「個」の時代に求められるマーケティング戦略とは
― 座談会 ―
マーケットイン発想でさらなる成長を目指す
武内:最後に、各社の今後の展望についてお話しください。
渡部:化粧品業界は、実際に試さなければ判断がしにくい商品の特性や、インバウンド需要の好況などを背景に、長らく対面販売に注力してきました。それがコロナ禍では大きなネックとなったわけですが、いまだに業界のEC化率は6~7%にとどまっています。業界のデジタルシフトを進めていく一つのキーポイントは、卸が担ってきた「物流」と「商談」のDXだと思っているのですが、当社は後者をDX化していくことで、業界の構造を変えたいと考えています。新進の化粧品メーカーは、卸問屋による与信審査が通りにくく、その結果、小売側に発見されにくいという現状がありますが、「NOIN」では、新規ブランドの参入障壁を下げており、新興ブランドの購買データも数多く蓄積されています。そこで先日、これらのデータを小売のバイヤーに提供するサービスを開始しました。小売側に「NOIN」を通じて人気の新興ブランドを知ってもらい、ブランドの販路を広げる一助となれればと思います。
樋渡:昨年10月に伊藤忠商事と「クマーバチャンネル」に関する国内のマスターライセンス契約を締結し、これを機に、ベビー・キッズ分野でのアパレルや雑貨、知育玩具やベビーケア用品、書籍、食品などあらゆる分野でライセンス商品を展開していくつもりです。現在は実店舗での販売は厳しい状況にありますが、コロナ収束後は店舗やイベントなどリアルな場でキャラクターに触れる体験のニーズは再び高まるはずだと考えています。また、コロナ禍であらゆる業界でYouTubeというメディアへの注目度が高まり、企業タイアップの依頼も急増し、テレビや雑誌などメディアを横断する企画も多くなっています。引き続きYouTubeを軸にコンテンツを配信していきつつ、各種メディアミックス展開を行い、「クマーバチャンネル」の認知をさらに高めていこうと思っています。
田中:YouTubeを活用したD2Cブランド事業に加え、「LOCONDO.jp」を中核とするEC事業では、今秋ローンチする内製化SNSも活用しながらシューズ・ファッション領域を深掘りし、7月に資本提携した株式会社フェアプレイの「SPORTS WEB SHOPPERS」との連携により、スポーツ領域も拡大していく計画です。スポーツとシューズの相性は抜群ですし、「スポーツ×ファッション」は根強い人気があります。プラットフォーム事業では、高機能な自社倉庫とITを掛け合わせたオールインワンパッケージで、在庫一元化、オムニチャネル戦略、OMO領域において国内随一のサービスが提供できる基盤を整えました。すでに約50社にこのプラットフォームサービスをご利用いただいていますが、今後は国内ファッション領域における展開をさらに広げていきたいと思います。
武内:創業から160余年、伊藤忠商事は麻布の行商に始まり、ブランドビジネスや事業投資など、世の中の変化に合わせてビジネスをアップデートしてきました。かつて、需要を創造するのは供給側の役割でしたが、市場の主導権が消費者へと移る中、我々商社もより消費者に近いポジションから新たなビジネスを創造していきたいと考えています。皆様のマーケットイン発想の事例からも多くを学ばせていただきました。今後もビジネスのパートナーとして、ぜひご一緒できたらと考えています。本日はどうもありがとうございました。