Managemant Eye

持続的成長を促す「働き方改革」 Part.2

「働き方は量から質へ。マーケットインの発想が成長の鍵」

伊藤忠商事株式会社 代表取締役会長CEO
岡藤正広

前回、「働き方改革」には社員の意識改革が必要だというお話がありました。特に、生産性向上を促す秘策はあるのでしょうか。

これはある事業会社の話ですが、その会社は就業時間が午前9時から午後6時までで、残業時間が月に平均22時間もあったそうです。そこで、就業時間を午後5時までに1時間短縮してみた。就業時間が短くなった分、残業時間が増えるのではないかと懸念していましたが、実際はその逆で、13時間に減ったんです。理由は、就業時間を午後6時までに戻されたくないと、今まで以上に懸命に働いて早く帰るようになったからだと。要するに、集中して仕事をする、時間内に仕事を終えるという気持ちがあれば生産性は上がるんです。気の持ちようで生産性を上げられるのが資本主義のいいところで、それをうまく引き出せるかどうかがポイントです。最近は、会議を立って行う部署がありますが、「早く終わりたい」という気持ちになって、効率よく進むようです。かつてのように働く時間の「量」を競うのではなく、働く「質」の向上を目指すのが「働き方改革」なんです。

「働き方改革」の先にあるものは、企業の持続的成長だと思います。繊維業界は厳しい状態が続いていますが、今後はどんな視点が求められるのでしょう。

それは、マーケットインの考え方です。日本のものづくりは、長らくプロダクトアウト主導で進んできました。その結果、世界的に見て日本のメーカーは川上で苦戦し、海外勢が川下でしっかり利益を上げるという構図になってしまいました。かつて岩手県で婦人向け毛織物を手がける会社を訪問したことがあります。得意先の一つは、フランスの高級ブランド「シャネル」。売り値を聞くと、1mで5,000円、1着で1万5,000円とのこと。「本来ならば1m 3,000円の生地だから、儲けさせてもらっています」と満足気に話します。でも、その生地を使う「シャネル」の商品は150万円で売られているわけです。日本が手がけるキープロダクトは競争力があるのに、最終的においしいところは海外勢に取られている。こうした例は、他にもたくさんあります。

消費者は機能だけではなく、デザインやブランドで商品を選んでいます。「シャネル」の服なら、原価が10万円であっても150万円で買う人がいる。掃除機や扇風機も海外メーカーのスタイリッシュな商品が、値段が高くても売れています。日本のメーカーも発想の転換が必要です。例えば、原料から最終製品までを手がけ、消費者との接点をつくり、真のニーズを捉えていく。実際に何がいくらで売れているのかを川上にフィードバックして、次の製品開発に生かしていく。日本には世界に誇れる技術力があります。1社単独では難しくても、日本企業が協力し合い、こうしたマーケットインの発想に変えていけば、繊維業界はもちろん、日本の産業全体がもっとよくなると思っています。

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