2020年のコロナ禍に芽生えた新たな消費の可能性

CASE❷ 株式会社日経BP

ポストコロナの消費のカギは唯一無二の体験価値

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、新しい生活様式へのシフトが進んだ2020年に、消費者の欲求や行動原理にはどのような変化が生まれたのか。デジタル時代における消費の動向を追う、マーケティング専門のオンラインメディア『日経クロストレンド』の副編集長 佐藤央明氏に、2020年の消費トレンドや2021年の注目市場についてうかがった。

株式会社日経BP 日経クロストレンド編集部 副編集長 佐藤央明氏

佐藤央明

株式会社日経BP 日経クロストレンド編集部 副編集長

コロナ禍に浮上したキーワード

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年は、「フェーズフリー」、「不便益」が消費における2つの大きなキーワードといえます。震災や台風などの自然災害からリーマンショック級の経済危機までが勃発する昨今、もはや「平時」という概念が通用しない世の中になってしまっています。今回のコロナ禍がさらにそれを後押しする形となり、キャンプ用品やワークウエアなど、平常時・災害時といった社会のフェーズに関わらず使えるモノへの消費欲求はますます高まっています。また、コロナ禍の自粛生活に対して、不便な状況を前向きに楽しみ、新しいことにトライする動きが強まったことも印象的でした。

ここ数年、ふるさと納税、クラウドファンディングなどの「応援消費」が広がっていましたが、今年はここに、苦しんでいる外食業界を助けるための「前売りの食事券」などが加わりました。これまでの「応援消費」は、被災地の食材を積極的に購入するなど「直接は知らない誰か」への応援でしたが、コロナ禍での特徴は、行きつけの店など「知っている人を助けたい」という、より本質的な応援だったと感じます。

オンライン体験の本質的価値とは

移動などの自粛で、さまざまな体験がオンラインに移行されたことも2020年の大きな特徴です。サザンオールスターズの無観客ライブ配信に顕著だったように、オンライン上で同じ時間を共有する「トキ消費のオンライン化」ともいえる現象が起きており、国境を越えて同じ時間を楽しむ消費のあり方は、アフターコロナ時代にも残るのではないでしょうか。

「バーチャル旅行」をはじめとした疑似体験サービスも多く見られた一年でしたが、これらの中には一過性のものも少なくないように感じています。VR・AR技術を用いたオンラインサービスの本質的な価値は、オフラインでの体験をそのまま再現することではなく、あくまでもそこでしかできない体験ができること。その点、スタジアムに足を運んでも得られない視点からスポーツが楽しめる「バーチャル観戦」などには今後も注目していきたいと考えています。

ますます強まるリアルな場の重要性

2021年は多くの業種・業界にとって「復活」、「リハビリ」の一年となりそうですが、その中でも間違いなく加速するのはデジタルシフトの流れです。AIの活用領域はますます広がるはずですし、2021年要注目の分野としては「フードテック」などが挙げられます。

消費者のニーズに目を向けると、気軽に出歩きにくくなったからこそ、外出時には贅沢な買い物や非日常的な体験を求める動きが加速しており、リアルな場の価値がますます高まってくるはずです。先日、群馬県の土合駅にオープンした、無人駅の新たな価値を提供しているグランピング施設「DOAI VILLAGE(ドアイビレッジ)」のように、非日常を徹底的に追求したビジネスには注目していきたいですし、「体験価値」という観点から自分たちの資産や事業に改めて目を向け、新たな可能性を見出していくことが、あらゆる業種・企業において大切になるのではないでしょうか。

「日経トレンディ」による2020年のヒット商品
「日経トレンディ」による2020年のヒット商品。
2021年ヒット予測の第1位「無人駅&辺境グランピング」
2021年ヒット予測では、「無人駅&辺境グランピング」が第1位に。ニューノーマルな時代のトレンドは、今までにない掛け合わせがエンタメを進化させると予測。