ファッションと出会う新しい機会を創出する

取材先(社名50音順)

株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO天沼 聰氏株式会社CODESHARE 代表取締役社長江島晋一氏
スタイラー株式会社 代表取締役 CEO小関 翼氏株式会社SPRING OF FASHION 代表取締役保坂忠伸氏

新型コロナウイルス感染拡大の第二波、第三波の発生が危惧される中、2020年5月に政府が発表した「新しい生活様式」では、買い物に際して、「通販も利用」や「計画をたてて素早く済ます」、「1人または少人数で」、「展示品への接触は控えめに」などが提言されている。ビジネスの進め方や消費者に対するサービス提供のスタイルを大きく転換しなければならなくなってきた今、インターネットやITを駆使してファッションとの新たな出会いの機会を提供している各社への取材を通じ、withコロナ時代のファッション×テクノロジーの在り方などを探る。

テクノロジーで叶えるこれからのコミュニケーションとは

withコロナ時代は購買体験も変化

withコロナ、afterコロナ時代を見据えたビジネスモデルやワークスタイルの転換が各企業に迫られる中、ファッション業界においても、テクノロジーを活用してファッションとの新たな出会いを創り出そうとする動きが加速している。

新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2、3月には、自宅で完結できるレンタルサービスを提供して会員数を伸ばし、その後もサブスクリプションモデルの強みを生かして堅調に売上を維持してきた株式会社エアークローゼットは、5月より自宅で試着から購入まで完結できるECサービス「airCloset Fitting(エアクロフィッティング)」を開始した。「店頭でのコミュニケーションを通して買い物を楽しんだり、ECで多くの選択肢からお洋服を選ぶ体験の価値は今後も変わらないが、コロナ禍で新たなニーズが生まれている中で、これまでとは異なる買い物の在り方を提案していきたい」と語るエアークローゼットの代表取締役社長 兼 CEO 天沼 聰氏は、自社のテクノロジーを活用し、ファッションとの出会いの選択肢を増やすことに意識を向けている。

実店舗への集客が難しくなっている中、ECに依存せず、実店舗のデジタル化という選択肢を提案しているのは、ユーザーと店員をアプリ上でつなぎ、消費者のニーズと実店舗のアイテムをマッチングさせる「FACY(フェイシー)」だ。オンライン・オフラインが融合した買い物体験を提供する同サービスを運営するスタイラー株式会社の代表取締役 CEO 小関 翼氏は、「最近は商業施設のデジタル化の相談も増えているが、カギは実店舗の顧客をオンライン上のコミュニケーションでつなぎとめること。今後、店頭スタッフにはオンラインでのコミュニケーションや販売のスキルが求められ、それらが新しい評価軸の一つになり得る」と、afterコロナ時代のスキルや人事評価基準についても示唆する。

体験や熱量を伝えるコミュニケーション

「FACY」と同様に実店舗の拡張を目指し、試着という店舗ならではの体験を変えようとしているのは、試着した状態で最大120分間外出し、撮影した写真をSNSに投稿できるサービス「KITEKU(キテク)」だ。「今後店舗は洋服を売る場から、体験を提供する場にシフトしていく。情報チャネルが細分化する中、小さなコミュニティをキャッチアップしていくことが各ブランドに求められている。店舗を情報発信の装置に変え、個々の発信を促すことで、店舗をサポートしていきたい」と語る株式会社SPRING OF FASHIONの代表取締役 保坂忠伸氏は、ユーザーが試着画像のSNS投稿を通じてフォロワーに商品の購買を促し、報酬が得られる新しいプラットフォームの準備も進めている。

他社に先駆けてInstagramをマーケティングに活用してきたEC「fifth(フィフス)」では、スタッフがおすすめの商品やコーディネートを紹介し、消費者とリアルタイムでコミュニケーションする「インスタライブ」で驚異的な売上を記録している。同サイトを運営する株式会社CODESHAREの代表取締役社長 江島晋一氏が、「ファッションは『人』に依存しているマーケットで、それはテクノロジーが発展した現在も変わらない。最近は販売員がオンラインで商品を売るケースも多いが、ブランドや商品へのロイヤリティや想いが集客や消費喚起につながっている」と分析するように、「コト消費からヒト消費へ」などといわれる時代に、オンライン上での熱量のあるコミュニケーションの重要性はますます高まっている。

コロナ禍から考える未来のビジネス

新型コロナウイルスの感染拡大によって世界が大きな転換期を迎えている中、スタイラーの小関氏は、「リモートワークをはじめ以前から進んでいた社会の変化は助長され、ファッション業界におけるOMO(Online Merges with Offline)やニューリテールの潮流も加速する」と、afterコロナのさらに先を睨みながら、「FACY」のアップデートを進めている。仕事が激減したスタイリストの登録が相次ぎ、今後加速が予想される副業やオンラインによるスキル活用の可能性を示したエアークローゼットの天沼氏が、「新型コロナウイルスという共通の敵と闘った経験は、地球という存在に人々の意識を向けさせた。我々は今後もシェアを通じてお洋服の廃棄を減らし、サーキュラーエコノミーを推進したい」と語るように、サステナビリティという人類共通のテーマにテクノロジーが果たす役割もより大きくなるだろう。

CODESHAREの江島氏が、「社会貢献の一環で販売したマスクにもいえることだが、多くのお客様と直接コミュニケーションをする中で、ニーズに合わせた商品を提供できる環境を構築してきたことが我々の大きな強みであることを実感した」と語るように、顧客との継続的な関係の構築が持続可能なビジネスには欠かせないことも浮き彫りになりつつある。そして、「顧客とのコミュニケーションの原点はリアルな場にあり、オンラインはその拡張でしかない。テクノロジー全盛の時代だからこそ、お客様への気遣いや思いやり、関係性の構築力が求められる」とSPRING OF FASHIONの保坂氏が強調するように、時間的・距離的な制約を解き放つテクノロジーによって、人と人とのコミュニケーションを強化することが、afterコロナ時代の一つの形といえそうだ。

提案型ファッションEC「airCloset Fitting」
上/ファッションレンタルサービスを提供するエアークローゼットが、試着・購入・返却までを自宅で体験できる提案型ファッションEC「airCloset Fitting」をスタートさせた。
下/今年4月に始動したCODESHAREによる「fifth」のYouTubeチャンネル。「インスタライブ」との併用により幅広い層へのリーチを見込んでいる。
スタイラーの「FACY」
スタイラーの「FACY」では、欲しいアイテムのイメージを投稿するだけで、ショップ店員から商品が提案され、質問、購入などができる。
SPRING OF FASHIONの「KITEKU」
SPRING OF FASHIONの「KITEKU」は、試着によって気分が高まる店舗ならではの体験価値を提供している。