エイジレス時代~アンチからポジティブエイジングへ〜

【COLUMN】

エイジレスファッションとは自分が心地良くいられる装い

加速するジェンダーレス化の流れと呼応するように、近年国内外で注目を集めているエイジレスファッション。ラグジュアリーブランドから大手SPAまでがさまざまなアプローチで「エイジレス」なファッションを提案している背景にはどのような要因があるのだろうか。長年ファッション業界をウォッチし、最新トレンドを発信してきたファッションジャーナリストの宮田理江氏に聞いた。

ファッションジャーナリスト 宮田理江氏

ファッションジャーナリスト

宮田理江氏

コロナ禍がもたらした変化

近年のファッション業界では、高齢のモデルがファッションショーで活躍したり、多くのブランドが年齢にとらわれない商品を提案するなど、「エイジレス」の流れが強まっています。しかし、もともと欧米では、鮮やかな色のドレスやミニスカートを好むシニアの女性など、年齢を気にせずに好きなものを自然体で着こなしている方は少なくありませんでした。

一方、日本においては長らく、世間体を気にして年相応の洋服が選ばれる傾向がありましたが、人生100年時代ともいわれる中でそのマインドは変わりつつあります。また、コロナ禍の影響も大きく、数少ない外出の機会には人目を気にせず自分が好きな服を着て出かける方が増えましたし、洋服というものが着る人に与えてくれるポジティブな力が、「エイジレス」の潮流として現れているように感じます。

トレンドから見るエイジレス

日本では、エイジレスファッションは年配の方が自分を若く見せるための洋服だと誤解されることもありますが、若者からシニアまでが年齢を気にせず楽しめるのが本来のエイジレスファッションです。市場の動きを見ても、かつてのトレンドアイテムは若い世代を中心に広がっていましたが、近年は10代から60代まで幅広い世代に受け入れられるものがロングトレンドとなっています。

8年ほど前に大ヒットし、現在まで人気が続いているガウチョパンツはその顕著な例です。ガウチョパンツは10代から20代の女性がスニーカーと合わせることもできるし、30代から40代の母親が子どもと遊んだり、自転車に乗るときにも裾が邪魔になりません。また、パンプスと合わせればオフィスにも穿いていけるし、50代から60代の女性にとっても、旅行の際などに重宝するアイテムです。こうしたあらゆる世代のニーズに対応するものがトレンドアイテムになっている点も、エイジレスの潮流を示すものだと感じています。

キーワードは「自分本位」

アウトドアやワークスタイルを打ち出しているブランドも幅広い年齢層から人気です。これらはボディラインが出にくいことに加え、丈夫で長く着られ、さらにあらゆる世代が自分のスタイルに取り入れやすい点などが支持されています。

こうしたエイジレスファッションは、自分が心地良くなれる洋服という点で共通しており、「自分本位」のファッションと言い換えることもできます。コロナ禍によって自分らしい生き方と向き合う人が増えたり、年齢を気にせず自然体で生きる人たちが多く活躍する時代において、人目を気にせずに「自分本位」でファッションを楽しむ方が日本でも増えていますし、それはヘアスタイルやメイクにおいても同様です。こうした状況の中、これからのアパレル企業やブランドにおいては、年齢によるセグメント以上に、テイストや趣味などに特化したブランドや商品の提案が重要になってくるのかもしれません。

ニューヨークのファッション
宮田氏がニューヨークで見かけたファッション。年齢を気にせず、「自分本位」で楽しむことが欧米では当たり前だという。