消費者の共感を得るエリア開発最前線

CASE❷ 寺田倉庫株式会社

アートを核にした地域づくりでわざわざ訪れたくなる街に変貌

「保管するものの価値を高める」という観点から、倉庫業の枠を超えた数々の事業を創造してきた寺田倉庫株式会社。本社を置く天王洲アイルの地域活性にも早くから取り組み、2010年代以降はアート関連の施設やイベントを次々と展開し、このエリアに新たな人の流れを生んでいる。アートを核にした地域づくりによって、オフィス街をわざわざ足を運ぶ街に変貌させた同社の取り組みを取材した。

寺田倉庫株式会社 不動産事業グループ グループサブリーダー 城田明洋氏

城田明洋

寺田倉庫株式会社 不動産事業グループ グループサブリーダー

閑散としたオフィス街がアートの街に

1950年に創業した寺田倉庫は、倉庫をリノベーションしたブルワリーレストラン「T.Y.HARBOR (現在、株式会社タイソンズアンドカンパニーが運営)」の前身となる「T.Y.HARBOR BREWERY(ティー・ワイ・ハーバー ブルワリー)」をオープンさせた1990年代後半から、天王洲アイルの地域活性に取り組んできました。その後、不動産事業ではリーマンショックによる不動産市況全般における不況の影響で閑散としていたオフィス街を、目的を持ってお越しいただく場所にするために運河沿いのボードウォークを整備し、イベントの開催なども行うようになりました。

また、「アートになる島、 ハートのある街」を掲げて再開発された街の歴史や、当社が美術品の保管事業を長年行っていたことなどから、2015年の画材ラボ「PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー)」のオープンを皮切りに、さまざまなアート関連施設をこのエリアにつくり、芸術文化発信事業を本格化させていきました。さらに、周辺企業と連携し、年4回行う「天王洲キャナルフェス」の開催などを通じてエリアの認知を高めていく中で、徐々にアートやカルチャーに関心のある方たちが世代を問わず訪れる街になっていきました。

エリアの認知を促す数々の施策

当社では展覧会やイベントの企画・誘致も行っており、例えば、デヴィッド・ボウイの大回顧展「DAVID BOWIE is」(2017年)や、映画スターウォーズの展覧会「STAR WARS™ Identities:The Exhibition」(2019年)では、多くの方にご来場いただきました。こうした機会に天王洲の魅力に触れていただくことで、その後も継続的にこの街のアート関連施設などに足を運んでくださる方を増やしていきたいと考えています。

また、当社の地域活性のビジョンにご賛同いただいたインテリアショップ「ACTUS(アクタス)」が、倉庫をリノベーションしたコンセプトストア「SLOW HOUSE(スローハウス)」やレストラン「SOHOLM(スーホルム)」をオープンして以来、街を一緒に盛り上げてくださる企業の誘致にも力を入れてきました。東京23区内とは思えない開放感と、運河やアートがある天王洲に魅力を感じてくださる方は年々増えており、出店を強くご希望されるベンチャー企業なども現れています。近年はラグジュアリーブランドにイベントやパーティなどの場としてこのエリアのイベント施設を使っていただくケースもあり、ファッション業界の方たちが島内を行き交うような状況も生まれています。

横の連携を強めさらなる文化発信を

2020年12月にオープンしたコレクターズミュージアム「WHAT(ワット)」にはすでに多くの方がお越しになり、また未来を担うアーティストを支援するために開催したイベント「ART MARKET TENNOZ(アート マーケット テンノウズ)」ではたくさんの作品をご購入いただきました。今後は我々のみならず、テナントとして入居しているアートギャラリーとも横の連携を強め、天王洲へお越しになるお客様が個々の施設やイベントだけではなく、さまざまなアートに広く触れられる環境を整えていくことが大きなテーマになります。

昨年、「WHAT」が文化庁、観光庁を主体とする「文化観光推進法」に基づく文化観光拠点施設として、民間企業初の計画認定を受けました。今後は、この「WHAT」や日本最大級のギャラリーコンプレックス「TERRADA ART COMPLEX(テラダ アート コンプレックス)」を核に天王洲から文化を発信し、エリアの価値をさらに高めていきたいと考えています。

天王洲地区の多彩なイベントやニュースを発信
ホームページやSNSを通じて天王洲地区の多彩なイベントやニュースを発信している。
天王洲アイル地区は「プロジェクションマッピング活用地区」
昨年、天王洲アイル地区が「プロジェクションマッピング活用地区」として東京都より初めて指定された。
芸術文化発信施設「WHAT」
寺田倉庫が預かり保管する貴重なアート作品の公開を目的とした芸術文化発信施設「WHAT」。アートギャラリーカフェも隣接する。
年4回開催されている「天王洲キャナルフェス」
年4回開催されている「天王洲キャナルフェス」。