東京の魅力再発見~持続可能な都市の未来
取材先 (社名50音順) |
NPO法人 銀座ミツバチプロジェクト 副理事長 | 田中淳夫氏 |
---|---|---|
東京ニットファッション工業組合 理事長 | 南木健利氏 | |
株式会社乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト リーダー | 加藤悟郎氏 | |
COLUMN | 武蔵野大学 工学部 環境システム学科 教授 | 白井信雄氏 |
取材先(社名50音順) | |
NPO法人 銀座ミツバチプロジェクト 副理事長 | 田中淳夫氏 |
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東京ニットファッション工業組合 理事長 | 南木健利氏 |
株式会社乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト リーダー | 加藤悟郎氏 |
COLUMN | |
武蔵野大学 工学部 環境システム学科 教授 | 白井信雄氏 |
コロナ禍によって人々の価値観やライフスタイルが大きく変わる中、東京の価値が改めて問い直されている。さまざまな人・モノ・コトが集まる流行発信地、一大消費地としての側面だけでなく、近年は第一次産業における取り組みをはじめ、江戸時代から続く地域の資源やものづくりの技術に目を向け、後世に継承しようとする動きが活発化している。地域資源の循環を促すこれらの動きは、持続可能な都市の在り方を示唆するだけでなく、アフターコロナ時代の東京の価値を世界に発信していく取り組みとしても注目されている。本号では、新たな東京の魅力を追求する企業や団体への取材を通じて、持続可能なビジネスのヒントを探る。
東京最大の地域資源である人材やネットワークを生かす
可視化される東京の価値
新型コロナウイルスの感染拡大は、グローバリゼーションの弊害や、地域コミュニティの希薄化などさまざまな課題を浮き彫りにした。都市への人口集中が世界的に進む中、コロナ禍はこれからの都市の在り方を見つめ直す契機となり、東京においても地域を足元から見つめ、新しい価値を発信する取り組みが注目されている。
2006年から銀座での養蜂、ならびにビルの屋上緑化に取り組んできたNPO法人 銀座ミツバチプロジェクトは、意外にも全国トップクラスの都市緑地面積を誇る東京のポテンシャルに気づかせてくれる取り組みだ。同プロジェクトの副理事長 田中淳夫氏が、「ミツバチは環境汚染への耐性が弱いため、海外にはミツバチとの共生を図ることで、環境と向き合うライフスタイルがある。特にコロナ禍においては、自然や生き物に触れたり、生産や収穫といった営みに参加したりすることで充実感を覚えている人たちも少なくない」と語るように、東京随一の繁華街・銀座から、環境と共生するウェルビーイングな都市の在り方を発信する取り組みは、地域内外に多様なつながりを生み、活動は全国に広がっている。
一方、東京の下町である墨田区を中心とした東部エリアでは、長らく日本のアパレル産業を支えてきたニット製造の技術を未来につなぐ産地ブランディング事業「TOKYO KNIT(トウキョウニット)」が展開中だ。イタリアの見本市「PITTI IMMAGINE UOMO」への出展をはじめ、産地の魅力を国内外に発信してきた東京ニットファッション工業組合の理事長 南木健利氏は、「東京は既成概念にとらわれないチャレンジを絶えず続けてきた都市だ、というイメージを持たれていることがわかった。こうした東京のポテンシャルを生かしながら技術を磨くことで、これまで以上に各社が輝くモノづくりをしていきたい」と語り、東京のクリエイターらとも協業しながら、世界に注目される産地になることを標榜している。
消費地に近いという産地の強み
2018年に東京・多摩エリアの木材を活用した神田明神文化交流館「EDOCCO(えどっこ)」を手がけた株式会社乃村工藝社は、多摩や飯能など東京近郊の産地をはじめ、森林環境や地域社会に配慮した木材「フェアウッド」の活用を推進している。同社の「フェアウッド・プロジェクト」をリードする加藤悟郎氏は、「多摩のような消費地に近い産地があるにもかかわらず、これまで建築内装業界には地域産材を積極的に使う慣習はなかった。しかし、戦後に植林された多くの木が切り時を迎える中、これらに付加価値をつけて活用することで森林の保護や持続可能な木材流通を促していくことは当社の社会的責任」と話し、SDGsの観点からも持続可能な森林経営の実現に向け、今後も都市と森の循環を促していく構えだ。
消費地に近い産地の強みを生かし、持続可能な産業モデルの構築を目指す姿勢は、「TOKYO KNIT」にも共通している。「ファッション産業が抱える最大の問題である大量生産・大量廃棄は、消費地から離れた海外で大量にモノをつくり、余剰はセールなどで販売する産業構造や商習慣に大きな原因がある。今後は当組合としてもOEM生産による消極的なモノづくりの姿勢を改め、産地から発信できるサステナブルな活動に率先して取り組んでいきたい」と南木氏は語り、業界のトレンドや消費者の動向に素早く反応できる東京の産地から、適量・適時生産が業界のスタンダードになる未来を描いている。
カギとなるのは社会性と経済性の両立
地域資源の循環や地産地消を促す取り組みは、国や自治体が推進する持続可能な地域づくりと呼応するものであり、助成金などが得られるケースも少なくない。本号で紹介する取り組みの中にも国や自治体の支援のもとで推進されているものは多いが、乃村工藝社の加藤氏が、「環境や社会に対する意識の高いお客様が、環境負荷が少なく、ストーリー性もある材料の調達を希望されるケースもあるが、当然ながらビジネスにおいては費用対効果などがシビアに判断される。そうした中で、地域産材を使うことの具体的な効能を伝えていくために、さまざまな角度から探索を続けたい」と語るように、社会的意義と経済的価値を両立させるビジネスモデルを構築していくことが求められている。
銀座ミツバチプロジェクトは、地域の事業者による製品開発を通して地産地消を促すとともに、各地の生産者とのネットワークを生かした物産フェアを百貨店で開催するなどして、自立的な活動モデルを構築してきた。「人里離れた場所で養蜂をすればそれは農作業でしかないかもしれないが、銀座の周りには飲食業界をはじめ世界トップの技を持つ人たちがいる。繁華街である銀座とミツバチという一見遠いと思われる存在がつながることで、新しい価値が生まれるという考え方を示していく役割が自分たちにはある」と田中氏。
東京最大の地域資源である人材やネットワークを生かし、足元の魅力を最大化していくことで東京の新たな価値が可視化され、その先に持続可能な都市のモデルとして世界から注目される未来が訪れるだろう。


