消費者の共感を得るエリア開発最前線

CASE❶ 株式会社散歩社

個人事業主のチャレンジを支援し多様な文化を醸成する場に

小田急電鉄株式会社が、線路の地下化によって生まれたエリアの開発を目的に推進している「下北線路街」プロジェクト。その一画に開業した「BONUS TRACK(ボーナストラック)」は、職住遊が渾然一体となった個性豊かな複合施設として、下北沢エリアの新たな顔になりつつある。開業から1年を迎える同施設の運営を担う株式会社散歩社に、その取り組みなどについて取材した。

株式会社散歩社 代表取締役CEO 小野裕之氏

小野裕之

株式会社散歩社 代表取締役CEO

店舗兼住宅スタイルの「商店街」

小田急電鉄が開発を進める「下北線路街」では、「音楽の街」「演劇の街」として若者たちがさまざまな文化を生み出してきた下北沢の歴史を汲み、若い人たちのチャレンジを支援していくことをテーマに据えています。当社が運営する「BONUS TRACK」においても、周辺の地価が高騰する中、個人事業主がチャレンジしやすい環境を用意するため、1階5坪、2階5坪の店舗兼用住宅のSOHO棟を設けるなど、新しい商店街のような場所をつくることを当初より掲げてきました。

当社取締役の内沼晋太郎が下北沢の書店「B&B」の運営や映画配給事業などを手掛けてきた関係で「カルチャー」文脈の出店者も多く、私が前職でソーシャルビジネスなどを扱うメディアに携わっていたことから「ソーシャル」領域からも出店いただくなど、個性豊かなテナントを誘致することができました。また、コワーキングスペースやシェアキッチン、広場などを設け、訪れた方がさまざまな形で参加できるような工夫もしています。

他者を受け入れて助け合う精神を

最近はメディアなどを見て足を運んでくださる方も増えていますが、新型コロナウイルスの影響で、昨年夏まではほぼ地元の方にしかお越しいただけない状況でした。ただ、地域の外で買物をされていた方たちがここでゆっくり過ごされたり、保育園の行き帰りに親子で立ち寄ってくださったりするケースも多く、結果的に早い段階で地域住民との関係を築くことができました。また、ゆとりのある屋外空間を活かし、周辺の飲食店のデリバリーやテイクアウトの拠点として場を提供し、こちらも好評でした。

一方、コロナ禍で厳しい状況が続く中、月に1度全テナントの店長が集まり、売上状況を共有したり、コストを分担して合同研修を行ったりするなど、テナント間の風通しを良くし、助け合いながら運営を続けています。さまざまな考え方を持つ方たちがいますので、自分とは異なる存在を受け入れながら、お互いの強みを引き出していくことにこそ集まっている意味があると思いますし、当社も経営面などをサポートし、各事業者が自分の得意な部分に注力できるようにしていきたいと考えています。

事業を育てるためのエリア開発

「BONUS TRACK」は大きな収益を上げていくような施設ではありませんが、多様なテナントが文化的な価値を育みながら、徐々に発展していける場にしたいと考えています。

昨今のエリア開発は、人口規模やターゲット、賃料など経済的な観点だけで進められることが多いのですが、これからは「下北線路街」のように「事業を育てる場」として街を捉える視点が大切なのではないでしょうか。若い個人事業主がチャレンジしやすい環境を整え、事業者と街それぞれが持つビジョンを結びつけていくような事業が増えれば、自然に施設やエリアの差別化も図られるはずです。今後もそうした取り組みを「BONUS TRACK」で継続するとともに、他の地域にも2例目、3例目をつくっていきたいと考えています。

「BONUS TRACK」
「BONUS TRACK」には、この場所のカルチャーを新たにつくる多彩なテナントが出店している。
1階5坪、2階5坪の店舗兼用住宅のSOHO棟
店舗住宅一体型のSOHO4棟と4店舗の商業棟からなる新たなスタイルの商店街だ。
休日には広場やテナントを訪れる人々で賑わう下北沢
休日には広場やテナントを訪れる人々で賑わい、新しい人の流れを生んでいる。
シェアキッチン
ホームパーティや料理教室などに利用できるシェアキッチンも人気。