今、ソーシャルビジネスを考える 〜社会の課題解決に挑む〜

― 座談会 ―

今後のアプローチと展望

伊藤忠ファッションシステム株式会社 ifs未来研究所 上席研究員 浅沼小優氏

浅沼小優

伊藤忠ファッションシステム株式会社 ifs未来研究所 上席研究員

まずは一歩から始めてみるそんな意識を持つことが企業においても大切 (浅沼)

浅沼:コロナ禍によって苦しい状況を乗り越えていかなくてはならない難しさがあった反面、社会全体としてはソーシャルビジネスへの理解が進み、応援してくれる方も増えてきているように感じます。最後に、今後注力されようとしている領域やアプローチ、新たな取り組みなどをお話しいただけますか。

松田:例えば、有名キャラクターと当社のアートによるコラボレーションなど、共同IPの開発に力を入れていきたいと考えています。それによって海外に進出していくことも視野に入れています。また、2023年よりウェルフェア部門の立ち上げを考えており、障害のある人が働くレストランやショップなどの施設を建築し、今後は障害のある人たちが働ける場を各地につくっていきたいと考えています。ちなみに、「ヘラルボニー」という社名は、兄が小学生の頃に日記帳に書いていた謎の言葉なのですが、将来的には「ヘラルボニー」イコールアートの会社ではなく、「ヘラルボニー」という言葉自体が自分たちの存在を示すものになってほしいという思いがあります。例えば、「ヘラルボニースイミングスクール」といえば、それは障害の有無にかかわらず、誰もが通えるスイミングスクールなのだと認識してもらえるような状況をつくっていきたいと思います。

斉藤:コロナ禍によって、仲良くさせてもらっている農家さんが収穫した柑橘を廃棄せざるを得なくなってしまったことがありました。そこで当社は、パンとも相性が良いドライフルーツの試作をしたのですが、海外産に比べると原料費が2倍、3倍になってしまうんですね。こうした問題がある中で、効率化などさまざまなアプローチによって価格を抑え、地域の食材が使われる状況をつくることが、日本の食糧問題や土地活用の観点から必要だと強く感じました。もともと当社は外部の意向に活動を左右されたくないという思いのもと、外部からの資本は入れずに合同会社として設立しています。そのため、何か大きなことをすぐに実現することはできないかもしれませんが、経営の自由度を武器に、今お話ししたような地球が抱える問題とさまざまな角度から向き合っていくような取り組みを、一つひとつ積み上げていきたいですね。

王:今、小売業界ではECが非常に重要なチャネルとなっており、コロナ禍には当社のECも非常に伸びたのですが、一方で、店舗の可能性を信じています。当社は卸販売からスタートしているのですが、お客様の顔を見て、自分たちの思いを伝えることの必要性を感じ、お店を持つようになりました。だからこそ、生産地からつながる自分たちのストーリーをしっかり店舗で伝えるとともに、お買い物の純粋な楽しさを感じていただきたいと思っています。また、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げていますので、グローバルでのチャレンジも避けては通れないところです。コロナ禍において日本以上に厳しい規制が敷かれた海外では、撤退や我慢を強いられる局面が多かったのですが、向こう3年ほどで力を蓄え、改めて海外にチャレンジしていきたいと考えています。

浅沼:皆様のお話を伺い、消費者の目線を持ちながらも、ビジネス感覚というものを重視して活動を進められているということを改めて確認できました。さまざまな社会課題が私たちに重くのしかかっている今、多くの人たちが地球を未来に残すために何かをしたいという気持ちを持っているはずです。このままではいけないと感じている人たちの受け皿となり、消費と社会をうまく結びつけるためのロールモデルになり得るのが皆様のビジネスだと感じます。社会課題をドラスティックに解決することは難しいのですが、まずは一歩から始めてみようという意識を持つことは消費者のみならず、企業においても大切なことだと思います。そのような意識を持ち、皆様と一緒にビジネスを進めていくような企業が少しでも増えることを願っています。本日はありがとうございました。

盛岡市にあるヘラルボニーの店舗
盛岡市のカワトクにあるヘラルボニーの店舗。
マザーハウスのアパレルブランド「E.(イードット)」
マザーハウスのアパレルブランド「E.(イードット)」の洋服。インド綿「カディ」を使ったコレクションに力を入れている。
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