ファッションを再定義する新時代のセレクトショップ

【INTERVIEW】株式会社ビームス

百人百様の個が集う「コミュニティブランド」としてのセレクトショップ

セレクトショップの草分け的存在として、1976年に創業したビームス。東京・原宿のわずか6.5坪の店舗からスタートし、洋服の枠を超えたライフスタイルの提案やさまざまなブランドとのコラボレーションなど、変化する時代と呼応するようにセレクトショップ像を更新し続けてきた。コロナ禍以降もオンラインを活用した接客や業種を超えたコラボレーション、持ち前の企画力を生かしたB to B事業の拡大など、セレクトショップの枠に収まらないチャレンジを続けている株式会社ビームスの代表取締役社長 設楽 洋氏に、セレクトショップの過去・現在・未来を聞いた。

株式会社ビームス 代表取締役社長 設楽 洋氏

設楽 洋

株式会社ビームス 代表取締役社長

変化するセレクトショップの役割

ビームスを創業した1976年は、まだ「セレクトショップ」という言葉がない時代でした。当時は、あらゆるモノが揃う百貨店に対して、自分たちが好きなものだけを集めて発信する「十貨店」になると話していたことを覚えています。アメリカ西海岸の学生の部屋をイメージしたわずか6.5坪ほどの店舗に、現地で買い付けてきたTシャツやスニーカー、ロウソク立てやネズミ取りなどを商品として並べ、アメリカのライフスタイルを伝えるショップとしてスタートしました。当時から目指していたのは、次の時代の生活文化のスタンダードをつくること。これは規模が大きくなった現在に至るまで変わりません。

1990年代以降は、海外から仕入れたモノを売るだけではなく、当社のエッセンスを加えた別注アイテムなども展開するようになり、近年取り組んでいる異業種とのコラボレーションもその延長線上にあるものです。基本的にセレクトショップの役割は、編集者やアレンジャーとしてさまざまなモノを絶妙なさじ加減で組み合わせ、新しい価値をつくっていくことだと考えています。

かつては、まだ多くの人が見たことのないモノを紹介することが当社の仕事でした。しかし、スマートフォンが普及してSNSが盛んになり、情報が飽和している現在は、若者たちがモノや情報に飢えていた創業時とは大きく状況が異なります。膨大な情報の中から「これが良いのではないか」というモノを絞り込んで伝えることが、自分たちの役割になってきているようにも感じています。

「コミュニティ」の時代を見据えて

従来のセレクトショップという業態だけで勝負をすることが難しくなっている今、ビームスではさまざまな領域でトライアルを行っています。時代の変化に立ち会い、新しい文化を生む媒介役のような存在になりたいと考え、近年は「セレクトショップからカルチャーショップへ」を掲げています。あらゆる要素をクロスオーバーさせながら、新しいライフスタイルをつくっていきたいという思いのもと、いち早く次のスタンダードをつかむためにさまざまな領域に踏み込んで、自らが経験することを大切にしています。

ビームスには、洋服の歴史や品質などに価値を感じる人間、カルチャーやアートを追求する人間、あるいは刹那的なムーブメントを追いかけることに楽しみを見出すトレンド大好き人間などさまざまなスタッフがいます。それぞれが異なる得意分野を持ち、百人百様のビームスがある。そんな当社だからこそ、どんな領域においてもキュレーションできるスタッフが必ずいて、それが集団としての大きな強みになっています。

特定の分野に精通した人間が「この指止まれ」と提案したことに、コアなファンが集まってくることでコミュニティが形成されます。SNSの台頭により、「個」の時代といわれるようになって久しいですが、これからは「集落」の時代、「コミュニティ」の時代になるはずです。そうしたコミュニティを形成できる人を育て、他のどこにもない「コミュニティブランド」になることが、現在目指している方向です。

競合相手はインフルエンサー

近年の注力テーマは、「人」、「デジタル」、「地方」、「B to B」の4つです。今やインフルエンサーの方たちが、SNSを通じて自分が選んだモノをファンに提案する時代です。今後の競合はセレクトショップではなく、インフルエンサーだと捉えており、当社自体も個性的なスタッフを有するインフルエンサーの集団になる必要があると考えています。また、販売スタッフのオムニチャネル化を掲げ、ECやSNS、ライブコマースなどのデジタルと、従来からあるリアル店舗を行き来して活躍する「オムニスタイルコンサルタント」というチームをつくり、現在は全国に約300名のスタッフを抱えるほどになっています。

自社ECで売上の6割ほどがスタッフの投稿コンテンツを経由しているように、デジタル施策においても「人」がキーワードです。継続的に出展しているVRイベント「バーチャルマーケット」では、仮想空間に実店舗のスタッフがローテーションで参加し、接客を行っています。こうした人の体温が感じられるコミュニケーションは、デジタルの世界においても重要だと考えています。

2016年の創業40周年を機に「ビームス ジャパン(BEAMS JAPAN)」を立ち上げて以来、日本の良いモノ・コトの紹介を続けており、近年では地方創生の流れの中で自治体などとの取り組みも増えています。少子高齢化が進み、国内市場が縮小する中でますます重要になっているグローバル戦略においても、「ビームス ジャパン」のような日本発のプロジェクトや、個性が立ったオリジナルブランドを育てていくことが肝になります。

最近は「GAFAから世界遺産まで」を掲げているように、B to Bの取り組みも多岐にわたります。以前からビームスでは、ファッションブランドなどとコラボレーションを行ってきましたが、ファッション以外の領域においてもさまざまな協業が進んでおり、既存のビジネスとは異なる業態として成長してきています。

業界の常識にとらわれない視点を

現在の当社には、年間500を超える協業についての問い合わせがさまざまな事業者様から寄せられています。私自身がそうであるように、あらゆる領域において「ミーハーな生活者」の目線で関心を抱き、セレクトや編集の力で時代に応じた価値をつくってきたことが、こうした評価につながっていると感じています。

ファッションは川の流れのようなものであり、トレンドなど時とともに流れ去って行くものがある一方で、川底に沈殿し、ライフスタイルとして定着するものもあり、両者に面白さがあります。広義のファッションには、洋服に限らずアートやカルチャー、テクノロジーなどさまざまなものが含まれます。従来のファッション業界の常識だけではこれからの時代の変化をつかむことは難しいですし、時代に合ったビジネスモデルや仕組みを考えることもできません。SDGsが注目される時代に、ファッション業界においても適切な在庫を持ち、完全に売り切るという考え方は非常に大切ですが、これは一朝一夕でできることではありません。その中で当社は、通常であれば廃棄されるモノをアップサイクルして製品化するなど、さまざまな角度から循環や再利用の形を模索しています。

コロナ禍は当社にとっても大きな衝撃をもたらしましたが、それによってデジタル施策やB to Bビジネスの重要性を知ることができました。依然として目の前の状況への対応は大きな課題ですが、本来なら5年から10年後に起こるはずのことが一気に起こり、社員の意識が変わったことは良かった点です。当社のやり方が正解だというつもりはありませんが、次の時代を見据えて新しい価値をつくっていくような動きが、セレクトショップの間でも広がっていくと良いなと思っています。

ビームス原宿
ビームス原宿はメンズカジュアルの旗艦店として、さまざまなファッションとライフスタイルを発信し続けている。
「バーチャルマーケット 2022 Summer」
「バーチャルマーケット 2022 Summer」に、4度目の出店。2階のELAIZAライブステージには本人も登場した。
「大名古屋展 2022」
今年7月には、「ビームス ジャパン」によるコラボレーションプロジェクト「大名古屋展 2022」を開催。
「B印マーケット」
ビームスのスタッフ個人がセレクトしたさまざまなモノや体験を、ストーリーとともに届けるオンラインショップ「B印マーケット」。
「つづく服。」プロジェクト
モノのライフサイクルを考える「つづく服。」プロジェクト。服にまつわるサステナビリティを考える「つづく服。の日」も制定している。