VUCA時代を生き抜く老舗企業の戦略

CASE❹ マルコメ株式会社

時代の変化を乗り越える「即断即決」の企業文化

1854年に長野で味噌、醤油醸造業として創業したマルコメ株式会社は、だし入り味噌「料亭の味」、フリーズドライ製法の「固形みそ汁」、液状タイプの「液みそ」など革新的な製品を次々と開発し、業界トップの座を確固たるものにしてきた。食生活の変化によって消費者の味噌離れが進む昨今は、味噌の原材料である「米糀」「大豆」を用いた新製品を市場に投入し、消費者の支持を広げている同社を取材した。

マルコメ株式会社 マーケティング部 広報宣伝課 多和彩織氏

多和彩織

マルコメ株式会社 マーケティング部 広報宣伝課

業界に革新をもたらした施策や製品開発

当社は、1960年に味噌の出荷を「樽」から「ダンボール」に切り替え、小売店から支持を集めたことを皮切りに、流通や生活環境の変化に合わせて、業界に先駆けた施策や製品開発を行ってきました。中でも、1982年に発売しただし入り味噌「料亭の味」は爆発的なヒット商品となり、それ以降も2009年に発売した液状タイプの「液みそ」、特許製法のフリーズドライ「顆粒みそ」など、業界にさまざまな革新をもたらしてきました。

2012年に「塩糀」や「糀甘酒」といった糀製品を展開する「プラス糀」ブランドを、2015年には「大豆のお肉」や「大豆粉」シリーズを展開する「ダイズラボ」ブランドを立ち上げました。製品づくりにおける考え方は一貫しており、創業以来味噌づくりで培ってきた発酵技術や原料に対する知見を生かし、「ヘルスコンシャス」を第一に据えた開発を続けています。

「個」を重視する自律分散型組織

「料亭の味」を発売した当時、味噌にだしを入れることは業界のタブーでしたが、当時の社長であった青木佐太郎(現会長)の「周囲が反対する商品にこそ商機がある」という考えのもと開発に着手したことがイノベーションにつながりました。当時はオーナー企業ならではの意思決定の速さが強みでしたが、現在は自律分散型の組織を標榜しており、経営陣が製品開発にタッチすることはありません。現場で働く社員個々人が、世代や組織を超えた議論を日常的に重ねながら企画開発にあたっており、これは社員400名程度の規模だからこそ実現できることだと感じています。

当社は商品開発における市場調査に重きを置いておりません。もちろんマーケットインの考え方も大切ですが、それ以上に社員自身がやりたいこと、やるべきこと、やれることを理解した上で、自分たちがつくりたいもの、事業を通じて社会貢献し得る付加価値を世に送り出す、ということを大切にしています。

コロナ禍に生きた意思決定の速さ

ときには新たな施策が失敗することもありますが、大切なのは「同じ轍を踏まないこと」、「スピード感を持って軌道修正していくこと」です。失敗を恐れず「即断即決」を重んじる社風は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた在宅ワークへの早期切り替えや、コロナ禍のさまざまな施策の実現にも寄与したと感じています。

コロナ禍においても当社の売上は伸びました。その背景として、家庭内食の需要や免疫力に対する意識の高まりなどが挙げられます。また、スーパーなどでの滞在時間を短くしようとする消費者心理や試食販売ができない売場環境など、コロナ禍特有の制約も、これまでに築いてきた当社ブランドの認知度が大きな追い風になりました。決して当社に時代を読む先見の明があったわけではなく、唯一の取り柄ともいえる「スピード重視」の取り組みを積み重ねてきた優位性が、結果的に功を奏したものだと感じています。

大ヒット商品となった「料亭の味」(1982年)と液状タイプの「液みそ」(2009年)
業界のタブーを乗り越え、大ヒット商品となった「料亭の味」(1982年)。その後、液状タイプの「液みそ」(2009年)や顆粒タイプなども販売され、市場や使用方法を拡大している。
多彩な糀製品や大豆製品を展開
「ヘルスコンシャス」を第一に、多彩な糀製品や大豆製品を展開。サイトでは、レシピや使い方なども紹介し、普及を促している。
創業以来受け継がれてきた発酵技術
創業以来、受け継がれてきた発酵技術は、今も盛んに研究開発が進められ、次代へとつなげられていく。