災害大国ニッポンの防災ビジネス

CASE❶ 江崎グリコ株式会社

高い認知度と信頼感を武器に非常用食料の提案を推進

ロングセラー商品「ビスコ」を保存食として展開するなど、さまざまな工夫を凝らした非常用備蓄食料の提案を行っている江崎グリコ株式会社。災害時の利用に期待が寄せられる日本初の乳児用液体ミルク「アイクレオ赤ちゃんミルク」の製品化も実現するなど、防災領域の取り組みを加速させる同社に話を伺った。

江崎グリコ株式会社 セールス本部 第一セールス部 事業開発ユニット グループリーダー 若杉浩伸氏

若杉浩伸

江崎グリコ株式会社 セールス本部 第一セールス部 事業開発ユニット グループリーダー

被災の経験から生まれた「保存用ビスコ」

江崎グリコが最初に取り組んだ非常用備蓄食料は、多くの社員が被災した阪神・淡路大震災の経験から生まれました。震災直後、缶パンや水が提供された避難所で、「同じものばかり食べられない」、「甘いものがほしい」という声が多かったことを受け、クリームが使われ、水分がなくても食べやすい「ビスコ」の賞味期限を通常の1年から5年に延ばして「ビスコ保存缶」としてリリースしました。当初は、「値段が高い」、「子どものお菓子」などと敬遠される向きもありましたが、東日本大震災が起きた2011年には前年比約10倍の売り上げを記録しました。現在では、備蓄する際にスペースを取らず、利用後、ゴミも出ないように工夫されたアルミ真空パックの「保存用ビスコ〈コンパクトタイプ〉」が、多くの自治体や民間企業に備蓄されています。また、「置き菓子」として利用されている「オフィスグリコ」も、定期的にスタッフが賞味期限をチェックしているため、近年では災害時にも役立つと評価され、多くの企業に導入されています。

アウトドアなど備蓄食以外の用途も提案

老若男女に愛されているカレーも、飽きがきにくいことや栄養バランスの良さなどから備蓄食に最適です。我々が展開している「カレー職人」は災害時に温めずに食べられるほか、パッケージの「シズル感」にもこだわり、賞味期限も従来の3年から備蓄食の一般的な基準である5年に延ばしたことで、より備蓄しやすい商品になりました。また、近年はボーイスカウト関連のイベントで紹介するなど、アウトドアをはじめ備蓄食以外の用途に使えることも訴求しています。

最近は、日本初の乳児用液体ミルク「アイクレオ赤ちゃんミルク」も注目されています。お湯や水に溶かす必要がなく、常温ですぐに飲ませられることや、紙パックでゴミ処理がしやすいこと、飲みきりサイズになっていることなどから、緊急時のために備えておきたいと、子育て中のお父様やお母様からのニーズが高まっています。

非常時にこそ安心できる食料を

防災意識の高まりとともに、備蓄食料市場は拡大していますが、震災などの直後は急激に需要が高まる一方、関心がなかなか継続しない状況があることも事実です。しかし、近年の災害は地震のみならず、台風による洪水や土砂崩れなども多く、災害への備えがますます求められる中で、我々も自治体の防災イベントや防災関連の展示会などで、その必要性を訴えています。また、今後は空港や鉄道駅、あるいは商業ビルなどへの備蓄食の提案も推進していきたいと考えています。

日頃から食べ慣れているものを備蓄することを国も推奨しているように、非日常の環境で過度のストレスにさらされる災害時にこそ、安心して食べられる食料が求められます。これからも我々は、多くのお客様に認知されている「ビスコ」をはじめとしたグリコの商品が、災害時に皆様のお役に立てるように努めていきたいと考えています。

「保存用ビスコ」「カレー職人」
「保存用ビスコ」や温めずに食べられる「カレー職人」など、備蓄しやすい商品をラインナップしている。
「アイクレオ赤ちゃんミルク」
お湯や水に溶かす必要がない「アイクレオ赤ちゃんミルク」。常温ですぐに飲ませられるのがうれしい。
「アイクレオ赤ちゃんミルク」体験会
2019年3月に行われた「アイクレオ赤ちゃんミルク」体験会。災害時に役立つミルクとしても認知が進んでいる。