「個」の時代に求められるマーケティング戦略とは

― 座談会 ―

これからの時代のマーケティング戦略

株式会社ロコンド 代表取締役 CEO  田中裕輔氏

田中裕輔

株式会社ロコンド 代表取締役 CEO

「ひとりの商人」が何を良いと考えるのかが大事になってくる (田中)

武内:モノがあふれ、消費者のニーズも多様化する中で、プロダクトアウトの発想でつくられた商品を、マス広告で宣伝することで大量に販売していくことはもはや難しくなっています。こうした時代において、皆様がそれぞれの市場のニーズに寄り添ったマーケティング戦略を展開されていることがよくわかりました。ここからは、これからの時代のマーケティングのあり方についてさらに話を深めていきたいと思います。

田中:私は、マーケティングの変遷を大きく3つの時代に分けて考えています。まずは、生活必需品をマス向けのプロダクトとしてつくり、大量に消費してもらう時代です。そして、ある程度モノが消費者に行き渡ると、今度はまだ満たされていない潜在的なニーズを顧客調査などによって分析し、大きな需要が見込まれる市場に対して商品を供給していく時代が訪れ、それがこれまでの20年だったと思っています。そして現在は、市場の分析だけではなし得ない、消費者一人ひとりの感情に訴えかけていく時代になりつつあり、これからは個人が考えるストーリーが個人の感情に結びついていくような世界になるのではないかと感じています。それこそ伊藤忠商事さんの「ひとりの商人、無数の使命」ではないですが、もともと「ひとりの商人」が良いと思ったものを、マス向けに10倍、100倍売ろうとする過程でさまざまな仕組みやビジネスモデルが生まれてきました。しかし、今改めて「ひとりの商人」が何を良いと考えるのか、その熱量をいかに伝えるかといったことが大事になっているように思います。

渡部:まさに個人の熱量やストーリーがないとモノが売れない時代になっていると思いますし、特定の個人が熱狂するような商品が、SNSなどを通じてスケールすることもよくあります。メディアの数が限られ、人々が得られる情報が少なかった時代には、テレビCMなどを打つことでモノが売れていました。しかし、SNSやスマートフォンが台頭し、人々が世界中のあらゆる情報に即時にアクセスできるようになったことで、マスメディアから発信されていたものよりももっと好きなものがあったことに、多くの人が気付ける時代になりました。「マス」から「個」の時代になったといわれて久しいですが、実は昔からずっと「個」の時代が続いていて、テクノロジーの恩恵によってそれが明確になっただけなのではないかと個人的には思っています。特に当社が関わっている化粧品や嗜好品に近いビジネスでは、「ある個人が良いと思えるものが共感を呼び、売れる」というシンプルな構造があって、その出会いの機会が圧倒的に増えた今は、より本質的な時代になっているのかもしれません。

樋渡:キャラクター業界においても、ファンコミュニティを大切にして「個」に寄り添うことが重要だとよくいわれており、「クマーバチャンネル」でもYouTubeのコメントやTwitterなどにこまめに返信してきました。しかし、この2年間を通じて、ことキッズ向けキャラクターに関しては、マス向けのマーケティング戦略が有効なのだということを痛感しました。例えば、未就学児に認知度が高いキャラクターの代表格として「アンパンマン」がありますが、実はテレビアニメの視聴率はそう高くはないんです。それでも「アンパンマン」関連の商品は、すでに子どもたちみんなが知っている存在だからよく売れるんです。だからこそ「クマーバチャンネル」では、いずれテレビアニメ化することでYouTubeでは届かない層にも認知を広げていきたいという思いがあり、ターゲット層の属性や商品カテゴリーなどによって、マーケティング戦略も変わってくるのではないかと考えています。

武内:確かに、世代や領域によってマーケティング戦略を変えていくことも必要ですね。例えば、アパレル業界においても、30代をターゲットにしたブランドの成功体験を、そのまま50代向けのブランドに水平展開しても通用しません。大切なのは、ターゲットとなる消費者のインサイトを理解し、適切な戦略を見極めていくことなのではないでしょうか。

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