「シニア」とは呼ばせない! これからのリタイア世代を掴め
[対談]
株式会社ハルメクホールディングス 生きかた上手研究所 所長 | 梅津順江氏 | ✕ | 伊藤忠ファッションシステム株式会社 ナレッジ開発室 室長 | 小原直花氏 |
---|
取材先 (社名50音順) | 株式会社アダストリア スタディオクリップ営業本部長 | 新井隆広氏 |
---|---|---|
株式会社ユーキャン 開発部 大人学び開発課 | 野田明子氏 |
株式会社ハルメクホールディングス 生きかた上手研究所 所長 | 梅津順江氏 |
---|---|
✕ | |
伊藤忠ファッションシステム株式会社 ナレッジ開発室 室長 | 小原直花氏 |
取材先 (社名50音順)
株式会社アダストリア スタディオクリップ営業本部長 | 新井隆広氏 |
---|---|
株式会社ユーキャン 開発部 大人学び開発課 | 野田明子氏 |
団塊世代がリタイアを迎えた2010年頃にシニア市場は大きな関心を集めたが、少子高齢化が進む日本において、シニア市場の攻略はますます重要なものとなっている。こうした中で、1959年~1964年生まれのまもなく全員が定年を迎える世代が次なる「狙い目」として注目されている。バブル期に青春を謳歌したこの世代は、ブランド品、グルメ、海外旅行、テニス、スキーなどのモノやコトに旺盛な消費意欲と行動力を示してきた。消費に欲張りな最後の世代ともいわれる生活者が定年を迎え、シニア市場が新たなステージに入ることが予想される中、これらの世代を見据えたビジネスを展開する企業への取材や有識者の対談を通じて、これからのリタイア世代攻略のヒントを探る。
[対談]梅津順江氏 × 小原直花氏 これからのリタイア世代の特徴に注目 ①

梅津順江氏
株式会社ハルメクホールディングス 生きかた上手研究所 所長
大学卒業後、ジュジュ化粧品(現・小林製薬)に入社。ジャパン・マーケティング・エージェンシーを経て、2016年3月から現職。年間1,000人近くのシニアを対象にインタビューや取材を行い、誌面づくり、商品開発・広告制作に役立てている。『この1冊ですべてわかる 心理マーケティングの基本』(日本実業出版社)、『シニア市場の正体』(毎日新聞)、『ときめく!シニア女性マーケ』(日経MJ)などの著作物や連載がある。
自分の感覚や価値観に合わないものは消費しない賢さや合理性を持つ世代 (長田)

小原直花氏
伊藤忠ファッションシステム株式会社 ナレッジ開発室 室長
1992年入社。「生活者目線で消費動向を捉える」を軸に、「世代」「ファッション」「生活者気分」を切り口として価値観やライフスタイルを分析。リサーチテーマは「インスタ世代」「コロナ禍により変わること・変わらないこと」「この先シニアのライフスタイル」「サステナブルと生活者にとっての心地よい暮らしのイメージ」など。著書に『婦国論』(弘文堂)、共著に『シニアビジネスの新しい主役 Hanako世代を狙え!』(ダイヤモンド社)などがある。
消費欲と行動力のある「ハナコ世代」はシニア市場における「狙い目」となりそうです (小原)
リタイア世代に「シニア」の自覚はない
伊藤忠ファッションシステム株式会社 ナレッジ開発室 室長 小原直花氏(以下、小原):20代〜70代の生活者の価値観や消費動向の調査を行っているナレッジ開発室では、まもなく全員が還暦や定年を迎える1959年~1964年生まれを「ハナコ(Hanako)世代」と呼んでいます。バブル期に青春時代を過ごし、旺盛な消費意欲を発揮してきた「ハナコ世代」は、これまでのリタイア世代とは大きく異なる価値観を持っています。今日はそんなこれからのリタイア世代の価値観、消費行動を中心にお伺いできればと考えています。まずは、梅津さんが所長を務める生きかた上手研究所についてご紹介いただけますか。
株式会社ハルメクホールディングス 生きかた上手研究所 所長 梅津順江氏(以下、梅津):生きかた上手研究所は、当社が提供するサービスに関するマーケティングやリサーチ・コンサルティングを行うシンクタンクとして、2014年に発足しました。当社では、50代以上の女性をターゲットとした雑誌『ハルメク』の出版と通信販売を2本柱にしているのですが、これらの事業のコンテンツ・商品開発のリサーチ支援に加えて、現在は企業のシニア向けビジネスのリサーチ・コンサルティングも手がけています。また、独自の視点からシニアの消費行動についてまとめたレポートの作成・発信、シニアトレンド発表会なども行っています。
小原:人生100年時代といわれる今、還暦や定年後にいかに充実した暮らしを描けるかということはますます大きなテーマになっています。そうした中で、還暦前後の世代がどのような意識を持ち、リタイア後の暮らしをどう設計しようとしているのでしょうか。
梅津:現在の50代〜70代の方たちはとにかく、気持ちが若いです。過去に行った50歳~75歳の年齢に関する自己認識調査で、「普段何歳くらいのお気持ちで日常生活を送っていますか?」(=知覚年齢)、「周りから何歳くらいに見られていると思っていますか?」(=他者知覚年齢)との質問に、実年齢よりも知覚年齢が6歳~11歳、他者知覚年齢は3歳~10歳ほど若いという結果が出ました。自分たちのことを「シニア」や「高齢者」と認識されていないことがわかります。
小原:長寿社会となった日本では、還暦や定年に対する考え方も大きく変わってきていると思います。
梅津:そうですね。還暦祝いにしても、「3回目の成人式」というイベントとして楽しんでいる方もいます。ただ、気持ちの若さと身体にはギャップがあることも事実で、そこにビジネスチャンスがあると考えています。例えば、「老眼鏡」を「ルーペ」と打ち出したり、「白髪染め」を「プラチナグレイカラー」と再定義したりするなど、心と身体のギャップを埋めるような言葉やパッケージデザインなどは非常に大切だと考えています。
社会と関わり続ける「ハナコ世代」
小原:調査をしていると、現在の50代~60代女性は生涯現役という考え方が強いように感じるのですが、『ハルメク』の読者についてはいかがでしょうか。
梅津:50代後半で80%、60代前半でも50%弱の女性が、今も何かしらの仕事をお持ちです。60代後半や70代以降の人たちに比べて、社会と積極的に関わっている方が圧倒的に多いのも、この世代の特徴だといえます。
小原:「ハナコ世代」の女性は結婚して家庭に入った方も多いですが、周りには結婚後も働き続け、キャリアを積んだ人たちが少なくありません。そのため、いかに社会で活躍できるかという意識が上の世代よりも強いように感じます。
梅津:「まだ自分は社会に接している」という目に見えない優越感のようなものを感じることはあります。ただ、強くそれを主張したいわけではなく、周囲と比べて少し良い暮らしをしていること、少しおしゃれに見られることなどに喜びを感じているのだと思います。
小原:この世代には資格を取ったり、趣味を充実させるために習い事や勉強を始める方も多いように思いますね。
梅津:確かに「学び」に関しても意欲的で、その背景には年金をあまりもらえない世代だという認識があるのだと思います。年金受給前は、将来のお金に対する不安が大きくなりますし、だからこそ何か手に職をつけておきたくなるのではないでしょうか。身近な人が要介護になったことで、介護関連の資格を取った話などもよく聞きます。経済的にゆとりがある人たちの中には、仕事からは一歩退きつつ、地域のコミュニティと関わる上で得意分野があった方が良いという考えから新しいことを学ぶ方もいます。もともと好奇心が旺盛な世代なので、自分が知らない世界にチャレンジしたいという欲求も強く、コロナ禍ではそのニーズがさらに高まっています。『ハルメク』の読者の中には、これまでに築いてきた人脈や経験に加え、新たにデジタルスキルを習得して起業した方もいました。
