エイジレス時代~アンチからポジティブエイジングへ〜
取材先 (社名50音順) |
花王株式会社 化粧品事業部門 「KANEBO」 PR担当 | 星野由紀氏 |
---|---|---|
「ルレアッシュ」 ディレクター | ヒロコ・ルレ氏 | |
株式会社ブルームリュクス 企画営業 | 土井正美氏 | |
「メグミウラ ワードローブ」 デザイナー | 三浦メグ氏 | |
COLUMN | ファッションジャーナリスト | 宮田理江氏 |
取材先(社名50音順) | |
花王株式会社 化粧品事業部門 「KANEBO」 PR担当 | 星野由紀氏 |
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「ルレアッシュ」 ディレクター | ヒロコ・ルレ氏 |
株式会社ブルームリュクス 企画営業 | 土井正美氏 |
「メグミウラ ワードローブ」 デザイナー | 三浦メグ氏 |
COLUMN | |
ファッションジャーナリスト | 宮田理江氏 |
「ボーダーレス」、「ジェンダーレス」、「サイズレス」などさまざまな“境界”をなくそうとする動きが強まる中、次なるキーワードとして注目されているのが「エイジレス」だ。従来の「アンチエイジング」発想とは一線を画し、加齢をポジティブに受け止め、自分らしさを表現する新しい「エイジレス」という価値観が広がりつつある。これまで年齢によるセグメンテーションが一般的だったファッションやビューティ業界においても、高齢のモデルやファッションアイコンが活躍するなど、「エイジレス」を打ち出すブランドも増えている。本特集では、エイジレス時代を牽引するブランドや有識者への取材を通して、多様性の時代におけるビジネスのヒントを探る。
「エイジレス」という価値観が「レス」化の潮流を加速
ありのままを表現する「エイジレス」
ジェンダーに対する価値観が国や地域の環境、文化に大きく影響されるように、年齢に対する捉え方も国によってさまざまだ。「個」を尊重する傾向が強い欧米においては、「エイジレス」は決して新しい価値観ではなく、文化の一部として根付いているものだ。とりわけその傾向が強いフランスで長年スタイリストやライターとして活動してきたヒロコ・ルレ氏は、「あくまでも一個人として見られるフランスでは、性別や年齢よりも考え方や信念が重視される。そのため、自分の性別や年齢を意識することは少なく、年齢を重ねていくことにも気楽に構えることができた」と、「エイジレス」なフランス社会の在り方を語る。彼女がディレクターを務める「ルレアッシュ(LERET.H)」は、20代から60代までを対象とするアンダーウェアブランドで、日本の下着メーカーである株式会社ブルームリュクスが製造・販売を担当している。年齢にとらわれず自分らしく輝くパリジェンヌたちの価値観と、メイド・イン・ジャパンの技術が融合した「ルレアッシュ」は、「エイジレス」とともに「ボーダーレス」なブランドの在り方も体現している。
一方、加齢に抗う「アンチエイジング」志向が強かった日本にも変化の兆しが見られると語るのが、ファッションジャーナリストの宮田理江氏だ。「これまでは『美魔女』のように自分を若く見せる志向や、あるいは人目を気にした年相応のファッションが選ばれる傾向が強かった。しかし、近年は自分が元気になれたり、心地良くいられる服、自分らしさや自らの意志を表現できる服を選ぶ人が増えている」と語る宮田氏は、コロナ禍の影響などによって人々のファッションに対する価値観やニーズが変わったことで、「ジェンダーレス」、「エイジレス」の潮流が日本においても強まっていることを指摘する。
年齢・性別を超えて広がる共感
コロナ禍におけるブランド戦略として、20代から30代女性向けから、「ジェンダーレス、エイジレス、ボディポジティブ」を掲げるアウター専門ブランドに生まれ変わったのが、「メグミウラ ワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)」だ。商品カテゴリーを限定することでブランドの個性やメッセージを際立たせるという大胆な決断を行ったデザイナーの三浦メグ氏は、「人気のアイテムが年齢問わず共通しているのは予想外だった。かつてのように年相応の洋服を着なければならないという感覚がなくなり、あらゆる年齢の方がポジティブにファッションを楽しむ新しい時代に入っている」と消費者の反応について分析する。加えて、「仮に売上が変わらないのであれば、つくるものはできる限り減らした方が良い。モノがあふれる時代に何を『レス』していくのかという発想は、持続可能な社会をつくる上でのアイデアにもつながる」と語る。独自のクリエーションやモノづくり、メッセージに共感する消費者が、年齢を超えて集う状況は未来のブランド像を示唆しているのかもしれない。
ジェンダーレスコスメなどが続々と登場している化粧品業界においても、「エイジレス」の流れは加速している。2020年春のリブランディングを機にターゲットを20代から100歳を超える男女に広げた「KANEBO(カネボウ)」は、「美」ではなく「希望」を引き出すというブランドの新たなメッセージが年代や性別を超えて共感を呼んでいる。花王株式会社 化粧品事業部門で「KANEBO」のPRを担当する星野由紀氏は、「さまざまな選択肢がある現代は、年齢や性別を超えてなりたい自分になれる真に自由な時代。その反面、自分の生き方に自信を持てずに悩んでいる人たちも少なくない中で、一人ひとりが持つ『希望』を引き出すことが必要だと考えた」と語り、綿密な調査や技術開発を重ね、使う人の年代や性別を問わず、効果を実感でき、希望まで引き出すような商品づくりを推進している。
未来につながるポジティブエイジング
「ルレアッシュ」のヒロコ・ルレ氏が、「アンダーウェアは肌に最も近い装い。他人からは見えないが、自分に自信を持たせてくれたり、ワクワクさせてくれるもので、その力は洋服と変わらない」と語るように、「エイジレス」を強く意識したブランドには、年齢などを超えて自分らしくありたいと願う「個」をエンパワーする力があるといえる。多様性の時代においてこうした存在はますます求められることが予想されるが、「エイジレス」なモノづくりには何が必要になるのだろうか。ファッションジャーナリストの宮田氏が、「近年は幅広い年齢層が心地良いと感じられるアイテムがロングトレンドになりやすい。それをいかに新鮮な切り口で届けていけるかが大切」と語るように、消費者に「新しさ」を感じさせたり、「挑戦する気持ち」を持たせる提案を行うことが一つのカギとなりそうだ。
花王の星野氏は、「企業として社会をより良くするための活動にできる限り取り組んでいきたい。再生資源の活用、ユニバーサルデザインなどと並ぶものとして多様性や個性を尊重する『エイジレス』や『ジェンダーインクルーシブ』という考え方を大切にしている」と語る。「エイジレス」や「ジェンダーレス」の取り組みは、企業の意思や姿勢を社会に示すメッセージとしてもますます注目されることになるだろう。
アンチからポジティブエイジングへ。「エイジレス」は、さまざまな境界を超えていく「レス」化の潮流を加速させ、より寛容で豊かな社会づくりの一助になるのではないだろうか。


