懐かしくて新しい!? 新「レトロ」ブームの舞台裏
[対談]高野光平氏 × 小原直花氏 若者世代はなぜ「レトロ」に価値を見出すのか(中)
近い過去である80年代に惹かれる若者世代
小原:先ほど、『ALWAYS 三丁目の夕日』に描かれていた昭和30年代という時代の空気感についてお話しいただきましたが、現代の若者にとっての「レトロ」には、こうした時代のムードのようなものも含まれているのでしょうか。
高野:例えば、平野ノラさんや「バブリーダンス」によって広まった「バブル」というものを、彼らは「元気なイメージ」という時代のムードとセットで捉えています。ちなみに、学生に行ったアンケートでは、「昭和っぽい」と聞いて思い浮かべるものとして、「松田聖子」、「ファミコン」、「中森明菜」など1980年代に流行したものを挙げる回答が多く、この時代に親近感を覚えているようです。
小原:例えば、1970年代まで遡ってしまうと、若者たちの「レトロ」の範疇から外れてしまうのでしょうか。
高野:外れるわけではないのですが、親近感はないですね。1970年代以前のことは得られる情報が少なく、時系列やディテールが理解できないので、「ちゃぶ台」とか「白黒テレビ」とか、極度にステレオタイプ化されたイメージしかありません。一方で1980年代は、当時の映像をSNSで目にしたり、親世代から話を聞いたりしてイメージが豊富なんです。例えばアイドルオタクの年齢層は10~60代と幅広く、世代を超えたコミュニティが形成されており、そこで上の世代から80年代の情報を得ることもあるようです。
小原:時代のムードや当時の世界観を自分たちなりに感じ取れるものを、「レトロ」なものとして受け入れているところがあるのですね。
高野:はい。ただし、「レトロ」というものは興味を持つ人、持たない人の個人差が大きいので、若者全員が1980年代に対して同じムードや世界観を共有しているとまではいえません。一方で、彼らにとっての「ノスタルジー」、例えばガラケーや「ムシキング」、初代「プリキュア」など2000年代前半~中盤に流行ったものは、その時代を共有している人たちの間では非常に盛り上がる話のネタになるわけで、それと比べれば「レトロ」の連帯感はやや弱いと思います。