「個」の時代に求められるマーケティング戦略とは

― 座談会 ―

「起業」「事業参画」につながった市場ニーズ

株式会社Kumarba 代表取締役社長 樋渡昇一郎氏

樋渡昇一郎

株式会社Kumarba 代表取締役社長

キッズ向けキャラクターはマスマーケティングが有効であると痛感 (樋渡)

武内:現在、各社の代表を務められている皆様ですが、事業を始めるにあたって、どのような市場のニーズに着目されたのでしょうか。

樋渡:私は、番組ディレクターという自らの経験が生かせる映像をプラットフォームにしたIPをつくりたいと考えていました。そして、テレビアニメなどに比べて低コストで始められるYouTubeに着目したのですが、当時の月間再生数ランキングを調べてみると、上位に多くのキッズチャンネルが入っていることがわかりました。その背景には、同じ動画を何回も繰り返し再生するというキッズならではの特徴があり、さらに分析を続けていくと、韓国や中国では「キッズ向けキャラクター×歌×ダンス」というコンテンツが多く再生されていることが見えてきました。そこで、フリー素材の3Dキャラクターを「ジングルベル」の曲に合わせて踊らせた動画を公開したところ、予想以上の再生数があり、これがチャンネル立ち上げの決め手になりました。

渡部:起業するにあたって、自分の経験値を最大限生かすことができる領域で勝負しようという思いがありました。長らくスマートフォン関連のサービスのディレクターやプランナーを務めてきたので、関わってきたデジタル領域のプロジェクトの数では負けないという自負があり、同時にメディア事業にも携わっていたため、コンテンツビジネスも得意領域でした。参入する市場については、業界特有のレガシーなシステムやコードが残り、新規参入者が新たな流れを持ち込んだときに、最大手がなかなか対応できないような構造を抱えている業界を探しました。そして、自分が関心を持って取り組める領域で、かつ多くの人に良い影響が与えられる市場として浮かび上がってきたのが、化粧品業界でした。

田中:靴のオンライン販売でネックとなるサイズの問題を、「Zappos」は送料・返品無料で試着できるようにしたことで解決していました。ただし、これを実現しようとすると限界利益が低くなるため、資本力が必要になります。「LOCONDO.jp」は、ドイツのベンチャーキャピタルが100%出資して始めたサービスだったため、スタートすることができました。しかし、その後事業は破綻寸前にまで追い込まれ、毎月1億円近い支出が続くという非常に厳しい状況を経験しましたが、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社などのサポートもあってV字回復を実現できました。業績が回復できた明確な理由は自分たちでもわかりませんが、地道なECサイト運営でも、長く続けているとそれを見てくれている人たちがいて、運が舞い込んでくるようなことがあるのだと感じています。

2019年7月に公開した「パプリカ」のカバー動画
2019年7月に公開した「パプリカ」のカバー動画により登録者数が急増。現在も再生数は伸びている。
クマーバチャンネル」
2021年6月現在、「クマーバチャンネル」の登録者数は30万人、総再生回数は3億3,000万回を突破。