Managemant Eye

味噌と塩こうじに新しい価値を付加したい

「発展、成長へ導く光を得て」

ハナマルキ株式会社 代表取締役社長 花岡俊夫氏
ハナマルキ株式会社 代表取締役社長
花岡俊夫

リレー形式で展開しているこの企画ですが、今回は、グラフ株式会社の代表取締役 北川一成氏からのバトンとなりました。

北川さんには、今年9月に発売した新商品「追いこうじみそ」のブランディングで大変お世話になりました。味噌のパッケージとしては、これまでにない斬新なデザインになっていますので、店頭でたくさんのお客様の目を奪うのではないかと、大いに期待しています。

味噌は世界に誇る発酵食品の一つです。コロナ禍では発酵食品が免疫力を高める効果があるとして、改めて注目を集めました。

当社は1918年に創業して以来、味噌とその加工品を主力に事業を展開してきましたが、実は、味噌の需要は、この50年ずっと業界全体で右肩下がりが続いています。社長に就任して32年、そうした状況下で、生産設備の拡充と世界基準の食品管理技術への対策に腐心しながら、売上を上げる努力を続けてきた毎日でした。

また、求められる味も時代とともに変わり、中でも減塩の商品化には苦心しました。味噌は保存食なので、塩が欠かせません。45年前の味噌の塩分は約13%で、今は各社平均で11%台に下がっています。その差わずか2%とはいえ、塩分量によってアミノ酸などの味をつくる成分のバランスが変わってしまうので、各社ぎりぎりのところで減塩に頑張っているという感じですね。

2012年には、新商品として画期的な調味料「液体塩こうじ」を世に送り出しました。

味噌商品は価格競争が強くなってきており、それによる危機感を常々感じていました。一方で、塩こうじという伝統的調味料が人気となり、当社もその流れに乗って販売を開始しました。そんな中、ある日、灘の酒蔵を見学させていただいた際に、醸造過程でできる発酵体「もろみ」を見て、塩こうじの「もろみ」とよく似ていることに気がついたのです。さっそく開発担当者と相談し、酒づくりと同様に塩こうじの「もろみ」を搾ってみることにしました。塩こうじの良さは旨みが強く、肉などを柔らかくすることにありますが、その決め手となるのがこうじ菌がつくる酵素です。その酵素が搾り糟と搾って得られる液体のどちらにあるのかを測定したところ、ほぼ液体にあることがわかったのです。それからは一気呵成に商品化を進め、数カ月というごく短期間で「液体塩こうじ」の発売にこぎつけました。

思えば学生時代、発酵・醸造の大家だった恩師に「醸造について多面的に知識を得ることが大事」と教えられ、醤油、日本酒、ビール、ウイスキーなどについて地道に学んできたことがこの開発につながったのかもしれません。

「液体塩こうじ」は、社内の活性化にもつながったのではないでしょうか。

「液体塩こうじ」は、これからの当社に一筋の光を点す商品だと感じています。例えるなら、真っ暗な海底を自らの灯りで進む提灯アンコウのように。現状維持ではなく、発展、成長へと導いてくれる光です。うれしいことに、この一つの商品が社員に活力を与えるとともに、「液体塩こうじ」のさらなる進化のために意欲的な研究開発が進んでいます。現在のところ、その使い勝手の良さから主に業務用の需要が伸びており、2020年にはタイの専用工場から本格出荷を開始するなど海外展開も進めています。世界で使っていただくためにはハラル対応などさまざまなハードルが存在しますが、それらを一つひとつ乗り越えながら「液体塩こうじ」の需要を伸ばしていきたいと考えています。次の100年に向けて、味噌と塩こうじに新しい価値を付加し、光をより大きなものにしたいですね。

斬新なパッケージデザインが特徴の「追いこうじみそ」
この9月に発売された「追いこうじみそ」は斬新なパッケージデザインが特徴。「液体塩こうじ」は一般家庭での需要も年々増えている。
長野県伊那市の「みそ作り体験館」
長野県伊那市にある「みそ作り体験館」。みそを実際に作れるほか、みそについての基礎知識の学習や隣接する伊那工場の見学などができる。国内外の数々の建築・デザイン賞に入賞している建物も見所。