令和時代のサービス最前線

—Part2—

取材先(社名50音順)

株式会社CAMPFIRE 事業責任者篠原陽子氏株式会社コークッキング 代表取締役社長川越一磨氏
株式会社ハースト婦人画報社『エル・デコ』日本版 ブランドディレクター木田隆子氏株式会社リクルート住まいカンパニー『SUUMO』副編集長 笠松美香氏

シェアリングエコノミーの浸透や環境問題への意識の高まり、加速度的に発展するテクノロジーなどによって生活者のライフスタイルや働き方はますます多様化し、それに伴う消費行動も大きく変化している。繊維月報では前号に引き続き、新時代・令和の生活者を取り巻く「衣・美・食・住」にまつわるサービス事情を特集する。後編では「食・住」に焦点を当て、これからの暮らし方や働き方を見据え、各業界においてユニークかつ革新的なサービスを展開する各社や有識者への取材を通して、令和時代の消費行動の変化や今後のビジネスの動向を探る。

変化を求める生活者との「共感」が次なるビジネスをつくる

「共感」や「善意」が駆動する新時代の消費

企業の生産活動が環境に与える負荷が問題視され、ビジネスを通じてSDGs達成への貢献が求められる中、令和時代の新サービスにおいても、経済・社会・環境のあらゆる面から持続可能な発展に寄与していくことが重要なテーマとなる。

株式会社コークッキングが展開する「TABETE(タベテ)」は、飲食店の余剰在庫と消費者をマッチングさせることで、「フードロス」という世界的な課題に向き合うサービスだ。開発の背景について、同社代表取締役社長の川越一磨氏は、「『フードロス』をはじめ、SDGsに関わる社会課題には生活者から変えていけるものが多い。それを促すためには、余剰在庫を抱えて困っている飲食店を助けることで、『良いことをしている』というユーザー体験を提供する『善意のプラットフォーム』が必要だと考えた」と振り返る。「フードロス」への取り組みをムーブメントにしていくとともに、今後は生産、加工、流通などあらゆる工程における廃棄を削減するために、「食」の二次流通マーケットの確立を目指している。

「TABETE」における「善意」の消費の背景にあるのは、生活者の共感や納得感であり、こうした消費傾向は、「住」の領域にも共通するものだ。インテリアやデザインを中心にライフスタイル全般を扱う株式会社ハースト婦人画報社の『エル・デコ』日本版のブランドディレクター 木田隆子氏は、「インテリアやプロダクトの世界では、生産工程で排出されるCO2を将来にわたってバランスするために植樹などを行う『カーボン・オフセット』の考え方が広がっている。これは、『未来のために良いことをしたい』と考える生活者からも共感を呼び、こうした環境への配慮などをしっかり説明できる商品に消費が集まりつつある」と語り、昨今のつくり手、使い手に共通の意識があることを指摘する。

コロナ禍で強まる「応援」や「投資」への意識

新型コロナウイルスの影響で、飲食店や宿泊施設などのサービス業が苦境に立たされる中、地域の店舗を応援する消費行動が加速しており、その主な受け皿となっているのがクラウドファンディングサービスだ。業界に先駆けて、「新型コロナウイルスサポートプログラム」を立ち上げた株式会社CAMPFIRE 事業責任者の篠原陽子氏は、「4月、5月は、サポートプログラム以外の支援者数、支援額も急伸しており、継続課金型プランの利用者も増えている。コロナ禍において、近所のお店のみならず、身近な個人やコミュニティを継続的に支えていくような消費が増えていると感じる」と語り、オンラインコミュニティなどをプラットフォームとした未来の消費のあり方を示唆する。

昨今のクラウドファンディングサービスの隆盛は、共感・応援を軸にした「投資」という消費の新たな潮流を示すものだ。毎年、住まい領域におけるトレンドを発表している株式会社リクルート住まいカンパニーが運営する『SUUMO』の副編集長 笠松美香氏は、「若者を中心に、共感・信頼できる人との関係性を重視する共感投資型の考え方が広がっている。若い世代ほど消費をしないといわれるが、実は時間や経験への投資欲求は強く、住まいや地域に対しても、どんな経験が得られるかということを重視して選ぶ傾向がある」と語る。こうした志向の延長線上にあるのが、同社が発表した近年のトレンド「デュアラー」、「職住融合」などに代表される、一つの用途や場所にとらわれない住まいの形だといえそうだ。

いかに生活者の変化と向き合えるか

CAMPFIREの篠原氏が、「東日本大震災などの災害では、『復興』が大きな目的に設定されるが、このコロナ禍においては『元に戻す』のではなく、生き方そのものを『変えていく』ことに多くの人が向かおうとしている」と語るように、これを機に生活者のマインドセットは多かれ少なかれ変わっていくはずだ。「最近は自らの専門性を生かして、地方から月に数日だけリモートで会議などに参加し、数万円程度の収入を得ることもできるようになっており、今後は『地方副業』にも注目したい」と『SUUMO』の笠松氏。各企業がリモートワークを推進し、家で過ごす時間が増えるなど生活環境の変化を直に体験したことによって、人々の働き方、暮らし方はより多様になることが予想され、そこには新たなニーズも生まれてくるだろう。

コークッキングの川越氏が、「飲食業界では、デリバリーやテイクアウト消費が広がっているが、その背景には『なくなっては困るお店は買い支えて守る』、『困ったときはお互い様』という生活者の意識がある」と語るように、相手の顔が見えるコミュニティの中で、支え合いの精神に基づいたサステナブルな経済圏を構築していくことも、これからのサービスを考える上での鍵となりそうだ。

「サステナビリティ」、「サーキュラーエコノミー」という昨今の企業活動におけるテーマも、今後、より重要性を帯びてくることは間違いない。『エル・デコ』日本版の木田氏が、「企業にアカウンタビリティが求められるようになって久しいが、企業側にはギミックなしに『愛』を持ってモノやサービスを提供し、人々を元気にさせる『消費』の種を植えていってほしい」と語るように、未来を見据え、変化を求める生活者と真摯に向き合い、新たな消費を促していくことが令和時代のミッションとなるだろう。

CAMPFIREの「新型コロナウイルスサポートプログラム」
CAMPFIREの「新型コロナウイルスサポートプログラム」では、多彩な応援・支援が行われている。
リクルート住まいカンパニーが発表した「デュアラー」
リクルート住まいカンパニーが発表した2019年トレンド「デュアラー」の実施事例には都市と里山をつなぎ、「第二の故郷」として自由に行き来する関係を目指すプロジェクトもある。
「フードロス」削減のためのプラットフォーム「TABETE」
「TABETE」は廃棄危機にある食事を「食べ手」とつなぐ「フードロス」削減のためのプラットフォームだ。
『エル・デコ』はオンラインでも展開されている
『エル・デコ』ならではの視点で厳選したデザイナーズ家具やおしゃれな文具といった最新情報がオンラインでも展開されている。