若者世代を中心に広がる「オタク」消費の現在

【COLUMN】株式会社ニッセイ基礎研究所

時代とともに変化する「オタク」のあり方

1980年代頃から使われるようになった「オタク」という言葉は、時代の変遷とともにそのイメージやあり方も大きく変わってきた。ニッセイ基礎研究所 生活研究部の研究員として、長年オタクに関する研究を続けてきた廣瀨 涼氏に、オタクの歴史や消費者としての特徴、「ヲタ活」をするZ世代の消費心理などについて伺った。

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部研究員 廣瀨 涼氏

廣瀨 涼

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部研究員

大衆化する「オタク」という言葉

もともとオタクは、1980年代に漫画やアニメなどを消費する人たち同士が、「お宅も?」と仲間を識別するために使っていた言葉でした。1990年代にかけては、オタクと関連づけられた事件や「引きこもり」などの社会問題が報道されることでネガティブなイメージが持たれるようになり、オタクは差別的な意味を持つ「レッテル」として使われてきました。

2000年代半ばには、「電車男」やAKB48などによって秋葉原ブームが起こり、「オタク=ユニークな人たち」というある種のリブランディングがなされました。そして、2010年以降にはオタクの「負」のイメージが削ぎ落とされ、好きなものを追求する「マニア」という意味合いだけが残り、さらにオタクを公言する著名人も出てきたことで、「オタク」という言葉は大衆化していきました。

他者とつながるための記号に

「オタク」という言葉は本来、特定のコンテンツに依存し、時間やお金を大量に消費する人たちに対して他者がつける呼び名だと私は考えています。しかし、2010年代には、自らをキャラクターづけするためにオタクを自称する人が増えてきました。特にネガティブなイメージを知らないZ世代の若者たちにとって、オタクは自らの「アイデンティティ」を示すものであり、SNSなどを通じて他者とつながるための「記号」としてこの言葉を用いる人も少なくありません。

これまでのオタクは、自らの精神的充足など個人の欲求を満たすために消費をしていた側面が強かったといえますが、最近はコミュニティの存在がオタクの消費に大きな影響を与えています。中でも、「ヲタ活」をする若者の間では、コミュニティの中でオタクと認めてもらうことを目的に消費をする人たちも出てきています。さらに、自らの「ヲタ活」をSNSなどで発信していくことで、自らの価値や影響力を高めていくような動きも見られます。

到来する「1億総オタク化」時代

オタクが一般消費者と異なる点は、良くも悪くも特定のコンテンツに感情が揺さぶられ、依存的に消費を繰り返すことです。永続的にコンテンツを買い続けてくれるロイヤルカスタマーと捉えることもでき、彼らにとって重要なことは、好きなものにどれだけ時間を費やせるかということです。そう考えると、若い頃にファミコンなどのコンテンツに親しんできた世代に時間的余裕が生まれてくるであろう今後、中高年のオタクも増えてくるのではないでしょうか。

経済的に成熟し、コンテンツ市場も充実している日本には、きっかけさえあればあらゆる人がオタクになり得る状況があります。そして、SNSなどを含めその「きっかけ」が無数にある時代だからこそ、オタク的な消費をする人はますます増えるはずです。そうした中で、以前からの「オタク」と、現代のライトな「オタク」の関わり合いなどに重点を置きながら、今後もオタクに関する研究を継続していきたいと考えています。

従来のオタクとZ世代のオタクの違い
「レッテル」から「アイデンティティ」へと変化している「オタク」。自らのキャラクターづけに自称する若い世代も増えている。