「個」の時代に求められるマーケティング戦略とは

― 座談会 ―

顧客視点から生まれたヒット企画

ノイン株式会社 代表取締役 CEO 渡部 賢氏

渡部 賢

ノイン株式会社 代表取締役 CEO

個人の熱量やストーリーがないとモノが売れない時代に (渡部)

武内:ここまで事業を展開される中で、顧客視点、マーケット視点から生まれた代表的な施策についてお聞かせください。

樋渡:「クマーバチャンネル」は、スタートから2カ月後に米津玄師さんの「パプリカ」のカバー動画を配信したことで登録者数が急増しました。ちょうど、「パプリカ」のカバー動画ブームが起こり始めていた時期で、YouTubeの検索ボリュームも多くなってきていたのですが、キッズ向けのカバー動画はまだ少ない状況でした。「クマーバチャンネル」では、テレビのカラオケ番組出身の歌手が歌っているのですが、こうしたクオリティの高さも相まって月間で500万回ほど再生されました。さらに、コロナ禍の巣ごもり消費で何回も繰り返し再生されるケースが増え、多くの方にお楽しみいただいた結果、2020年のYouTube年間再生回数 VTuberカテゴリーで1位を獲得しました。また、ユニバーサル ミュージック合同会社と共同で「DJクマーバ」のオリジナル楽曲の配信をスタートさせ、昨年末にはCDデビューも果たしました。

渡部:伊藤忠商事との業務提携を機に、「ファミリーマート」限定のコスメブランド「sopo(ソポ)」をプロデュースしたのですが、コンビニという販路に注目した背景には、「NOIN」ユーザーの行動データがありました。主に地方のユーザーは商品の購入転換率が高かったのですが、そこから導き出したインサイトは、百貨店をはじめ化粧品を購入できる場が減っている地方の消費者のトレンドコスメに対するニーズでした。従来、コンビニのコスメは緊急需要が中心でしたが、トレンド性が高い優れたコスメを展開することで、コンビニのコスメ棚を「欲しい商品を買いに行く場所」に再定義できると考えたのです。商品開発においては、使い切りサイズで手頃に買える価格設定にし、カラーもあえて定番を外して多色展開することで、いろいろなコスメを手軽に試したいというニーズに応えることができました。

田中:ロコンドのD2Cブランド事業では、昨年春に人気YouTuberのヒカルさんとコラボシューズを共同開発したところ、発売から1カ月で10億円ほどの売上を記録しました。商品の発売前後には、ヒカルさんがご自身のYouTubeチャンネルでメイキングの動画などを継続的に公開し、さらに「商品が爆発的に売れたら、宮迫博之さんと一緒に出演するCMを放映してほしい」と私に直談判する動画も拡散しました。当初はこのような展開をまったく予想していませんでしたし、場合によっては炎上の可能性すらあったかもしれません。こうした企画は、市場のデータや顧客のニーズを分析していくことでは実現できないものですし、偶然生まれたような個人のアイデアでも、多くの共感を得て実売につながるといったことが、SNSマーケティングでは起こり得るのだと強く感じました。

ファミリーマート」のコスメブランド「sopo」
ファミリーマート」のコスメブランド「sopo」をプロデュース。「試してみたい」を叶えるコンセプトが若い女性に支持されている。
「sopo」は豊富なカラーバリエーションとリーズナブルな価格で展開
「sopo」は、トレンドのメイクアップアイテムを豊富なカラーバリエーションとリーズナブルな価格で展開。