「シニア」とは呼ばせない! これからのリタイア世代を掴め

[対談]梅津順江 × 小原直花氏 これからのリタイア世代の特徴に注目 ②

「ハナコ世代」のファッション観

梅津順江氏と小原直花氏
左:梅津順江氏、右:小原直花氏。

小原:社会との接点を多く持つ「ハナコ世代」は、趣味やライフスタイルを充実させることにも貪欲ですよね。

梅津:50代後半から60代は親の介護や孫の世話などで忙しい時期でもありますが、自分の時間をつくろうとするのもこの世代の特徴で、趣味や習い事などにしっかり投資します。仕事にも、遊びにも、恋愛にも貪欲だった世代ならではの「欲張り」なところが、そうした行動に表れていると思います。また、若い頃に雑誌などのマスメディアが身近だったため、元『JJ』モデルの黒田知永子さんのように、「自分もこうなりたい」という憧れの存在がいる最後の世代だと感じています。「あの人のようにスタイルをキープしたい」、「こういう生活に少しでも近づきたい」という欲求から、お手本となる人と同じ化粧品や洋服を求めるという消費行動が顕著です。

小原:憧れのスタイルや暮らし方のイメージを明確に持ちながら、今もファッションや美容への興味・関心、消費が旺盛な世代ということでしょうか。

梅津:そう思いきや、特にコロナ禍以降は服を買わなくなった、家と外で兼用できる服を選ぶようになったという声をよく聞きます。当社の通販事業においても、「使い回せる」、「長持ちする」、「アレンジの応用が利く」といった視点から、汎用性が高いアイテムの展開に力を入れています。最近の若い世代とも共通する点だと思いますが、シーズンを問わず着られる洋服を求める傾向も強まっています。一方で、若い世代と異なるのは、タンスの肥やしになっている洋服がたくさんあることです。この世代には「今あるものを年相応のファッションとして楽しみたい」という思いがあると感じており、『ハルメク』でも手持ちの洋服を素敵にアレンジする提案などを行っています。

小原:バブル期に購入したブランド品など、良いモノを持っている世代だからこそでしょうね。一方で、加齢による身体の変化もあると思いますが。

梅津:やはり年齢を重ねたからこそのお悩みは多く、体形やお肌の変化をカバーしてくれるデザインや色味、パターンのファッションが好まれます。適度に胸元が開いている洋服の方が素敵に見えるとか、フリルのついた洋服は似合わなくなるなど、自らの変化に応じたおしゃれをよくわかっている方も多いと感じます。

小原:「ハナコ世代」は、若い頃に海外の化粧品ブランドを使っていた人も多いと思いますが、コスメについてはどんなものが選ばれているのでしょう。

梅津:年齢を重ねることでお肌が敏感になったり、乾燥するようになったりと変化が起こります。ですので、なるべくシンプルにスキンケアをする傾向が強く、無香料・無着色の国産コスメなどが人気です。ブランドや価格より、自分の肌に合うものを探されている印象です。また、コロナ禍以降は特に、「顔」よりも「髪」にお金をかけるようになっています。髪が白くなるだけではなく、ボリュームがなくなる、水分が減って広がりやうねりが出てしまうなど、髪にもさまざまな変化が起こります。メガネやスカーフなどのファッション小物のような感覚で、ウィッグなどを取り入れる方も多いです。

報収集力と行動力を兼備する世代

小原:歳を重ねるにつれて自分が関わるコミュニティが狭くなる傾向が強かったこれまでのリタイア世代に対し、社会と接点を持ち続けている「ハナコ世代」はさまざまな情報を得る機会も多そうですね。

梅津:今の50代後半から60代の人たちはテレビなどから受動的に情報を得るだけでなく、SNSなども活用して能動的に情報を得ている点も上の世代との大きな違いです。親子インタビューをすると、娘さんがお母さんから情報をもらうケースも結構多いですね。デジタル関連の情報などはお子さんの方が強いのですが、それ以外の分野では母親が情報の発信源になっているところがあります。若い世代はSNSなどに情報源が偏っているところがありますが、『ハルメク』の読者は紙媒体も含めてさまざまなところから情報を得ていて、非常にバランスが良いんです。受信と発信の両方が上手な世代だからこそ、社会との接点を持ち続けられるのだと感じます。

小原:コロナ禍以前は、「ハナコ世代」の人からよく旅行の話などを聞いていましたが、消費意欲や情報収集力だけではなく行動力もありますよね。

梅津:その象徴的な例の一つとして、「推し消費」が挙げられると思います。ファンミーティングなどにも積極的に参加して、自分の「推し」に少しでも近づこうとするところがあります。

小原:さまざまなことに貪欲な「ハナコ世代」は、これからのシニア市場における「狙い目」となりそうですね。

梅津:はい。ただ、消費欲求が旺盛とはいえ、目が非常に肥えているので、なんでもかんでも売れるということは絶対にないと感じています。自分の感覚や価値観に合わないものは消費しないという賢さや合理性を持った世代です。忙しい日々の中で、いかに家事などを合理化するのかということも大きなテーマの一つです。そのため、時間を効率的に使うための消費にも貪欲で、広い選択肢の中から合理的な選択をします。そうした世代だからこそ、使うところには使い、守るところは守る「メリハリ消費」というのがキーワードになると考えています。

小原:自分のスタイルや暮らし方を明確に持ち、情報収集力や行動力も備えている「ハナコ世代」。今後、その市場がどのような様相を見せていくのか、ますます楽しみになりました。本日はありがとうございました。

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