地方発! “あえて”の魅力

CASE❶ 株式会社石見銀山群言堂グループ

地域への滞在を促し感動価値を伝えるブランディング

世界遺産・石見銀山の山間に佇む島根県大森町に根差し、全国に31店舗を構える「群言堂」ブランドをはじめ、古民家を再生した宿泊施設や飲食店の運営などを通じて、日本の美しい生活文化に光を当ててきた株式会社石見銀山群言堂グループ。同社を創業した松場大吉氏に、その歩みや理念、地域とのつながりなどについて聞いた。

株式会社石見銀山群言堂グループ 会長 松場大吉氏

松場大吉

株式会社石見銀山群言堂グループ 会長

日本の美しい生活文化を伝える

私は、今から40年近く前に故郷である島根県大森町にUターンし、妻の登美が手づくりするエプロン、キッチン小物、インテリアなどの雑貨ブランド「BURA HOUSE」を行商しながら売り歩くようになりました。8年ほどの行商時代を通して売上は順調に伸び、1989年に人口400人程度のこの地に出店、1994年には日本のものづくりをテーマにしたブランド「群言堂」に転換しました。そこからおよそ30年を経た現在、全国に31店舗を構え、5,000万円からスタートした年商は24億円にまで拡大し、180名ものスタッフを抱えるまでになりました。

私たちは「復古創新」を合言葉に、日本の美しい生活文化を次世代に伝えることを理念に掲げており、アパレルのみならず、「暮らす宿」をテーマに古民家を再生した2つの宿泊施設を石見銀山で運営しているほか、東京にも「食」をテーマにした店舗などを展開してきました。

来訪者をファンにする地域づくり

現在、石見銀山の本社で働くメンバーはおよそ70名で、約半数は田舎暮らしをしながらこの地で働くことを志望し、Iターンでやって来た若者たちです。中には「群言堂」ブランドの運営とは別に、大森町での暮らしを伝えるフリーペーパーの制作や、景観づくりの一環で農業に従事しているスタッフもいます。これらは企業からすると非生産的な取り組みとも捉えられ、大きなチャレンジではありますが、彼らの活動を通して、石見銀山のことや大森町での暮らしに興味を抱いてくださる方たちが増えています。

こうした方々に実際に足を運んでいただくことが私たちの最大の目標であり、お越しの際には必ずファンになっていただけるように、店舗や宿泊施設などを充実させてきました。この地に滞在されている間に、「衣」、「食」、「住」あるいは地域の景観などを通して大きな感動価値を提供していくことでリピーターのお客様が増え、この地を去られた後もECサイトでの商品の購入などを通して応援してくださっています。

石見銀山の地域ブランドを目指す

私たちは、「登美」「根々」など複数のブランドを展開してきましたが、昨今のコロナ禍を受け、「群言堂」ブランドとしていかに次世代に伝えていくかという観点で、これからの有り様について改めて考えているところです。また、4月から実店舗を休業したことで売上は大幅に減りましたが、現在はこれを好機と捉えて自社ECの強化を図っており、同時に原点である行商スタイルで全国各地を回りながら、自分たちの思いを伝えていくような直接販売にもより力を入れていくつもりです。

コロナ禍を通じて「連携」、「調和」、「協調」の重要性を強く感じた経験から、今後は紡績、染色、生地をはじめ地域内での循環を見据えたサプライチェーンの構築、あるいは「食」や観光などさまざまな取り組みを通して地域の方々を巻き込む地域一体型経営を目指し、石見銀山地域のブランディングにも貢献できるよう、努力を重ねていきたいと考えています。

「群言堂」本店
古民家を再生してつくられた本店。基礎石が模様のように並ぶ店内にアイテムがゆったりと配置されている。
「群言堂」のInstagram
コロナ禍をECの強化を図るチャンスと捉え、Instagramでも積極的に発信。