SDGsから見える今後のビジネス

SDGs対談❶ :ファッションと環境

消費者に身近なファッションを通じて「環境・経済・社会」の課題解決に挑む

環境省 自然環境局 自然環境整備課 温泉地保護利用推進室長 「ファッションと環境」タスクフォース リーダー 岡野隆宏氏

岡野隆宏

環境省 自然環境局 自然環境整備課 温泉地保護利用推進室長 「ファッションと環境」タスクフォース リーダー

おかの・たかひろ 1997年に環境庁(現・環境省)入庁。国立公園のレンジャーとして阿蘇の草原や八重山サンゴ礁の保全再生などに携わる。「環境で地方を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」などを担当。

ファッションは文化文化的価値を高めることが環境負荷軽減に (岡野)

伊藤忠商事株式会社 繊維カンパニー ファッションアパレル部門長 中西英雄

中西英雄

伊藤忠商事株式会社 繊維カンパニー ファッションアパレル部門長

国内で回収から再生までの循環を実現する仕組みがポイントの一つ (中西)

部署を超えて社会変革に取り組む組織

中西私が部門長を務めるファッションアパレル部門では、原料から製品まで衣料品のモノづくりを幅広く手がけています。ファッション業界における環境意識が高まる中、当社でも環境配慮型素材の開発に注力しており、この分野に先行投資をしていきたいという思いがあります。本日は、「ファッションと環境」をテーマにお話をしたいのですが、まずは岡野さんの自己紹介からお願いします。

岡野私は環境省の職員として、阿蘇の草原や石垣島のサンゴ礁の保全などを担当後、現在は、温泉地保護利用推進室の室長を務めていますが、常に自然資源の保全と活用に関心を抱いてきました。その中で、環境を地域の暮らしや社会、経済とともに考えていく必要性を感じるようになり、これはまさにSDGsの概念にもつながるものだと考えています。

中西現在は、「ファッションと環境」タスクフォースのリーダーを務められていますが、きっかけとなった「霞が関版20%ルール」についてお聞かせください。

岡野「霞が関版20%ルール」は、業務時間の20%までを担当以外の業務活動に充てられる制度です。環境省は、気候変動や水質汚染など環境問題ごとに部局が分かれていますが、それぞれの課題に対応しているだけでは、SDGsの3つの側面である「環境・経済・社会」の問題を同時に解決することが難しい。その中で、部署を超えた連携によって社会変革に取り組んでいく必要性を感じた職員が小泉進次郎環境大臣に提案し、実現しました。

中西岡野さんがファッションという分野に注目した理由を教えてください。

岡野数年前にあるファッションのイベントに参加し、ファッション業界に従事する方たちの環境に関する取り組みや問題意識を肌で感じたことが一つのきっかけになりました。ファッションは人々にとって身近なものですし、同時に環境負荷の問題が指摘されている産業でもあります。「環境・経済・社会」の問題を同時に解決するという観点から、ファッションはいち早く取り組むべき領域だと感じました。

勉強会を通じて見えてきたファッション業界の課題

中西「ファッションと環境」タスクフォースでは、どのような取り組みを進めているのですか。

岡野これまでに伊藤忠商事をはじめ計12社にご参加いただき、勉強会を開催してきました。回を重ねる中で共通の課題が見えてきたのですが、その一つが消費者に情報を伝えていくことの難しさです。先日実施した調査によると、エシカルファッションに関心がある人は全体の6割程度いるのですが、その9割は具体的な行動には至っておらず、アクションを後押しする情報や仕組みが不足しているのが現状です。

中西昨今の潮流として、オーガニックコットンや再生ポリエステルへの移行を宣言する欧米ブランドが増え、消費者の間でも少しずつ環境意識が高まっています。ただ、消費者がファッションを選ぶ際に最も重視するのは、やはり、デザインや価格です。当社が展開する「レニュー」プロジェクトでは、「サステナブル素材の商品を選ぶ」のではなく、「気に入って買った商品にたまたまサステナブル素材が使われていた」という社会を目指しており、提供する側の意識改革も不可欠だと考えています。

岡野私は、物質的な価値よりも文化的な価値を高めていくことが、環境負荷を減らすことにつながると考えています。ファッションはまさに文化であり、自分の価値観を表現するものでもあります。「環境に良いものを選んでいる」という感覚が消費者の間に浸透すれば、提供する企業の意識も変わっていくのではないでしょうか。

中西衣服の循環利用を促すための仕組みづくりも各社共通の課題ですが、衣服の回収を単独の企業が行うには限界があります。その中で、いかに国内で衣服の回収から再生までの循環を実現する仕組みをつくっていくかが大きなポイントになりそうですね。

岡野勉強会を通じて、生産現場がほぼ海外にシフトしているファッション産業を、もう一度国内で回していくための仕組みづくりが必要だと強く感じました。環境だけではなく、産業のサステナビリティについても考えていかなくてはいけないと思っています。

ファッションから暮らしの価値観を変える

中西循環の仕組みをつくることは、地域創生にもつながりますよね。

岡野 地域の資源を循環利用する自立分散型社会の重要性は、コロナ禍でますます高まっています。環境省においても、「エネルギー」や「食」などを循環させていくことで、環境保全や地域創生につなげていくというビジョンを掲げています。リモートワークが進み、都市に集中しない働き方が可能になることで、地域の資源が循環し、多様な文化が育まれることを願っています。

中西「ファッションと環境」タスクフォースの今後の展望についてもお聞かせください。

岡野勉強会に参加した企業を中心としたコンソーシアムの設立を目指していただいています。これによって企業間の連携が強まり、国との政策対話を通じて取り組みが加速できるような形になればと思います。現在検討を進めているカーボンニュートラル実現に向けた地域脱炭素ロードマップにおいても、勉強会での意見も踏まえ、循環型ファッションを促進する施策を組み込んでいくつもりです。

中西最後に、繊維・ファッション業界および伊藤忠商事に期待したいことをお聞かせください。

岡野自分の生き方やライフスタイルを重ね合わせることができるモノや場づくりが、ファッションを通じて行われるといいなと思います。衣食住の分野でモノづくりをされている人たちとのつながりを考えることで私たちの暮らしは豊かになるはずですし、ファッション業界の方々には暮らしの価値観を変えていく役割を担ってほしいですね。そのためには、「モノの物語」や、モノづくりの透明性が大切で、伊藤忠商事にはそれらを消費者に伝え、「環境・経済・社会」のまさに「三方よし」を実現する商社であることを期待しています。

日本で消費される衣服と環境負荷に関する調査
環境省「サステナブルファッション」日本で消費される衣服と環境負荷に関する調査(2020年12月〜2021年3月)より。約6割の人がサステナブルファッションに関心を持つか行動を起こしている。
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