2020年、小売業・サービス業に見る省人化最前線

取材先(社名50音順)

株式会社QBIT Robotics 代表取締役社長 兼 CEO中野浩也氏
東芝テック株式会社 リテール・ソリューション事業本部 商品・マーケティング統括部 専門店ソリューション商品部 統括部長平澤豊樹氏
株式会社ファミリーマート 営業本部 営業推進部 店舗改革推進グループ マネジャー田村 剛氏
【COLUMN】 株式会社パラディラボ セルフサービスフレンチ トキオプラージュ ルナティック 店長阿部利幹氏

慢性的な人手不足が続き、人による対面接客を基本としてきた小売業やサービス業の現場は苦しい局面に立たされ、昨今はその厳しい労働環境などが社会問題として取り沙汰されることも少なくない。こうした状況の中、各業界でIoTやAI、ロボティクスなどの活用による省人化・無人化の取り組みが進行している。今回の特集では、最新のテクノロジーを活用し、人手不足の解消とともに、新たな顧客価値創出を目指す各社の動向から、小売業・サービス業の売り場の未来を占う。

人手不足解消策が新たなサービスの価値を生む

小売業などで進む省人化の取り組み

人手不足、人件費高騰を背景に、存続の危機に追い込まれる小売店舗が少なくない中、小売業・サービス業において省人化は喫緊の課題となっている。株式会社ファミリーマートは、2019年度中にセルフレジの導入を5,000台に拡大させることを発表するなど、省人化の取り組みを急ぐ。営業本部 営業推進部 店舗改革推進グループ マネジャーの田村剛氏は、「業務効率化にはさまざまな方法があるが、セルフレジはお客様に店員の業務を移管するソリューション。これにより省人化は進んだが、ピーク時の行列で客離れを招いた例もあり、誰にとっての効率化なのかを考える必要がある」と語り、現在パナソニック株式会社などとともに運営する実証実験店舗においても、さまざまな省人化ソリューションを模索している最中だ。

スーパーにおいては、バーコードスキャンを店員、決済を購入者が行うセミセルフレジの導入が進む。POSシステム最大手で、さまざまなタイプのセルフレジを開発する東芝テック株式会社のリテール・ソリューション事業本部 商品・マーケティング統括部 専門店ソリューション商品部 統括部長の平澤豊樹氏は、「以前はセルフレジが敬遠されがちだったが、最近は人手不足によるサービス低下を補う手段として受け入れられるようになり、飲食店の注文、ホテルのチェックアウトなどもセルフで行うことに抵抗がなくなってきている」と語り、消費者の意識変容がもたらす売り場の未来を見据える。

ロボットによる省人化を目指すのは、ロボットホテルとして話題を集めた「変なホテル」などを手がけたメンバーが創業した株式会社QBIT Robotics(キュービットロボティクス)だ。「『変なカフェ』で作業用アームロボットをサービス業に活用することを試み、人と変わらない速度、味でコーヒーを淹れることができ、店舗としても黒字化できたことで、この分野に大きな手応えを感じた」と語る代表取締役社長 兼 CEOの中野浩也氏は、飲食やサービス業を中心に、ロボット活用の企画・構想から、システム設計・導入支援・運用サポートまでを推進していく構えだ。

体験価値の向上も視野に

QBIT Roboticsが省人化とともに重視するのは、顧客体験価値の向上だ。「効率化だけなら自販機用のカフェマシンで十分。ロボットには、機械にはないコミュニケーション機能があり、相手に合わせたパーソナライズもできる。清掃や皿洗いロボットなどの開発を求められることもあるが、我々はフロントでお客様に楽しんでもらうことを重視している」と話す中野氏は、ロボットの特性を最大限に活用し、売り場に新たなコミュニケーションを創出することを目指している。

ファミリーマートでは、先に触れた実証実験店舗で導入しているスマートフォンアプリによるモバイルオーダーサービスが好評だ。同社の田村氏は、「モバイルオーダーによってレジ待ちがなくなるだけではなく、店舗側にも廃棄が少なくなるなどの利点がある。省人化だけにとらわれず、本質的なサービスの改善という観点からテクノロジーを活用していきたい」と、売り場における課題を丁寧に洗い出し、顧客の体験価値向上に取り組んでいく意欲を見せる。

アパレル業界では、RFIDタグによって生産・物流工程の業務効率化が進められてきたが、近年は店舗での活用も広がっている。東芝テックの平澤氏が、「RFIDを活用したセルフレジは、カゴを置くだけで商品が読み取られるという体験自体が消費者に驚きを与えている。また、RFIDタグを活用した試着時のコーディネート提案など、購買支援にも活用できる」と語るように、RFIDはアパレル小売の現場を大きく変えるソリューションとなりそうだ。

人とテクノロジーが共存する売り場

ここまで業務効率化、体験価値向上という2つの観点から省人化の取り組みについて見てきたが、今後これらを推進していく上ではいくつかの課題も残されている。夜間完全無人店舗などの実験的な取り組みも行っているファミリーマートだが、「現状の法律ではお酒やたばこ、店内調理品などが無人販売できず、単純計算すると一日の売上額は3分の1程度になってしまう。今後は、監督官庁などとも話をしながら、より多くの商品が販売できる方法を考えていく必要がある」と田村氏が語るように、法規制の緩和は一つの課題となっている。

無人販売やロボットの導入など、省人化の取り組みには前例がないケースが多い。「新しい技術を社会に導入するスピード感は『試してダメならやめる』くらいの割り切りで取り組んでいる海外の方が圧倒的に速い。国ごとの文化の違いもあるが、果敢に現場で試行を重ねることも大切」と指摘するのは、東芝テックの平澤氏だ。近年は省人化における実証実験も増えているが、積極的にトライアンドエラーの機会をつくっていくことが今後のカギといえるだろう。

ロボットやRFIDタグなどの導入コストは日に日に下がっており、今後これらのソリューションが売り場に浸透していくことが予想されるが、考えるべきは売り場における人とテクノロジーの関係性だろう。QBIT Roboticsの中野氏が、「単純作業をロボットなどに任せることで、人はより生産的な業務に取り組めるようになる。そこから新しい接客の形が生まれるかもしれないし、店舗におけるロボットのケアや活用法などを考える新たな専門職も生まれるはずだ」と語るように、お互いの強みを生かした人とテクノロジーの共存というのが、近未来の売り場のスタンダードとなりそうだ。

ファミリーマートの省人化ソリューション
ファミリーマートでは、パナソニックなどとともに省人化ソリューションの実証実験中。実証実験店舗での顔認証システムによるセルフレジやモバイルオーダーが好評だ。
東芝テックのリテール事業
東芝テックの柱の一つであるリテール事業では、セルフレジやRFIDなどによるお客様にも働く人にも楽しみを提供するソリューションを推し進めている。
サービス業向けにロボット導入・活用を推進するQBIT Robotics
サービス業向けにロボット導入・活用を推進するQBIT Robotics。売り場に新たなコミュニケーション創出を目指す。