東京の魅力再発見~持続可能な都市の未来

CASE❸ 株式会社乃村工藝社

都市と森林をつなぎ持続可能な木材活用を推進する

国内外のさまざまな施設の空間プロデュースなどを手がける株式会社乃村工藝社は、2010年より森林環境や地域社会に配慮した木材「フェアウッド」の積極的な調達を推進している。東京・多摩地域で生育した「多摩産材」を活用したプロジェクトや、東京近郊の木材産地と事業者やクリエイターをつなぐ取り組みなどを行ってきたフェアウッド・プロジェクトのリーダーに聞いた。

株式会社乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト リーダー

加藤悟郎

株式会社乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト リーダー

高まる国産材活用の機運

フェアウッド・プロジェクトは、乃村工藝社グループ内のさまざまな案件において国産木材の調達を支援しながら、木材利用の付加価値を提供しています。当社の主な事業領域である商業施設などの非住宅分野では、可燃材である木材を使うことにさまざまなハードルがあります。また、国産材の大半を占める針葉樹は節が出やすく、意匠上の理由や仕上げの手間などから活用が進まない状況がありました。しかし、戦後に全国各地に植樹された木の多くが切り時を迎えており、さらにトレーサビリティやサステナビリティが重視される潮流やウッドショックによる輸入材の高騰などさまざまな要因が重なり、国産材活用の機運が高まっています。こうした中で当社も国産材活用をこれまで以上に推進しており、2021年にオープンした新オフィスでも100%フェアウッドを使用したコミュニケーションスペースを設置しました。

地域産材が伝えるストーリー

国産木材を活用することは地域との接点をつくり、商業施設などのストーリーを伝えることにも寄与します。例えば、当社が2018年に手がけた神田明神文化交流館「EDOCCO(えどっこ)」では、施設を象徴する櫓や什器に不燃加工を施した多摩産材を100%使用しているのですが、活用の背景には多摩エリアが神田明神の御祭神である平将門公ゆかりの地であるといういわれがありました。このような地域のストーリーを表現することで施設に愛着を持ってもらえるようになると思いますし、東京の森林の適切な手入れや多摩産材のPRなどにもつながり、少なからず地場産業にも貢献できるのではないかと考えています。

また、オリジナリティが問われる当社の事業においても、コモディティ化された素材ではなく、立木の状態から知るオンリーワンの木材を直接産地から調達することには可能性を感じています。

「もり」と「まち」をつなぐ取り組み

2020年からは林野庁の支援を受け、林業・木材産業事業者と、当社の顧客やクリエイターらをつなぐプロジェクト「もりまちドア」をスタートしました。これまでに多摩地域や埼玉県の飯能地域などで産地体験会を実施し、立木から木材になるまでの工程の理解や、生産者との交流を通じた産地の課題の認識・共有などを図ってきました。これらの取り組みを通じて、木を植え、育て、伐って、ならす「森の循環」と、木材の新たな活用方法や長期間維持する方法を見出す「都市での循環」という2つの循環の確立を目指しています。

当社が扱う素材の中でも木材は環境負荷が低いものですが、使用する場所に近い産地から素材を調達することで物流における環境負荷も下げられます。こうした観点からも当社の活動拠点である関東圏の産地との関係をより強めていきたいですし、木材の調達を通じて地域の新しい魅力を発信していくような取り組みにもチャレンジしていきたいと考えています。

新オフィスのコミュニケーションスペース
新オフィスのコミュニケーションスペースでは、国産材などを含めたトレーサビリティが明確な100%フェアウッドを使用している。
神田明神文化交流館「EDOCCO」
神田明神文化交流館「EDOCCO」の内観。 櫓と什器は不燃加工を施した多摩産材を100%使用。