2020年のコロナ禍に芽生えた新たな消費の可能性

CASE❹ 株式会社横浜DeNAベイスターズ

スポーツファンの欲求に応える「バーチャル観戦」という選択肢

コンサートやスポーツなど大規模イベントの興行が制限された2020年は、VR・AR技術を活用し、オンライン上でコンテンツを楽しむスタイルが新しい消費の形として注目された。VR上に再現されたスタジアムで試合観戦や選手の応援ができる「バーチャルハマスタ」で話題を集めた株式会社横浜DeNAベイスターズの広報部長に、「バーチャル観戦」という新たなエンターテインメントの可能性についてうかがった。

株式会社横浜DeNAベイスターズ ブランド統括本部 広報部 部長 河村康博氏

河村康博

株式会社横浜DeNAベイスターズ ブランド統括本部 広報部 部長

新しい体験を生んだ「バーチャル観戦」

当球団では2012年以来、野球をきっかけにさまざまなコミュニケーションを育むことを目指す「コミュニティボールパーク」化構想を掲げ、野球に馴染みがなかった人たちにも球場に足を運んでもらうためのさまざまな施策を行ってきました。その結果、横浜スタジアムの観客動員数は年々増加し、2019年には座席稼働率が98.9%となりましたが、2020年は新型コロナウイルスの影響で状況が一変しました。

スタジアムに足を運んでいただくことが難しい状況の中、昨年より提携しているKDDIとともに企画したのが、自宅にいながらバーチャルで再現された横浜スタジアムで試合観戦が楽しめる「バーチャルハマスタ」です。8月と9月に1回ずつトライアルを実施したところ多くのファンにご参加いただき、メディアやSNSでも話題になるなど良い反応が得られました。

スタジアムの一体感をVRで再現

「バーチャルハマスタ」において重視したのは、スタジアムに向かうワクワク感や、多くの人たちと同じ体験を共有する一体感など、スタジアム観戦の醍醐味を再現することでした。そのため、専用アプリ「クラスター」でログインしたユーザーは自らのアバターを操作し、グラウンドだけではなく、スタジアムの外周やコンコースなどを行き来しながら観戦ができ、さらにチャット機能で他の参加者ともコミュニケーションが取れるようにしました。また、ゲスト解説者や球団マスコットのアバターと記念撮影を行う方が続出するなど、バーチャル上のエンターテインメントならではの楽しみ方も生まれていました。

2回目のトライアルでは一部有料コンテンツも盛り込みましたが、「バーチャル観戦」が大きな収益源になるとはまだいえない状況です。しかし、今後5Gなど通信環境が整備され、スタジアムでは得られない体験が提供できるようになると、可能性は大きく広がるのではないでしょうか。

いかにコミュニケーションを続けるか

スタジアムというリアルの場でファンとつながれなくなった2020年は、新しいテクノロジーを活用しながら、いかにコミュニケーションを継続し、ベイスターズやプロ野球のことを気にし続けてもらえるかということが大きなテーマとなりました。その中で、「バーチャルハマスタ」以外にも、主力選手らによるスペシャル動画をYouTube公式チャンネルで配信するなど、さまざまな挑戦を続けた一年でした。

ベイスターズではコーポレートアイデンティティとして「継承と革新」を掲げ、「良質な非常識」という考え方を大切にしてきました。革新的な体験を通じて新鮮な驚きをご提供していくことを目指す私たちにとって、「バーチャルハマスタ」をはじめとした取り組みは貴重な経験になりました。これを来年以降にもつなげていくことで、オンラインを通じた新しい野球観戦やファンとのコミュニケーションの形を確立し、球団経営の新たな柱にしていきたいと考えています。

「バーチャルハマスタ」
「バーチャルハマスタ」はスタジアムの臨場感も再現。アバター操作でファン同士の一体感も生まれ、コミュニケーションツールとしての可能性を見せてくれた。©YDB
「突撃!ヤスアキマイク〜みんなお家でなにしてんの?〜」
4月にYouTube公式チャンネルで配信された「突撃!ヤスアキマイク〜みんなお家でなにしてんの?〜」第1回は、視聴回数20万超。©YDB