地方発! “あえて”の魅力

CASE❷ 株式会社エタブル

ローカルのつながりを大切にし暮らし全般を提案するファッションブランド

国内の美大で建築を、ベルギー・アントワープでファッションを学んだ新居幸治氏と、スペイン・バルセロナで革工芸の経験を積んだ新居洋子氏が2007年にスタートさせた株式会社エタブル。2016年には熱海の商店街にアトリエを併設した「EOMO store(イーオーエムオーストア)」をオープンし、地元客や観光客、遠方からのファンが足を運ぶ。熱海という地域に密着し、世界的に注目されるクリエーションを発表し続ける二人を取材した。

株式会社エタブル 新居幸治氏 新居洋子氏

新居幸治 新居洋子

株式会社エタブル

理想の製作環境を求めて移住

2007年にヨーロッパから帰国した私たちは、革工芸や木工ができる十分なスペースがあり、自分たちも暮らせる物件を探していたところ、熱海の空き家と出会い、この地に移り住みました。当初から地域の素材や地元の人の技術をクリエーションに取り入れることは意識しており、拾ってきた流木を用いたバッグなどを製作してきました。また、天然の素材や、染織、革のなめしなどの製法を追求するものづくりをしているのですが、こうした面においても熱海を拠点にしたことはプラスに働き、繊維関係の工場や資材の仕入れ先などが車で移動できる範囲にあるので、ものづくりの環境として困ることはありませんでした。

ブランドを始めて3〜4年経った頃から地域の人とのつながりも強く意識し始め、昨年開催した熱海市民をモデルにしたファッションショー「熱海コレクション」などに至っています。

地元商店街にオープンしたショップ

2016年からは革製品の「EATABLE(エタブル)」、洋服の「Eatable of Many Orders(エタブルオブメニーオーダーズ)」にブランドを分け、熱海銀座商店街に「EOMO store」もオープンしました。街の中に拠点ができたことで地元の方との接点も増え、お祭りの衣装や山車などのデザインを依頼されるなど、地域とのつながりが一層強まりました。さらに国内外の観光客や週末に別荘に帰ってくる方、以前からのブランドのファンの方まで幅広い世代の方が店を訪れてくださっています。

これまでは年2回、パリとニューヨーク、東京で展示会をしてきたのですが、ここ数年、業界のサイクルに縛られたクリエーションに限界を感じるようになりました。今後はシーズンにとらわれず、自分たちのペースでクリエーションした製品を、卸先の要望を反映してアレンジ対応したり、エンドユーザーにダイレクトに届けられる体制を充実させるために、実店舗とECで連動した企画を強化するなど工夫をしていくつもりです。

本当に必要とされるものを提供する

先日、取引先からの依頼でマスクをつくったのですが、このようなときに手元にある材料ですぐにものをつくって出荷したり、お店でそのまま販売できる体制があることの価値を実感しました。各所での展示会を通じて卸先を増やすことを目標にしていた時期もありましたが、今は本当に必要とされるものをお客様に届けていきたいという思いが強くなっています。先のマスクにしてもそうですが、洋服だけがファッションではないですし、服づくりの際に出てしまう端切れを臨機応変に小物などに活用していくことは無駄をなくすことにもつながります。

最近はローカルのつながりからバーの改装や蚊帳のデザインなども手がけているのですが、今後はファッションデザイナーとして培ってきた発想や技術をインテリアや空間などにも広げ、生活全般の提案ができるブランドになりたいと考えています。

「BEE POLLINATION」
蜂と花と人間のつながりから発想した「BEE POLLINATION」。コレクションの端切れを使用した小物の展開も強化していく。
「熱海コレクション」
熱海市民をモデルにした「熱海コレクション」も開催した。