SDGsから見える今後のビジネス

対談(登場順) 伊藤忠商事株式会社繊維カンパニー
環境省 自然環境局 自然環境整備課 温泉地保護利用推進室長 「ファッションと環境」タスクフォース リーダー 岡野隆宏氏 × ファッションアパレル部門長 中西英雄
株式会社コークッキング 取締役COO 篠田沙織氏 × ブランドマーケティング第一部門長 北島義典
株式会社INFASパブリケーションズ 『WWDJAPAN』編集長 村上 要氏 × 執行役員 ブランドマーケティング第二部門長 武内秀人

伊藤忠商事は2021年度より中期経営計画を刷新し、基本方針として「マーケットインによる事業変革」、「SDGsへの貢献・取組強化」を掲げている。繊維カンパニーでは今期、全部門に新部門長が就任し、「マーケットイン」と「SDGs」の2つの切り口で、既存ビジネスの強化やビジネスモデルの変革に取り組んでいる。そこで今号では、新部門長の紹介を兼ねて、「ファッションと環境」、「フードロス」、「ジェンダー」という3つの切り口での対談を企画。各分野に取り組む官公庁、企業、メディアの意見をお伺いしながら、繊維・ファッション業界が進むべき道筋を探っていく。

繊維カンパニー 新部門長による2021年度方針

ビジネスモデルの細部を見直し変革を加えながら成長を促す

ファッションアパレル部門長 中西英雄

繊維原料から服飾資材、メンズ・レディスファッション、インナー、スポーツからワーキングウェアまで、ファッションに関わる多種多様なビジネスをグローバルに展開しているのが当部門です。コロナ禍でアパレル業界が大きく影響を受ける中、既存のビジネスモデルを維持するだけでは成長できません。伊藤忠モードパル、エドウイン、三景、デサント、ユニコ、ロイネなどの主要事業会社とともに低重心経営を徹底しつつ、今後はビジネスの細部を見直し、変革を加えながら、ビジネスモデルをアップデートしていくことが重要になります。その変革に必要となるのがマーケットインの発想であり、SDGsを組み込んだバリューチェーンの構築です。

当部門が有する原料から製品までのグローバルで多彩なサプライチェーンの中に、いかにSDGsへの取り組みを組み込んでいくのか。そこに商機があると考えています。すでに「レニュー」プロジェクトの再生ポリエステル繊維やメッツァ・グループとの共同開発によるセルロース繊維「クウラ」など、環境配慮型素材の拡充とバリューチェーンの構築を進めていますが、今後は回収から再生までの循環を考えた取り組みも必要となります。

今回、環境省の岡野隆宏様と対談させていただき、生産・消費・回収・再生という循環の仕組みづくりがいかに大きな課題であるかを再認識しました。当部門もそうした課題解決の一助となるよう取り組みながら、市場のニーズにしっかりと応えていきたいと思います。

革新的セルロース繊維「クウラ」
針葉樹由来の革新的セルロース繊維「クウラ」。
デサントの「RE:DESCENTE」
デサントの「RE:DESCENTE」では再生ポリエステル「レニュー」の使用に加え、衣類の回収にも着手。
エドウインのジーンズ回収プロジェクト「CO:RE」
エドウインでも、ジーンズ回収プロジェクト「CO:RE」が始動している。

ブランド価値の向上を図りアジア圏でのビジネス拡充を狙う

ブランドマーケティング第一部門長 北島義典

当部門は、「ポール・スミス」、「コンバース」、「アウトドアプロダクツ」など、衣料品から服飾雑貨まで多彩なブランドを取り扱っています。今期は低重心経営をベースに3つの方針を進めており、1つ目が、当社が商標権を持つブランドをしっかりと磨いていくことです。既存ビジネスを基盤にブランドの価値向上に徹底的に取り組むことで、拡大を図っていきます。2つ目は、日本を最重要市場として堅持しつつ、中国を中心としたアジア圏へ打って出ることです。アジア圏でのブランドビジネスの拡充を今後の活路とし、不退転の決意で取り組みます。そして3つ目が、連結経営の強化です。当部門の主力事業であるコロネット、ジョイックスコーポレーション、コンバースジャパンの経営を、部門をあげてサポートすることでさらなる成長を促します。

ブランドの歴史やモノづくりへのこだわりは大切にしつつ、今後はマーケットインの視点で、多様化する顧客ニーズとブランドの発信を合致させる仕組みづくりも進めていきます。また、SDGsについては、声高に叫ぶのではなく、まずは各ブランドの商品価値で勝負し、その価値の中にサステナビリティが組み込まれている形が望ましいと考えています。

株式会社コークッキングの篠田沙織様との対談では、「衣」と「食」の共通課題でもある在庫ロスの削減には、一人ひとりの意識が大切であると痛感しました。フードロス削減の機運が高まる中、ファッション業界からもSDGs関連の発信を強化していきたいですね。

「コンバース」
廃棄食材などを染料として再活用する生地をアッパーに採用した「コンバース」。
「ルシアン ペラフィネ」2021SSコレクション
アップサイクルカシミヤを使用した「ルシアン ペラフィネ」2021SSコレクション。
「ヴィヴィアン・ウエストウッド」の「アフリカバッグ」
「ヴィヴィアン・ウエストウッド」は「アフリカバッグ」でアフリカの女性を支援。

マーケットインの発想で既存事業を磨き上げる

執行役員 ブランドマーケティング第二部門長 武内秀人

当部門は、ブランドマーケティング第三部と繊維資材・ライフスタイル部という異なる領域を扱う2部で構成されています。

ブランド分野では、今後も「削る」「防ぐ」を徹底する低重心経営を基本に、「レスポートサック」、「ランバン」、「フィラ」といった主要ブランドを磨き直します。そのため、より良い商品・サービスの提供という基本原則に加え、自社ECを強化します。顧客と直接接点を持つ自社ECの運営にはマーケットインの発想が不可欠となるため、担当する社員には店舗研修などを行い、お客様が何を求めているのかを身をもって知り、小売マインドを醸成することから始めています。また、コロナ禍で苦戦を強いられている事業会社への経営サポートも最重要課題の一つです。特に、お客様の多くが中高年層で店舗販売が中心のレリアンについては、ビジネスモデルのアップデートを全面的にサポートするなど、立て直しに尽力したいと考えています。繊維資材・ライフスタイル分野では、不織布などの衛生材料、タイヤコードなどの産業用資材、インテリアや寝装寝具などのライフスタイルという3本柱を軸に、ビジネスを磨き上げます。既存事業をグローバルに深化・拡大していくと同時に、今後はSDGsを絡めた取り組みも進めていきたいと思います。

『WWDジャパン』編集長の村上 要様との対談では、ジェンダーレスは市場を押し広げる可能性があることを改めて感じました。今後のビジネスを考えるうえで大きなヒントになりそうです。

「フィラ」の「BTS着用モデル」
「フィラ」では、男女問わず着用できる「BTS着用モデル」を限定販売した。
2021SSシーズンビジュアル
「ランバン オン ブルー」の北村匠海さんを起用した2021SSシーズンビジュアル。
「レスポートサック」の「Eco Black」
「レスポートサック」のリサイクルコレクション「Eco Black」。