メタバースが切り拓くファッションビジネスの未来
取材先 (社名50音順) |
株式会社アンリアレイジ 代表取締役 兼 デザイナー | 森永邦彦氏 |
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株式会社ビームス クリエイティブ ビジネスプロデュース部 ビジネスプロデュース3課 課長 | 木村 淳氏 | |
株式会社三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部 | 仲田朝彦氏 | |
COLUMN | 明治大学商学部 特任講師/Synflux株式会社 リサーチリード/理研AIP 客員研究員 | 藤嶋陽子氏 |
取材先(社名50音順) | |
株式会社アンリアレイジ 代表取締役 兼 デザイナー | 森永邦彦氏 |
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株式会社ビームス クリエイティブ ビジネスプロデュース部 ビジネスプロデュース3課 課長 | 木村 淳氏 |
株式会社三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部 | 仲田朝彦氏 |
COLUMN | |
明治大学商学部 特任講師/Synflux株式会社 リサーチリード/理研AIP 客員研究員 | 藤嶋陽子氏 |
オンラインコミュニケーションの発展、VR機器やブロックチェーン技術の実用化、コロナ禍による外出制限など、さまざまな技術的・社会的背景のもと、インターネット上に存在する仮想空間、メタバースへの関心が高まり、大手企業の参入も相次いでいる。コロナ禍にはオンラインでのゲームやコンサートなどを通じてバーチャル空間で過ごすライフスタイルが身近なものになりつつあり、若い世代を中心に仮想空間上の「アバター」が身につけるバーチャルファッションも支持されている。本号ではファッション・アパレル領域で先駆的な取り組みを行う企業、ブランドへの取材を通じて、新たな経済圏として注目されているメタバースの可能性に迫る。
リアルとバーチャルのモノづくりがともに成長していくために
仮想空間ならではの売り場づくり
コロナ禍に世界的な支持を得た任天堂株式会社のゲーム『あつまれ どうぶつの森』で、多くのファッションブランドがゲーム世界で着用できるアイテムをデザインしたように、メタバースをファンとの新たなエンゲージメントの場と捉えるアパレル企業が急増している。
こうした潮流に先駆け、ゲームやアニメ領域を中心にバーチャルとリアルを行き来する取り組みを行ってきた「BEAMS」は、世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」に2020年より継続的に出店している。株式会社ビームス クリエイティブ ビジネスプロデュース部の木村 淳氏は初めてのメタバース体験について、「自分のアバターや、それに着せるアイテムを選択する行為や感覚は現実のファッションと同じだと感じた。メタバースの世界では、多様な国籍の人たちが性別などにとらわれず自分を表現するコミュニケーションの場が形成されていた」と振り返り、そこに新しいファッションビジネスの可能性を見出した。リアル販売員によるバーチャル接客や3DCG商品の販売、さまざまなコラボレーション企画などを展開する同社は、メタバースならではのセレクトショップの在り方を追求している。
同じくバーチャルマーケットへの出店を経て、仮想都市のコミュニケーションプラットフォーム「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」の構築に至ったのは、株式会社三越伊勢丹だ。スマートフォン一つでメタバースを体験できる同サービスを、社内起業制度で立ち上げたデジタル事業運営部の仲田朝彦氏は、「ECでの購買体験は便利でスマートだが、思い出に残るような体験や思わぬ商品との出会いには乏しい。人と人がコミュニケーションしながらコンテンツに触れるという実店舗ならではの体験価値をメタバース上に再現することで、顧客体験を重視する百貨店らしいDXが実現できると考えた」とその経緯を話す。「REV WORLDS」内の「仮想伊勢丹新宿店」にはすでにさまざまな企業が出店しており、同社は売り場の企画から3Dモデリングなど技術的なサポートまでを行っている。
カギはリアルとバーチャルの連携
新たなテクノロジーを服づくりに積極的に取り入れ、世界的にも注目を浴びてきた「アンリアレイジ」は、今年開催された「メタバースファッションウィーク」に日本から唯一参加したブランドだ。コロナ禍のパリコレクションで映画『竜とそばかすの姫』とコラボレーションしたデジタルコレクションを発表し、各ルックのデータをNFTで販売した「アンリアレイジ」でデザイナーを務める森永邦彦氏は、「メタバース上のファッションはファンタジーに振り切ったものが多い印象だが、フィジカルの洋服が持つ力をデジタルの世界でも表現したい。デジタルデータを一点物として販売できるNFTの技術によって、かつてのオートクチュールのような服づくりがデジタル上で実現できるようになっている」と語る。デジタルデータの唯一性を証明するブロックチェーン技術を活用することで、ブランドの新たな収益モデルを確立していくことにも意欲を見せる。
仮想空間上でコンテンツが完結するゲームやアニメなどのエンターテインメントに対して、ファッション領域におけるメタバースでは、実店舗やフィジカルな製品との連携が当面の間はカギになりそうだ。実店舗と仮想店舗を連携させた企画にも積極的に取り組み、リアルとバーチャル双方に価値をもたらすことを目指している三越伊勢丹の仲田氏は、「1年間の取り組みを通じて、リアルの店舗や場を持ち、B to Cビジネスをしてきた企業ほど多くのノウハウをメタバースに転用できることがわかった。メタバースはハードルが高いと思われがちだが、上質な顧客体験を追求してきた企業には使えるアセットは多い」と話し、今後も多くの企業の参入を促していく構えだ。
メタバースが変える製造プロセス
メタバースはアパレルの製造工程にも大きな変化を与える可能性がある。3DCADツールを用いた服づくりや過去のコレクションのデジタルアーカイブなどを推し進めている「アンリアレイジ」の森永氏は、「日本の繊維・アパレル産業は糸や生地、縫製などのモノづくりの力に支えられて発展してきた歴史があるが、メタバース上のファッション領域においては、モノをつくる力が今の日本にはほとんどない。」と現状の問題点を指摘し、バーチャルのモノづくりが成長していくことによって、リアルとバーチャル双方がともに発展していく未来に期待を寄せる。
他方、メタバースやバーチャルファッションは、大量廃棄などの問題が指摘されている産業のサステナビリティを高める可能性も秘めている。ビームス クリエイティブの木村氏は、「在庫や廃棄の概念がないメタバースでは、過去に挑戦できなかったアイデアや技術を形にし、バイヤーやユーザーからのフィードバックを受けてリアルの洋服を商品化していくような流れもつくれるかもしれない」と語り、リアルとバーチャルを行き来する未来の服づくりを予見する。
まだ一般生活者に広く浸透しているとはいえないメタバースだが、多くのアパレル企業が参入することによって、産業が抱えるさまざまな課題解決に寄与すると同時に、より多くの生活者を惹きつける豊かな世界が仮想空間上に形づくられていくであろう。


