Managemant Eye
捨てられない価値をつくる
「デザイン、ものづくり、知財管理までを横断的に提案」

北川一成氏
リレー形式で展開しているこの企画、今回は株式会社ファミリアの代表取締役社長 岡崎忠彦氏からバトンが渡されました。
岡崎さんとは、神戸の経営者が集まる勉強会で知り合いました。お互いクリエイティブの仕事をしていることもあり、話が合うんですね。実は、岡崎さんはバンド仲間でもあります。お互いプライベートなことには触れず、いつも仕事や音楽、生き方の話で盛り上がっています。
1989年に、北川紙器印刷から現在のグラフ(GRAPH)へ社名変更し、自らブランディングをされています。
当社の創業は1933年。父が北川紙器印刷の経営陣の一人でした。僕は小さな頃から工場が大好きで、職人さんたちから印刷のことをたくさん教わりました。当時、正月用の贅沢な仕様でつくられた折り込みチラシが、学校で集めた古紙に混じっているのを見て、子ども心にも虚しい気持ちになったことを覚えています。入社後、「捨てられない印刷物をつくりたい」という思いで会社のリブランディングに取り組みました。
まず、社名をグラフへと変更し、「Design×Printing=GRAPH」をコンセプトに掲げました。これはデザインで印刷物の価値を高めていこうというもので、コミュニケーションを誘発するデザイン表現を提供することにより、クライアントの思いを満たし、ブランド価値を上げていくことを考えました。当初の思いは、経営資源となる持続可能なブランドづくり=「捨てられない価値をつくる」へと進化し、現在は、知的財産管理までを担うデザインや、企業のブランディングやリブランディングがコアビジネスになっています。
知的財産まで管理するのは、どのような理由からでしょう。
デザインやブランディングは、今後の成長を目指して取り組むもの。後々、商標やデザインを模倣されたり、権利侵害で訴えられては大問題ですから、デザインの技術と法律の両面から、しっかりブロックすることが重要です。デザイン、ものづくり、そして知財管理まで横断的に提案できることは当社の強みの一つです。
クリエイティブを担う人財は、どのように育成されているのでしょうか。
普段から、本を読む、人に会う、そして異なる分野に越境することをすすめています。先日も社員にメールを送りました。要約すると、「自分の外部にある情報をいかに多く取り込み、蓄積していくか。この集団知で自身の思考の質を高めていく」という内容です。重要だと思うことに気がついたときには、話したり、ときには文字に残したりしながら、社員とコミュニケーションを図っています。
デザインやブランディングの仕事は、経営そのものに関わる仕事ともいえます。社員には、何もないところから何かを生み出す0から1を創る経営マインドを持ってほしい。経営は、英語ではマネージメント、つまり、「なんとかする」ことです。それにはリスクを取って前進する力や集団をまとめる力も必要ですから、リーダーシップの能力も磨いてほしいと思っています。そして、失敗を無駄にしないこと。社員には、これまでボツになった提案をファイリングして、そこから学ぶことをすすめています。失敗は成功のもとなのですから。
現在のコロナ禍は、災害レベルの非常事態です。ある意味で生き方や人間力が問われているともいえます。人間の想像力は記憶に依存するといわれていますが、苦労して乗り越えた経験は記憶として刻まれ、想像力や予測する力の幅を広げてくれるはずです。僕自身も、そんな思いで日々の仕事に向き合っています。

