2020年のコロナ禍に芽生えた新たな消費の可能性

CASE❸ 名阪近鉄旅行株式会社

ファンベースの発想から生まれた未来の応援者との新たな接点

2020年7月から9月にわたって開催され、メディアやSNSなどでも話題となった名阪近鉄旅行株式会社の「バス車庫巡りツアー」。コロナ禍で移動が制限された2020年、地元の応援や近隣の観光資源の見直しなど新しい消費の形が芽生えたが、一人の社員の熱量から生まれた同企画は、未来の応援者となり得るファンづくりという観点からも注目されている。

名阪近鉄旅行株式会社 ツアー営業部 販売課 田中圭子氏

田中圭子

名阪近鉄旅行株式会社 ツアー営業部 販売課

逆境から生まれたツアー企画

当社は愛知、岐阜、三重の東海3県で貸切バスや路線バスを運行する名阪近鉄バス株式会社の子会社で、観光バスによるツアー商品の企画・販売を主な事業としています。私たちは例年、東海3県を中心に年間およそ15万人のお客様を各地にお連れしていましたが、新型コロナウイルスの感染が拡がり始めた2020年2月下旬頃より、ツアーの参加率は下がり、3月に入るとキャンセルが相次ぐようになりました。

新規のツアー商品を企画・販売することが難しい中、一人の社員の発案から生まれたのが「バス車庫巡りツアー」です。コロナ禍で観光バスはお客様を各地にお運びするという本来の役割を失い、結果的に多くのバスが留まることになっていた車庫自体が観光資源になるのではないかという考えのもとで立ち上げた企画でした。

個人の熱量が生んだ求心力

「バス車庫巡りツアー」は4月初頭に募集 を開始し、すぐに売り切れとなったのですが、緊急事態宣言の発出を受けて開催は一旦中止になりました。その後、6月中旬に改めて発売し、7月に2回、9月に1回の計3回にわたって実施しました。本来、人をお招きする場所ではない車庫において、安全面の確保はもちろん、魅力あるコンテンツづくりも大きな課題となりました。企画を進めていく中でバス会社側からの提案も多くあり、バスの見学はもちろん、教習用バスの試乗、洗車機体験、行き先を示す「方向幕」などのオークション販売といったさまざまなコンテンツが生まれました。

参加者は10代から60代までの男性が中心で、想像以上にバスへの強い興味や愛情を持たれている方が多いことに驚きました。この企画を発案した社員もまさにバス好きの一人ですし、社員個人の趣味や熱量が新しいものを生み出す原動力になることも、私たちにとっては大きな学びになりました。

SNSが可視化するファンの存在

3回のツアーはすべて満席となりましたが、これはインターネットやSNSによる情報の拡散がなければ実現できなかったことです。一昔前であれば、バスが大好きで応援してくださるファンの存在は、目の届く範囲でしか把握できませんでしたが、今回の取り組みではSNSの投稿を通して多くのファンの存在が可視化され、新たなつながりも生まれました。私たちの本業は観光バスでお客様を各地にお運びすることですが、今回のようにバスを好きになり、応援してくださるファンを増やす企画も定期的に実施していくべきなのではないかと感じています。

コロナ禍では近場の旅行が推奨され、行政主導のさまざまな施策も行われています。今後は私たちも改めて身近な観光資源に目を向け、地域活性に貢献できる観光商品づくりに注力していくつもりです。今のうちに身近な資源を掘り起こしておくことが、パンデミック収束後の訪日外国人客や新たな国内観光客の獲得にもつながるのではないかと考えています。

バスが好きなファンが集まった「バス車庫巡りツアー」
バスが好きなファンが集まった「バス車庫巡りツアー」。教習用バスの試乗など、ふだんなら見ることのできないコンテンツが好評となった。
身近な観光資源の掘り起こし
新型コロナウイルスの収束後を見据え、東海・近畿を中心に、身近な観光資源の掘り起こしも行っている。