令和時代のサービス最前線

—Part2—

CASE❹ 株式会社リクルート住まいカンパニー

ひとつの場所や用途に依存せず「都度最適」に考える住まいのカタチ

株式会社リクルート住まいカンパニーは、住まい領域におけるトレンドとして2019年に「デュアラー」を、2020年には「職住融合」を発表した。一つの場所、用途に限定されない住まいのあり方が注目されている背景にある生活者の意識変化などについて、同社が運営する不動産情報サイト『SUUMO』の副編集長 笠松美香氏に取材した。

株式会社リクルート住まいカンパニー 『SUUMO』副編集長 笠松美香氏

笠松美香

株式会社リクルート住まいカンパニー 『SUUMO』副編集長

新時代の2拠点生活者「デュアラー」

これまで2拠点生活というと、時間やお金に余裕がある人の豪華な別荘などが想起されましたが、近年は空き家やシェアハウスを活用し、安価で気軽なデュアルライフを楽しむビジネスパーソンやファミリー層の「デュアラー」が増えています。その背景には、都心一極集中が進む中で高まる田舎暮らしへの憧れ、大規模災害による価値観の変化などがあり、以前に比べて都市と田舎の往来が一般化したことなども影響しています。

各地のゲストハウスをネットワーク化し、月額制で宿泊できる多拠点コリビングサービスなど、「デュアラー」をサポートするビジネスも生まれてきています。また、国も2拠点生活の推奨を通して地域の交流人口を増やす政策を取っており、一部の大企業では地方自治体と提携してサテライトオフィスに社員を派遣し、自らのスキルを地域で活かす機会をつくる動きが見られます。

テレワーク浸透で加速する「職住融合」

2020年に発表した「職住融合」は、テレワークを前提とした家選び、街選びの潮流です。近年は自宅の一部をオフィス仕様にする「家なかオフィス化」、コワーキングスペースやカフェなどで仕事をする「街なかオフィス化」が加速し、室内や共用部にワークスペースを取り入れた物件も増えています。

家選びのトレンドが「職住近接」から「職住融合」に移行することで、郊外への移住の動きも見られ、今後サテライトオフィスやコワーキングスペースが増えることで、かつてのベッドタウンが働ける街に変わっていくことも予想されます。

昨今の新型コロナウイルスの影響によってリモートワークが浸透する中で、今後は採用時に居住地を自由に選択できるという条件などをつけて人材を確保する企業も増えそうですし、学校教育のオンライン化などを差別化のポイントとして打ち出す自治体なども出てくるのではないでしょうか。

キーワードは「都度最適」な住まい

現在のコロナ禍によって、自分が本当に大切にしたいものと向き合ったり、「都心」と「田舎」に対する考え方や価値観が変化したりすることで、職場との距離にとらわれず、好きなエリアで暮らしたいと考える人は増えるはずです。今後、「ふるさと納税」に続く地域への納税の仕組みや子育て支援体制の整備、企業の副業推進、教育のオンライン化などが進むことによって、住まいの自由度はより高まるのではないかと見ています。

「デュアラー」や「職住融合」のみならず、パブリックとプライベートの垣根が低いシェアハウスなどにも顕著なように、定住するプライベート空間だけが住まいの在り方ではないという考え方が広がりつつあります。今後は、住まい、仕事、教育などあらゆる面で、一つのものや場所に依存せず、必要なときに必要な分だけを準備し、コロナ禍のような不測の状況にも対応できる「都度最適」の考え方が、暮らしにおけるキーワードになるのではないでしょうか。

テレワーク活用を契機に都心から郊外へ引っ越す動き
テレワーク活用を契機に、都心から郊外へ引っ越す動きも。広々とした住まいと自然豊かな環境で子育てをする事例も少なくない。