若い消費者の心をくすぐる韓流ブランドの秘密

― COLUMN ―

コンテンツ分野に見る日本の韓流ブームの変遷

2003年のTVドラマ『冬のソナタ』以降、ドラマや音楽、映画をはじめとした韓国発のエンターテインメントは、日本人を魅了し続けてきた。「冬ソナ」ブーム前の2001年に、日本初のK-POP専門ラジオ番組を立ち上げ、その後もさまざまなメディアを通じて韓流コンテンツを日本に紹介している古家正亨氏に、韓流ブームの変遷や韓国発エンターテインメントの魅力の源泉などを聞いた。

ラジオDJ/テレビVJ K-POP評論家 韓国大衆文化ジャーナリスト 韓国観光名誉広報大使 古家正亨氏

古家正亨

ラジオDJ/テレビVJ K-POP評論家 韓国大衆文化ジャーナリスト 韓国観光名誉広報大使

韓流は今や「ブーム」ではない!?

日本における韓流ブームは、2003年に放映されたTVドラマ『冬のソナタ』から始まったとされ、これを機に日本の視聴者の間に韓国ドラマの人気が広がりました。その後の韓流ブームは、「2次」、「3次」、そして現在を「4次」として分けて語られることもありますが、私は2003年以降、韓国のエンターテインメントは一つの文化として日本に定着したと考えています。時代とともに変化してきた日韓関係に呼応する形で韓流コンテンツに対するメディアの取り扱いが変わり、それが結果として「1次」、「2次」という括りになったと捉えるべきではないでしょうか。

その中でもいくつかの「山」があったことは確かで、2010年前後にKARAや少女時代などのアイドルグループが登場し、K-POPが大衆化した時期が2度目の盛り上がりとなりました。次の山は2017年前後で、BTSやTWICEなど、同じくK-POPグループがきっかけとなりましたが、韓国のファッションやコスメ、グルメなどにも人気が広がり、韓国そのものがエンターテインメント化したことが大きな特徴でした。以来、韓国のカルチャー全般が一つのトレンドとして、日本の若者たちに受け入れられるようになっています。

韓国ドラマの人気を支えるもの

2020年には、動画配信による『愛の不時着』、『梨泰院クラス』が話題になりましたが、その背景には新型コロナウイルスの影響がありました。動画配信サービスの利用者が増え、それまで韓国ドラマに接していなかった層を取り込むことができたことが成功の大きな要因だといわれています。『梨泰院クラス』に関しては、韓国ドラマには珍しく男性脚本家が起用されたことや、マンガが原作だったことなどが日本の男性視聴者から支持されたという特徴がありましたが、基本的に韓国ドラマの魅力は、『冬のソナタ』の時代から一貫しているように思います。

韓国ドラマにはある種の「スタイル」や「パターン」があり、先の展開が読めてしまう作品も少なくありませんが、それでもなお見続けてしまう面白さがあります。その魅力を支えているのは俳優たちの存在であり、近年も続々と有能な人材が登場しています。韓国の総合大学の多くには映画・演劇学科があり、人材育成の環境が整っていることに加え、韓国家庭のほとんどに普及しているケーブルテレビ各局が膨大な数のオリジナルドラマを制作していることが、業界の裾野を広げています。圧倒的なコンテンツ制作の機会と選択肢の多さというものが、韓国ドラマの強さだといえるでしょう。

若者たちを魅了するK-POP

韓国の人気文化コンテンツを融合させたフェスティバル「KCON 2019 JAPAN」
古家氏も関わる、韓国の人気文化コンテンツを融合させた世界最大級のフェスティバル「KCON 2019 JAPAN」。
韓国観光名誉広報大使も務める古家氏
韓国観光名誉広報大使も務める古家氏は、SNSでも韓国への理解を深める情報や観光情報などを発信している。

一方、日本でK-POP人気が高まっている背景には、国産エンターテインメントの衰退が挙げられると思います。メディアの細分化、趣向の多様化などによって、日本のエンターテインメント業界からはかつての宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、倖田來未といった誰もが知る時代のアイコンが生まれにくくなっています。こうした存在に取って代わる形でBTSなどK-POPアイドルたちが現れ、市場を席巻しました。この現象は欧米においても同様で、長らくヒットチャートの上位を占めていたヒップホップなどに飽き始めていた層にK-POPが支持されています。

もともと私が韓国の音楽に興味を持ったのは、「ハン(恨)」と呼ばれる民族情緒を背景にした独自のバラード文化がきっかけで、ここに韓国音楽の本質があると考えています。しかし、昨今のK-POPブームにはこれらの音楽的要素は少なく、むしろ欧米からの影響が強い楽曲に、K-POPアイドルたちのビジュアルやパフォーマンスを融合させることで、独特の価値を生み出すことに成功しています。スマートフォンやSNSなどの影響で、音楽が「聴く」対象から「見る」対象に変わったことも、K-POPが人気の音楽ジャンルになれた大きな要因です。若者たちは、ミュージックビデオをはじめとするビジュアルや、思わず真似をしたくなるダンスなども含めてK-POPを楽しんでいます。

エンタメ化する韓国カルチャー

近年は、日本の若者を中心に韓国発のエッセイ本が爆発的に売れており、これらもK-POPアイドルが読んでいるというところから人気に火が付きました。ファッションやコスメ、グルメなどの分野でもK-POPアイドルが広告塔的な役割を果たしており、彼・彼女たちのファッションや行動を共有することがファンの喜びになっています。こうした潮流の発端には、アイドルたちが空港から出入国する際の「空港ファッション」があるといわれていて、これに目を付けたファッション業界の人たちが衣装提供をするようになって以来、K-POPアイドルがマーケティングに活用される流れが強くなりました。

K-POPアイドルたちの存在をきっかけに、韓国のカルチャー全般が日本においてもトレンドとなり、東京・新大久保の街などに足を運ぶ若者たちには、韓国というエンターテインメントが楽しめるアミューズメントパークに行っている感覚があるように感じます。ただ、日本の若者たちは韓国のエンターテインメントを楽しむ感覚には長けている一方で、身近な存在になっているはずの韓国という国そのものについてはあまり関心を示しません。エンターテインメントはあくまでも楽しむものだとはいえ、もう一歩踏み込んで相手を知るという段階に進むことができると、日韓の距離はより近づくのではないかと感じています。

韓国のエンタメ業界から学べること

これまで、成長の過程を応援する楽しみがある日本のアイドルに対して、韓国のアイドルはデビュー時から完成された存在であることが魅力として語られてきましたが、近年は韓国においてもオーディション番組からデビューする新人アイドルが増えています。これは、韓国のエンターテインメント業界が日本のアイドル育成の考え方を取り入れるようになった結果であり、その流れは日本で大きな成功を収めたNizi Projectにも連なるものです。

こうした面からもわかるように、韓国のエンターテインメント産業がすべての面において日本を上回っているわけではなく、日本もアプローチ次第で世界的な成功を収める可能性は十分にあります。ただ、リスクを恐れずにトライ&エラーを繰り返し、スピーディに社会の変化に対応しようとする韓国エンタメ業界の姿勢から日本が学べることは多いはずです。また、40代以下の人材が大半を占める韓国に対して、日本のエンターテインメント業界は高齢化が進んでいることも課題の一つです。今後は日本の業界においてもトップが若い世代に権限を与え、失敗を恐れず、さまざまな挑戦ができる土壌をつくっていくことが、世界で成功を収める上では不可欠だといえるでしょう。

日本における韓流ブームの主な流れ
若い世代ほど韓国に親しみを感じている
内閣府の調査(外交に関する世論調査令和元年10月)によると、若い世代ほど韓国に親しみを感じているのがわかる。