多様性の時代へ ~ジェンダーレス市場の最新事情~
CASE❸ 株式会社良品計画
あらゆる人をカバーする究極のベーシックを目指す洋服
「無印良品」における将来のベーシックを生み出すことを掲げ、2006年にスタートした「MUJI Labo(ムジラボ)」。外部ディレクターとの協業によって紳士・婦人の2ラインを展開してきた同ブランドだが、2019年以降は「性別や年齢、体型に関係なく着用できる服」として、すべてのアイテムにおいてデザインの共通化を図っている。昨今のジェンダーレスの潮流に先駆け、新たな挑戦に取り組んできた同ブランドについて取材した。

山内良介氏
株式会社良品計画 衣服・雑貨部 アパレルMD担当 MUJI Labo マネージャー
着る人を選ばない服づくり
従来の「MUJI Labo」では、紳士・婦人それぞれ別の方にディレクションをお願いしていたのですが、2019年にそのうちのお1人が男女両方の担当になったことを機に、性別や年齢、体型を問わず着られる汎用性の高い服をつくるという新たな実験を始めました。
商品のデザインはすべて共通で、トップスは3サイズ、ボトムスは5サイズ、デニムは11サイズを展開し、ゆとりを持たせたパターンが特徴です。売上構成比が高かった婦人服をなくすことは大きな挑戦でしたが、身体にフィットする洋服が主流ではなくなり、女性が男性の洋服を着ることも珍しくなくなっている中で、あらゆる人をカバーできる汎用性を持った洋服があれば、これまでのように多くの商品をつくる必要がなくなるのではないかという考えがありました。
性別・年齢を問わず広がる支持
購入者の男女比を見てみると、実店舗では女性の方が高いのですが、ECサイトでは半々くらいの構成となっています。もともと「無印良品」の店舗は女性のお客様の比率が高く、代理購入されるケースも少なくないので、実質的には性別問わず支持されているといえます。また、「無印良品」全体の主なお客様は30~40代なのですが、それに比べて「MUJI Labo」の購入層の平均年齢は若干若くなっているというデータも取れています。
若い世代のお客様から現代的なサイズ感をご評価いただいている一方で、ご年配のお客様からゆとりのあるサイジングを喜ばれる声もあるなど、エイジレスという部分に関しても「MUJI Labo」が目指しているような広がりが生まれてきています。また、SNSを見ると、「MUJI Labo」の洋服を男女のカップルで共有されているケースも多く、一着の洋服をシェアするという昨今の消費者ニーズにも合致していると感じています。
「これでいい」洋服を追求する
最近は、婦人服を男性が着こなすようなスタイルも広がっていますが、「MUJI Labo」が目指しているのは、そうしたファッショントレンドとしてのジェンダーレスではなく、性別を問わず着られる汎用性の高い服づくりを追求してきました。今後もジェンダーレスであることをことさら謳うことはせず、多くの人たちにとって役に立つもの、着る人によっていかようにもなる洋服をつくっていくつもりです。
また、これは2019年から変わらない考えですが、洋服があふれている時代だからこそ、選ぶ際に悩まないものをつくりたいという思いがあります。「無印良品」は、「これがいい」ではなく、「これでいい」という言葉を大切にしてきました。「MUJI Labo」は、「クローゼットにはこのくらいの洋服があればいい」という、究極の「これでいい」を示していく実験の場でもあると思います。すでに「MUJI Labo」で好評だった商品の一部は「無印良品」のレギュラー商品として全店に展開されていますが、今後も未来の定番をつくるために時代性も意識しながら、さまざまな実験に取り組んでいきたいと考えています。

