懐かしくて新しい!? 新「レトロ」ブームの舞台裏
CASE❷ タワーレコード株式会社
新しい音楽の楽しみ方としてアナログ盤レコードの魅力を発信
定額制のストリーミングサービスが台頭し、CDの売れ行きが下降線をたどっている音楽業界だが、近年はアナログレコードの売上が年々高まっている。こうした潮流を受け、タワーレコード株式会社は2019年に同社初となるアナログ盤レコード専門店「TOWER VINYL SHINJUKU(タワーヴァイナルシンジュク)」をオープンさせた。同社担当者に、今、レコードが若い音楽ファンたちから支持されている背景などを取材した。

青木太一氏
タワーレコード株式会社 旗艦店舗統括部 新宿店
成長を続けるレコード市場
当店では5、6年ほど前からアナログ盤レコードの売れ行きが好調で、音楽業界全体を見ても直近5カ年の平均成長率がおよそ120%となっています。新譜をCDではなくレコードでリリースする国内アーティストも増えており、CDよりコストも時間もかかるレコードをあえて選んでいるという事実も、昨今のニーズの高まりを示しています。
レコードからCD、ストリーミングと音楽を楽しむフォーマットは増えていきましたが、アナログ盤は姿を消していたわけではなく、音質にこだわるコアなファンやDJらが、小さいながらも堅実にマーケットを支えてきた歴史があります。それに加えてここ数年はコレクターズアイテムとしての需要の高まり、音楽のデジタル化に対するカウンターなどが相まって、レコードに興味を示す層が広がっているように思います。
初めてのアナログ盤レコード専門店
渋谷店では2016年に、伝説的なレコードショップ「パイドパイパーハウス」をショップインショップという形で復活オープンさせました。当初は期間限定の予定でしたが、往年のファンから若い世代まで非常に反響が大きかったことから営業期間を延長し、今年7月からは「TOWER VINYL SHINJUKU」にも展開を広げています。
この「TOWER VINYL SHINJUKU」では、レコード専門店として都内随一の広さを誇る開放感あるフロアに、アナログ盤を良い音で体験できるスピーカーやプレーヤーを設置し、アナログ盤ファンの裾野を広げることを目指しています。現在の主な顧客層は40代以上の音楽ファンですが、日に日に若いお客様の来店も増えています。中には、好きなJ-POPのアーティストのレコードを買われる方や、ジャズの名盤を良い音で聴きたいという方などがおり、レコードプレーヤーを買われていくお客様も少なくありません。
音楽と向き合える新たな体験
若い世代にとってレコードは決して懐かしいものではなく、むしろ新しくてクールな音楽の楽しみ方として受け入れられています。モノとしての魅力があるレコードは部屋に飾ることもできますし、デジタルにはない音質に惹かれ、アナログ盤ファンになった方も少なくないはずです。ストリーミングで延々と再生される音楽をイヤホンで聞き流すのではなく、自宅のプレーヤーでレコードをひっくり返しながら聴くという音楽との向き合い方も新鮮に捉えられていると思いますし、コロナ禍ではますますこうした体験へのニーズも高まっています。
あらゆる音楽が簡単に聴けるストリーミング配信は非常に便利で画期的なものですが、便利過ぎることで音楽との関係性が希薄になってしまう側面もあるはずです。ストリーミング、CD、レコード、カセットなどにはそれぞれの良さがあり、ユーザーの視聴スタイルに応じた多様な選択肢があるということが、音楽をより身近な存在にしていく上では重要だと感じています。


