次なる消費リーダー「Z世代」を狙え!
取材先 (社名50音順) |
株式会社ギンビス 広報担当 | 坂井明野氏 |
---|---|---|
株式会社FABRIC TOKYO 社長室 広報・PR | 長倉紀子氏 | |
株式会社yutori 代表取締役社長 | 片石貴展氏 | |
COLUMN | 株式会社電通 第2クリエーティブプランニング局 Future Creative Center 電通若者研究部 ブランディングディレクター | 用丸雅也氏 |
取材先(社名50音順) | |
株式会社ギンビス 広報担当 | 坂井明野氏 |
---|---|
株式会社FABRIC TOKYO 社長室 広報・PR | 長倉紀子氏 |
株式会社yutori 代表取締役社長 | 片石貴展氏 |
COLUMN | |
株式会社電通 第2クリエーティブプランニング局 Future Creative Center 電通若者研究部 ブランディングディレクター | 用丸雅也氏 |
1990年代後半から2000年代に生まれ、物心ついた頃からデジタルツールが発達していたZ世代は、SNSなどを用いた情報収集やコミュニケーションに長けた世代だ。先行きが見えない社会情勢などから安定志向・現実主義といわれる彼らは、慎重な消費行動を取る傾向が見られる一方、多様な価値観や自分らしさを尊重し、好きなもの、信頼できるものには積極的に投資をする一面も併せ持つ。また、社会課題に対して高い関心を持ち、環境や人権などに配慮した「エシカル消費」の潮流を牽引する存在でもある。本号では、こうしたZ世代から支持されるビジネスを展開する企業や有識者への取材を通じて、Z世代市場攻略のヒントを探る。
時代に即したリアリティのある消費者として向き合う
世界的に注目を集めるZ世代
Z世代は、この言葉が生まれたアメリカではすでに消費市場の主役といえるほどの購買力を持ち、マーケティングにおいて最も重視される世代となっている。世界的に見てもZ世代は全人口の30%以上を占め、ミレニアル世代を上回る。一方、少子高齢化が進む日本のZ世代は市場規模において十分な存在感を示せていない現状もあるが、株式会社電通で10代から20代の実態をリサーチする電通若者研究部にも所属する用丸雅也氏は、「同部は若者を『最初に新しくなる人』であり、『未来に最も近い人』と定義している。企業にとって半歩先の未来を見ることは不可欠であり、若者を軽んじていては時代遅れの価値観のもとで当事者不在のビジネスを展開することになってしまう」と、未来のスタンダードを創るZ世代の価値観に向き合うことの重要性を説く。
株式会社ギンビスのロングセラー商品「たべっ子どうぶつ」は、SNS映えするカラフルな動物のキャラクターを用いた雑貨の展開でZ世代の心を掴み、長年の課題だった若年層の取り込みに成功した。広報担当の坂井明野氏は、「Z世代は消費が活発なわけではないが、本当に気に入ったものには手を伸ばす世代。商品の味だけではなく、パッケージやキャラクターのかわいらしさに価値を感じてくださるお客様も多く、それをSNSなどを通じて自発的に発信していただけた」と予想を超えるムーブメントにまで広がった一連の施策を振り返る。これらは20代から30代の若手社員を中心に進められた経緯があり、Z世代に近い視点から心をくすぐる施策を展開できたことも成功の一因といえそうだ。
SNS時代のブランド戦略
アパレル分野においてZ世代の人気を集めているのは、その社名の通り「ゆとり世代」である代表取締役社長の片石貴展氏が2018年に創業した株式会社yutoriだ。10を超えるD2Cブランドを展開し、SNSを通じた世界観の発信やコミュニティの形成によってZ世代のファンを多く獲得してきた同社の片石氏は、「Z世代にとって最も身近でリアルなツールであるSNSを通じて、どんな印象を持ってもらうのかということがビジネスの前提になる。それは、TikTokなどで目を引くビビッドな色がトレンドカラーになっていることからもうかがえる」と語るように、SNSの存在はZ世代のファッショントレンドにも大きな影響を及ぼしている。ハッシュタグを考えるようにブランドのテーマを設定するという同社が示すのは、SNS時代の新たなブランド像だ。
ビジネスウェアの領域で成長を続けるD2Cブランド「ファブリック トウキョウ(FABRIC TOKYO)」も、これから社会人となるZ世代に向けた施策を強化している。株式会社FABRIC TOKYOで広報・PRを担当する長倉紀子氏は、「採寸を店舗で行い、ECで販売するビジネスモデルを、『売らない店舗』として注目いただいている。Z世代の消費行動を観察していても、実店舗は商品をチェックしたり、友人と一緒に時間を過ごすための場であり、購入はECで行うという認識がスタンダードになっているように見受けられる」と実店舗のあり方が変化していることを指摘する。店舗を単なる採寸の場ではなく、顧客とのコミュニケーションや購買体験の場として重視する同ブランドの取り組みは、こうしたZ世代の消費行動とも合致しているといえる。
そのZ世代像はリアルか?
「ファブリック トウキョウ」は、工場や問屋に眠る生地に光を当てる毎年恒例の企画において、ストーリーを読み進めて共感メッセージを書き込まなければ購入できない「なかなか買えないECサイト」を展開して話題を集めている。長倉氏は企画の意図について、「このような投げかけを通じて普段の消費行動を見直すことや、商品の背景を知った上で購入することの意味を感じていただきたかった」と語る。同社では、サステナビリティやジェンダーに関する先進的な取り組みを続けており、こうした姿勢も消費に「意味」を求めるZ世代に訴えるものとなっている。
「長い間愛され続けてきたものだからこそ『変えない』こと、ブームとして消費されないように『出しすぎない』ことにこだわっている」とブランド戦略について語るのは、ギンビスの坂井氏だ。昨今のレトロブームも追い風になったという「たべっ子どうぶつ」の一連の施策は、ブランドや商品の普遍的な魅力を再発見する側面があり、必ずしも「新しさ」が評価軸にならないZ世代に価値を届ける「伝え方」や「見立て」も一つのカギになりそうだ。
90年代のストリートスタイルを若い世代向けに再解釈したブランド「ナインティナインティ(9090)」など、「リバイバル」が一つのキーワードとなっているyutoriの片石氏は、「Z世代に限らず、世代によるカテゴライズは繰り返し行われてきたことだが、根本にある行動原理がこれまでの世代と大きく変わっている印象はない。大人が求める『Z世代像』がつくられているのではないか」と指摘する。電通若者研究部の用丸氏も、「世代としての傾向はあるものの、決して『Z世代』という名の消費者がいるわけではない」と注意を促すように、若い世代の価値観を柔軟に受け入れながら、リアリティのある消費者像と向き合っていくことが、いつの時代も変わらぬ成功要因であることを忘れてはならないだろう。


