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地道な研究開発で「純正自然」を実現

「お客様にまっすぐなおいしさをお届けしたい」

株式会社ユーハイム 代表取締役社長 河本英雄氏
株式会社ユーハイム 代表取締役社長
河本英雄

毎回リレー形式で展開しているこの企画、今回は株式会社オリエンタルランドの取締役副社長執行役員 片山雄一氏からバトンが渡されました。

当社は1983年の開業当時から東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサーを務めており、片山さんとは先代からのご縁でお付き合いがあります。その気さくなお人柄に、お会いするのをいつも楽しみにしており、ときには営業面のアドバイスをいただくなど、さまざまなご教示をいただいています。

2020年の3月4日に、長年目指してこられた「純正自然」を宣言されました。

当社は、1919年にドイツの菓子職人だったカール・ユーハイムが日本で初めて「バウムクーヘン」を焼いて以来、素材の味がわかるシンプルなおいしさを追い求め、今日に至っています。そして、「不要な添加物を使わずに自然の原料だけでつくることにこだわりたい」と考え、1969年にその哲学を「純正自然」という言葉で表しました。しかしながら、添加物を使わない「純正自然」の実現は洋菓子メーカーとしては大変な挑戦でした。ある意味、職人の技術を極める作業でもあったと思います。2000年に「純正自然委員会」を立ち上げたものの、一度は断念。それでも職人たちが地道に研究開発を続け、ついに2020年に長年の夢だった「バウムクーヘン」の添加物不使用を実現し、「純正自然」宣言へとこぎつけたのです。

宣言当時は、ちょうどコロナ禍が始まった頃ですね。

当社の長い歴史の中では多くの失敗を経験し、その度に新たな光を見出しながら前へ進んできましたが、新型コロナウイルスの猛威だけはこれまでとは異なり、まさに、当社のレジリエンスが問われています。その中で、奇跡ともいえる出来事も経験しました。

昨年、数個の「バウムクーヘン」にカビが発生し、約174万個を回収する事態が起こりました。コロナ禍による外出自粛や百貨店などの営業自粛で販売機会が減少し、工場の一時停止による生産調整を行わざるを得なかった時期でもあり、回収という事態に、皆、心が折れそうになりました。ところがこれが報道されると、SNSで「添加物を使っていないのだからカビは当然」、「本当に純正自然。安心しました」といった内容のコメントを1,000通以上もいただいたのです。私はコメントのすべてをプリントして工場の壁に貼り出しました。それらを読み、涙ぐむ職人もいました。当社の「バウムクーヘン」の価値をわかってくださるお客様がこんなにいらっしゃる……。誰のためにお菓子づくりをしているのか、全社員が改めて認識し、「純正自然」への思いを新たにした「奇跡」となりました。

人工知能を搭載したオーブンを開発するなど、新たな試みにも注目が集まっています。

企業理念をスローガンにした「まっすぐなおいしさ」は、素材本来のおいしさを追求する当社のお菓子づくりの基本姿勢を表しています。そのためには、社員一人ひとりがおいしさに真摯に向き合ってほしいという思いもあり、当社では職人も含めて中途採用はせず、独自のカリキュラムに沿って歳月をかけて人材を育てています。

職人の技術は当社の最大の強みであり、これからも磨き続けていく一方で、次の時代を見据えた対応も必要です。そこで開発したのが、人工知能を搭載したAIオーブン「THEO(テオ)」です。これまでのお菓子づくりは、添加物の開発など「化学」の力で発展してきましたが、テクノロジーの進化に伴い、今後は「工学」の時代へと変化していくはずです。これからも職人の技術をフードテックとして確立するなど、新しい試みにも果敢に挑戦していきたいと考えています。

マイスター制度
海外への菓子職人派遣制度である「マイスター制度」を1967年から継続。職人技による丁寧なお菓子づくりが行われている。
バウムクーヘン専用のAIオーブン「THEO」
バウムクーヘン専用のAIオーブン「THEO」は、職人が焼く生地の焼き具合を画像センサーで解析することで学習。無人で焼き上げることができる。