SDGsから見える今後のビジネス
SDGs対談❷ :フードロス
需要と供給の適正なバランスが消費者とメーカーの幸せな関係をつくる
高まるフードロス削減の機運
北島ブランドマーケティング第一部門ではさまざまなブランドを扱っていますが、近年、各ブランドがサステナビリティを意識しています。当部門が扱う「コンバース」でも、環境に配慮した素材を実験的に使用して紹介する「コンバース イーシーラボ(e.c.lab)」シリーズで、廃棄食材などを染料として再活用したスニーカーも販売しています。今日は、フードロスについて勉強させていただきたく、よろしくお願いします。
篠田よろしくお願いいたします。私は、子どもの頃の入院生活がきっかけで人一倍「食」に執着するようになりました。やがてフードロスに向き合う仕事をしたいと考えるようになり、3年前に現在の会社に転職しました。当社が提供するフードシェアリングサービス「TABETE(タベテ)」は、飲食店などで余ってしまったものを近隣の消費者が「レスキュー」できるテイクアウトサービスで、現在およそ40万のユーザー、1,500の店舗にご登録いただいています。
北島 先日3周年を迎えたそうですが、これまでを振り返ってみていかがですか。
篠田当初は、飲食事業者の間でフードロスは必要悪とされていたのですが、この3年の間にSDGsへの注目とともにフードロス削減の機運が高まり、最近は事業者からの問い合わせも増えています。また、多くのメディアで取り上げられたことで会員数も増え、最近は「お得感」以上にフードロス削減の意識を強く持って利用されるユーザーが4~5割を占めるまでになっています。「TABETE」に限らず、近年は消費者の間でフードロス削減に取り組む企業を選ぶ傾向が強まっているように感じますね。
海外で先行するロス削減の取り組み
北島現在、国内のフードロスは年間どのくらいになるのですか。
篠田年間約600万tで、割合としては事業者と一般家庭が半々程度になります。
北島フードロスは事業者に多いイメージですが、一般家庭も多くて驚きました。
篠田家庭のフードロスの原因として多いのは、食材を冷蔵庫の奥で腐らせてしまうことです。そのため、冷蔵庫の中身をしっかり管理し、在庫を確認した上で買い物に行ったり、安売りの際に買い過ぎないような心がけが大切です。最近は防災の観点から備蓄食を常備する方も増えていて、賞味期限が近づいたら消費し、新しいものに換える「ローリングストック」の考え方も広がりつつあり、こうした消費の仕方も有効だと思います。
北島事業者側の取り組みとしてはどんな動きが見られるのでしょう。
篠田「ダイナミックプライシング」という仕組みを導入するスーパーなどが欧州を中心に広がっています。これは、食品の販売価格を賞味期限などによって自動的に変動させるもので、日本でもコンビニエンスストアなどで実証実験が始まっています。また、海外の飲食店では、AIの需要予測に基づいて仕入れをする事例も増えています。
北島AIによる需要予測はアパレル業界でも始まっていますが、衣料品にしても食品にしても、需要と供給の適正なバランスをとることが大切ですよね。
篠田私たちが「TABETE」を始めた理由にもつながるのですが、フードロスの課題において最優先すべきは、廃棄される食品を「Reduce(減らす)」すること、つまり消費者に食べていただくことなんです。それが最も環境負荷が少ない解決方法になりますし、アパレル業界においてもいかに二次流通に乗せるのかが一つのカギになるはずです。また、伊藤忠商事が取り組まれている「レニュー」プロジェクトの再生ポリエステルのような循環型の取り組みも今後さらに重要になるのではないでしょうか。
いかに消費者意識を育てるか
北島衣料品には食品のように明確な賞味期限がないため、余ったものを在庫として抱え込んでしまいがちです。毎シーズン新しい商品が投入される中、生鮮食品とは異なる意味での「鮮度」がファッションにはあり、古いものがなかなか売れないという悪循環に陥ってしまいます。また、これはファッションに限らないのですが、商品を提供する側に「欠品は悪いこと」という風潮があり、これも過剰な生産を招いている一因だと思いますね。
篠田これまでは、資源は無限にあるという感覚のもと、「欠品させないことがお客様へのおもてなし」とされてきたところがありますが、大量生産・大量消費の考え方は限界にきています。そのお店や地域における最適な供給量を理解し、その中でどんな消費をするべきなのかをそれぞれが考えることが必要だと思います。
北島衣料品の在庫は、食品に比べて「もったいない」感が少なく、消費者を巻き込んだムーブメントを起こしにくいとも感じています。
篠田以前に「TABETE」でパン屋さんが朝から出品しているのを見て、「なぜ朝からロスが出るのか」と疑問を持たれた方がいらっしゃいました。実はパン屋さんは、前日に売れ残ったものを翌朝に出品されることが多いのですが、こうした背景を知らない方から「企業努力が足りない」と批判されてしまうこともあります。衣料品においても、まずはロスが出てしまう背景を理解していただくことが大切なのかなと思います。
北島家庭や飲食店などで日頃から調理の工程を目にする食品に比べて、衣料品は生産の過程を知っていただく機会が少ないことも一つの課題かもしれないですね。
篠田食品にせよ衣料品にせよ、過剰な生産と消費が「資源」のロスを生んでいることに対して、「もったいない」という気持ちを抱いてもらうことが大切なのだと思います。また、トレーサビリティも重要な観点です。労働環境の問題をはじめ、自分の消費行動が何とつながっていて、どんな問題が引き起こされているのかということがもっと見えるようになると良いですし、教育を通して伝えていくことも必要なのではないでしょうか。