令和時代のサービス最前線

—Part2—

CASE❸ 株式会社ハースト婦人画報社

共感できるストーリーが消費者の暮らしを満たす

消費者の趣向やライフスタイルの変化、気候変動をはじめとする環境問題などによって、暮らしを彩るインテリアや建築の世界にも大きな変化が訪れている。インテリア、デザインを中心にライフスタイル全般を取り扱うグローバルマガジン『エル・デコ』日本版のブランドディレクター 木田隆子氏に、昨今のデザイン界のトレンドや消費欲求の変化などについて取材した。

株式会社ハースト婦人画報社 『エル・デコ』日本版 ブランドディレクター 木田隆子氏

木田隆子

株式会社ハースト婦人画報社 『エル・デコ』日本版 ブランドディレクター

既存のものに付加価値を与える

近年のインテリア、デザイン分野では、地球や自然との共生がものづくりの大きなテーマになっています。「サーキュラーエコノミー」、「サステナビリティ」というキーワードのもと、環境負荷の少ない商品開発をすることが、企業やブランドの重要な課題であり、マーケティングやPRにおいても大切な要素になっています。これらのテーマにいかに真剣に向き合っているのかということが消費者からも問われる時代において、素材の吟味などはもちろんですが、高額家具のレンタルサービスや、古い建物の魅力を活かすリノベーションなど、新たにモノや建物をつくるのではなく、すでにあるものをシェアしたり、再生することで付加価値を与えるような取り組みが、若い世代のつくり手を中心に広がっています。

背景にあるストーリーを消費する

近年の消費者は、インテリアや暮らしの道具にストーリー性を求める傾向が強く、象徴的な事例として、コクヨ株式会社が主催する「コクヨデザインアワード2020」でグランプリを受賞したユニット「オバケ」による「いつか、どこかで」という鉛筆があります。廃材からつくられた前世を持つ鉛筆で、側面には材料となる木が使われていた建物や家具の場所が記されています。「廃材が持つ記憶」というプロダクトの背景にあるストーリーは、「大量生産される工業製品とは異なるものが欲しい」、「未来のために環境負荷が少ないものを大切に使いたい」という昨今の消費者の欲求を刺激するものですし、そこに「愛」が感じられるということも非常に大事な要素だと思います。同時に、消費者にとってこうしたプロダクトを持つということは、背景のストーリーを語ったり、環境への意識やセンスの良さを示すなど、周囲とのコミュニケーションのきっかけにもなっています。

コロナ禍から考えるデザインの未来

新型コロナウイルスの影響によって、私たちは環境負荷の軽減と経済の活性化を両立させることの難しさに直面し、デザイン業界におけるミッションもますます大きくなっているといえますが、これはクリエイターたちの知恵を駆使するための好機と捉えることもできます。これを機に、消毒や抗菌、換気などに配慮した建築やプロダクトが増えると思いますし、家庭で過ごす時間が増えたことによって、キッチンツールや食器、手仕事の道具などの需要も高まっており、新たなデザインの潮流が生まれてくるはずです。

また、フェイスシールドのデザインが話題を集めた吉岡徳仁さんや、パンデミックから命を守るための知恵をまとめたサイト「PANDAID」を立ち上げた太刀川英輔さんのように、必要なタイミングでソーシャルなミッションに応えようとするデザイナーも少なくはありません。モダンデザインは、「戦後復興」のミッションのもとで輝きを放ちました。ポストコロナの時代においては、失われた人々の暮らしや関係性を修復・更新していく新しいミッションがデザインにも求められると思います。

『エル・デコ』日本版
『エル・デコ』日本版。インターナショナルなインテリア誌『エル・デコ』と連動し、雑誌やオンラインで国内外のライフスタイルの最新トレンドを届けている。