストを含めても全体経費は減少しました。社員にとっては、残業時間が減っても収入は減らず、早く帰って家族サービスをしたり、ジムに通ったり、自己研鑽に励む時間も取れる。結果的に仕事の効率もよくなり、生産性も大きく向上しました。これを、「残業代を浮かす」という発想でやっていたら、うまくいかなかったと思います。経営においてコスト削減は必須ですが、社員の給料は別。削減したコストは社員にも還元し、「しっかり働けば、きちんと報いてくれる」と社員から信用されるように心を配る必要があります。

大事なのは、「働き方改革」は働く時間を少なくすることでも、仕事を楽にすることでもないということです。成功している創業者は人の何倍も働くのが常でしたが、今の時代、同じような働き方を奨励するわけにはいきません。となれば、業績を上げるには仕事の効率を追求していくしかないのです。我々経営陣は社員が不安なく効率よく働くためのサポートを惜しまない。「健康経営」や「がんと仕事の両立支援」などの諸施策も充実させていく。だから、社員には安心して、働きがいを持ってがむしゃらに働いてもらう。その分は、確実に血肉になって本人にも返ってくるし、会社の業績にも貢献するということを伝えたいですね。

朝活セミナー
朝活セミナー
朝活セミナーには毎回300人以上の社員が参加する。サンドイッチやおにぎり、スープなど朝食メニューも充実。
日吉寮
昨年度新設した日吉寮。シェアキッチン付食堂や各階のコミュニケーションスペースなど多彩な共用設備を設けている。