メタバースが切り拓くファッションビジネスの未来
CASE❶ 株式会社アンリアレイジ
ブランド資産をデジタル上に蓄積しビジネスとクリエーションの新しい可能性を開拓
2021年10月に映画『竜とそばかすの姫』とのコラボレーションによるデジタルショーを発表し、デジタルルックのNFTが高額で購入されたことでも話題を集めた「アンリアレイジ」。その後もメタバース上でデジタルコレクションが体験できるバーチャル展示会や期間限定ショップなどに積極的に取り組み、先日開催された「メタバースファッションウィーク」にも日本から唯一参加した同ブランドのデザイナー、森永邦彦氏に取材した。

森永邦彦氏
株式会社アンリアレイジ 代表取締役 兼 デザイナー
きっかけは映画とのコラボレーション
「A REAL」(=日常)、「UN REAL」(=非日常)、「AGE」(=時代)をかけ合わせた言葉「アンリアレイジ(ANREALAGE)」をブランド名にしている当社では、3Dプリンタやバイオテクノロジーなど時代ごとに登場する新しいテクノロジーを取り入れ、「非日常」を発信してきました。私たちにとってメタバースやNFTもそうしたテクノロジーの一つですが、きっかけとなったのは、2020年に映画監督の細田守さんから映画『竜とそばかすの姫』の仮想空間に登場するアバターが着るドレスのデザインを依頼されたことでした。
当時は新型コロナウイルスの感染が拡大し始めていた時期でもあったため、これを機に非対面でモノづくりが完結できる体制を構築したいと考え、3Dモデリングソフトを導入し、過去のコレクションの3Dデータ化にも取り組み始めました。そして、デジタル上の資産やノウハウが蓄積されてきた2021年10月のパリコレクションでは、『竜とそばかすの姫』とコラボレートし、バーチャルとリアルの世界を交錯させるようなデジタルコレクションを発表しました。
ショーのデジタルデータをNFTで販売
ショーで発表したデジタルルックはNFTなどで販売し、NFT鳴門美術館が計11点を5,000万円で落札しました。デジタルデータを「一点物」として販売できるNFTによって、それまでブランドのPRやマーケティングのための投資と捉えていたファッションショーをデジタル資産づくりの機会と考えるようになり、ブランドの新しいビジネスの可能性も見えてきました。
現在は従来の「アンリアレイジ」のファン層とNFTの購買層が分かれており、両者を接続していくことがブランドとしての今後のミッションです。その中で、メタバース上でコレクションを展示・販売するバーチャル展示会やデジタルショップを展開するなど、従来の顧客との接点となる場所として、メタバースやNFTを日常的に体験してもらえる機会をつくっていくことが大切だと考えています。
拡張するファッションの概念
人が集い、コミュニケーションが生まれる場には、どんな形であれファッションが求められます。もはやSNSのアイコンを変えることも広義の「装い」だといえますし、メタバースというもう一つの「日常」が生まれつつある中、ファッションというのはもっと拡張できるものだと思っています。
ブランドを始めた当時は、リアルに存在しないものをつくるということは一切考えていませんでした。今後、メタバース上のコミュニケーションがさらに発展していくことで、リアルの洋服は買わずにデジタルデータだけを保有するという選択が日常になる時代が来るかもしれません。メタバース上のビジネスはまだ黎明期ですが、一つのブランドとして立ち会えていることは今しかできない貴重な体験だと感じていますし、デジタル上にある「本物」の価値を証明することで、新しいビジネスをつくっていくことができるNFTの仕組みには大きな可能性を感じています。

