令和時代のサービス最前線

—Part1—

CASE❸ 株式会社INFASパブリケーションズ

ファッション・ビューティ業界における新サービスの潮流と注目すべきキーワード

テクノロジーの進化、生活者意識や社会情勢の変化などを背景に、ファッション・ビューティ業界においても消費者のニーズを捉えた新サービスや、世相を反映した企業の取り組みは多く見られる。その中から、今注目すべきサービスの潮流や業界のキーワードなどについて、ファッション業界専門紙『WWDジャパン』編集長の向 千鶴氏に聞いた。

株式会社INFASパブリケーションズ 『WWDジャパン』編集長 向 千鶴氏

向 千鶴

株式会社INFASパブリケーションズ『WWDジャパン』編集長

個人のニーズに寄り添うテクノロジー

昨今のファッション・ビューティ業界においては、テクノロジーを活用し、パーソナルなニーズを引き出していくような新サービスが続々と登場しています。その象徴的な存在とも言える「YouCamメイク」は、ARやAIの技術を用いて、さまざまなメイクやヘアカラーのシミュレーションができる台湾発のバーチャルメイクアプリです。肌や瞳の色、質感などが人の数だけある中で、顔写真というパーソナルな情報を起点に、テクノロジーを駆使してその人なりのスタイルやニーズを引き出し、ECサイトでの購買にまでつなげるという導線設計が非常に現代的です。また、実店舗でメイクを試すことと同様の体験が気軽にできることもあり、新型コロナウイルス感染が拡大している昨今、ますます需要が高まっています。

新潮流として注目される「フェムテック」

「サステナビリティ」も重要な業界のキーワードですが、中でも私たちが注目しているのは、循環型の取り組みです。すでにいくつかのアパレル企業などは、先進的な商品の回収・循環システムを導入しており、また、昨年「アディダス」が発表した、プラスチック廃棄物由来の単一素材でつくられた100%リサイクル可能なシューズも大きな注目を集めました。特に日本の企業においては、こうした取り組みを通して積極的に理念やメッセージを発信することで、サステナブルな思考や行動の「自分ごと化」を消費者に促し、買い物の動機にもつなげていくことが今後ますます求められるのではないでしょうか。

女性特有のヘルスケアやライフスタイルの課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」の流れも強まっています。最近は、ナプキン不要のサニタリーショーツやピルのオンラインチャットアプリなどを開発する国内のスタートアップ企業も多数出てきており、昨年11月には大丸梅田店がフェムテック関連の商品を取り揃えたゾーンを新設するなど、百貨店の売り場に変化を与えるほどのムーブメントになっています。

「信頼」や「共感」にお金を払う時代に

消費の傾向に目を向けると、「モノ」から「コト」へのシフトの延長として、「体験」の価値が高まっています。体験や思い出など目に見えないものに価値を見出す消費者が増え、その場限りの体験をしたい、時間を過ごしたいという欲求が消費につながっているように感じます。

また、歯に衣着せぬ発言をするユーチューバーなどが支持されているように、さまざまな情報が氾濫し、フェイクニュースなども問題になっている時代だからこそ、本音や本気を重視する傾向も強まっています。最近ではリアル店舗のスタッフが動画で商品やスタイルを紹介し、ECサイトに誘導する取り組みなども見られます。これらはテクノロジーを用いながらも人間味あふれるコミュニケーションで共感を集めている好例だと思いますし、信頼や共感できるものにお金を払うという流れは、今後さらに強まっていくとみています。

『WWDジャパン』『WWDビューティ』の電子版
ファッションとビューティに関する情報が満載の『WWDジャパン』『WWDビューティ』の電子版。定期購読も可能だ。
『WWDジャパン』と『WWDビューティ』が融合した新トレンドブック
『WWDジャパン』と『WWDビューティ』が融合した新トレンドブックでは、2020-21年の秋冬トレンドを総括している。