多様性の時代へ ~ジェンダーレス市場の最新事情~

— INTERVIEW —
株式会社明石スクールユニフォームカンパニー/菅公学生服株式会社/株式会社トンボ

学生服におけるジェンダーレスの潮流

2015年に文部科学省が「性同一性障害に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」の資料を発表して以来、学校はもちろん、学生服業界においても、ジェンダーや多様性に配慮した対応が求められている。インタビューでは、学生服業界におけるジェンダーレスの潮流、各社の具体的な取り組みや課題などを通して、これからの学生服の在り方を展望していく。(掲載は社名50音順)

多様性への理解を促しながら世界に誇れる「学生服」を発信していく

株式会社明石スクールユニフォームカンパニー 常務取締役 営業本部長 柴田快三氏

柴田快三

株式会社明石スクールユニフォームカンパニー 常務取締役 営業本部長

社内の人材育成に取り組む

当社は1865年の創業後、約90年前に学生服の生産を開始して以来、制服の価値を感じてもらえるよう、着用する側の思いに寄り添った制服を提供してきました。

ジェンダーに関する課題はずっと以前から存在していましたが、2012年頃から国内メディアでも取り上げられるようになり、現在では学校側もその課題に真剣に取り組むようになっています。学校生活には、制服以外にも部活や修学旅行、トイレや更衣室など、性差を意識するシーンが多数あります。そこで当社では、先生や生徒を支えるべく、2018年から特定非営利活動法人 日本セクシュアルマイノリティ協会と連携し、「レインボーサポート」活動を開始しました。同時に社内の人材育成にも取り組み、30名がLGBT基礎理解検定上級を取得。「レインボーサポーター」として教育現場の課題に向き合っています。

個別対応で思いに応える

従来は、男子は詰め襟、女子はセーラー服など、性差がはっきりした制服が一般的でしたが、現在はブレザー型など性差の少ないデザインを採用する学校も増えています。ただ、子どもたちが必ずしも男女兼用を好むわけではなく、例えば、「セーラー服が着たい」という性自認が女性のトランスジェンダーの方もいらっしゃいます。本人がいかに納得できるかが大事だと考え、2016年に学校の許可のもとで個別に対応する「レインボーオーダーシステム」を立ち上げました。これは、例えばスカートをはきたくない場合にはスラックスをつくり、スラックスに合わせてセーラー服の丈を長くするなど、一人ひとりの思いに応えていく取り組みです。

学校関係者や保護者を対象にジェンダーに関する講演会も実施していますが、意外にも保護者の理解があまり進んでいません。今後も多様性への理解を促しながら、時代に合わせて制服の価値を進化させ、日本が世界に誇れる「学生服」を発信していきたいと考えています。

制服のPRキャラクター
制服のPRキャラクター3人娘。
ブレザー型が9割超
変更を実施した中学校女子制服の同社内訳は、ブレザー型が9割超に。

時代の変化と未来を見据え「学生工学」をもとに価値を創出

菅公学生服株式会社 取締役 カンコー学生工学研究所 本部長 曽山紀浩氏

曽山紀浩

菅公学生服株式会社 取締役 カンコー学生工学研究所 本部長

中学校入学前に性別に違和感

当社は、スクールソリューション企業として、ものづくり、ひとづくりを通して子どもたちと学校を取り巻く社会課題の解決を目指しています。その一環として2006年に創設したのが、カンコー学生工学研究所です。「カラダ」、「ココロ」、「時代」、「学び」の4つの視点から子どもたちを見つめる「学生工学」という考え方のもと、基礎研究を行い、新たな価値を創出することを使命としています。

当社では以前から障がいや宗教、アレルギー、性別など多様な側面に配慮したインクルーシブな制服の調査、研究、提案に取り組んでおり、すべての子どもたちが心身ともに快適に過ごせる制服づくりを目指しています。性別に違和感を持つ当事者へのアンケート調査では、約8割が「中学入学前まで」に違和を感じています。こうした実態も踏まえ、当事者の声も聴きながら性差を感じさせない「ブレザースタイル」や「組み合わせの自由化」、「アイテムの選択制」など、学校と議論を重ねながらご提案し、採用実績を増やしています。

「自分らしく」あるために

制服の開発だけでなく、環境を変えていくことも重要です。当社では、多様な性のあり方を知る機会として、生徒・先生・保護者を対象に、当事者による講演会活動も実施しています。興味深いのは、生徒からは、LGBTQに関する内容よりも「当事者が自分らしく生きるために何を大事にしているのか」といった感想が多いということです。子どもたちが柔軟な考え方を示す一方で、世代や立場によっても捉え方が異なることから、現在は、自認する性の服を誰もが着られる社会、多様性を誰もが認め合える社会へと向かう過渡期だと感じています。

「自分らしく」あるために、制服のバリエーションを含めどう提供していくのかが今後の課題です。時代や環境、価値観の変化を敏感に感じとりながら、多様な子どもたちが気持ち良く学校生活が送れるインクルーシブな制服を今後も提供していきたいと思います。

LGBTQ当事者の声を発信
特設サイトでLGBTQ当事者の声を発信。
研究所の調査結果をまとめた冊子
研究所の調査結果をまとめた冊子を学校に配布している。

選べる自由誰もが「着+心地」の良いものを

株式会社トンボ 取締役 営業統括本部 副本部長 恵谷栄一氏

恵谷栄一

株式会社トンボ 取締役 営業統括本部 副本部長

ジェンダーレス対応増加を実感

1876年創業の当社は、1930年から学生服を手掛けるようになり、以来、学生服を通して多くの生徒たちの成長を見守ってきました。

昨今は、制服のモデルチェンジの際にジェンダーレス制服の導入を検討する学校が増加しています。特に、2020年に福岡市や北九州市の公立中学校が、標準服をブレザー型に変え、スカートとスラックスなどを選べるようにしたことを契機に、性差が少ないブレザー型制服への変更を検討する学校が急増しました。当社では、防寒や動きやすさの観点で早くから女子用のスラックスも取り扱ってきましたが、当初200校程度から、2021年には1,000校強にまで増えています。

選択肢・デザイン・環境づくり

当社のジェンダーレス制服では、3つのポイントを掲げています。1つ目は「選択肢を増やす」こと。男子風・女子風ジャケット、ボトム、ネクタイ・リボンの組み合わせを選択できるようにし、スラックスでは、女子でも男子と同じシルエットになるようなパターン設計を採用することも可能です。2つ目は「性差を感じさせないデザイン」で、前合わせを気にせず着用できるブルゾン風ジャケットなどを提案しています。そして、3つ目が多様な性を受け入れるための「環境づくり」です。LGBTQの当事者に講演していただくなど、先生や生徒、保護者にLGBTQについての理解を促す取り組みを行っています。また、ジェンダーや多様性への配慮をアピールしすぎないようにも気を配り、制服の採寸の際にも、男女の区別をせずに個別に行うなど、生徒の心の負担を低減するよう努めています。

当社では、早くからユニバーサルデザインを取り入れてきましたが、その経験と実績をベースに、私たち一人ひとりが見識を深めながら子どもたちの思いを理解することが大事だと考えています。また、カミングアウトしなくてもいい文化をつくっていくことも大切です。今後も学生服を通して多様性への理解を促す発信をしていきたいと思います。

ジェンダーレス制服
ジェンダーレス制服。
アピールしすぎないことも重要
多様性への配慮をアピールしすぎないことも重要だという。