「共創」で実現するファッション業界の業務改革

ファッション業界が直面している課題とは

アビームコンサルティング株式会社 執行役員 プリンシパル コンシューマービジネスユニット長 水野美歩氏

水野美歩

アビームコンサルティング株式会社 執行役員 プリンシパル コンシューマービジネスユニット長

「共創」や標準化を進めるにはリーダーシップを取るプレイヤーの存在が課題 (水野)

大室:現在のファッションや小売業界が抱えている課題については、どのように認識されていますか。

水野:生活者の価値観の多様化、購買行動の変化に加えて、GoogleやAmazonなどの巨大IT企業が提供するサービスがあらゆる生活領域におけるインフラとなりつつある中で、これらのプラットフォーマーとも連携しながらいかに顧客体験を向上させるかが業界における課題となっています。ファッションアパレル企業にもデジタル変革が求められているわけですが、歴史的に多種多様な企業が独自に差別化を図りながら成長してきたファッション業界では、バリューチェーンが複雑かつ非効率的になっており、環境変化にスピーディに対応できていない現状があります。コロナ禍によって経営環境が厳しくなり、さらにサステナビリティ対応などの要請も高まる中、DX推進のための基盤や人材に対して十分投資しきれていない面があります。

小橋:モノのつくり方やサプライチェーンの在り方、商流などが変化する中で、当然物流も変わっていかなくてはいけないのですが、ファッション業界における物流は後れを取ってしまっていると感じています。現在ファッションアパレル企業では変化に対応すべくDXの推進が求められていますが、その課題を突き詰めた場合に深刻となるのが物流インフラだという認識があります。今、物流では、法改正に伴ってさまざまな問題が生じる「2024年問題」が危惧されています。これは運送会社や物流会社が抱えている問題だと捉えられがちですが、モノが運べなくなったり、コスト面に大きなインパクトを与えたりするという点でファッション業界にとっても決して他人事ではなく、なんとかしなくてはいけないという危機感を抱いています。

浦上:経済産業省が2018年にまとめたDXレポートでは、DX推進の遅れによって生じる経済損失に関して、「2025年の崖」という言葉を使って警鐘を鳴らしています。日本企業には、DX推進を阻害する要因として、自前でつくった基幹系システムを使い続ける風土が根強く残っており、これが諸外国と比べて新しい流れに乗りきれない大きな要因の一つになっていると認識しています。また、こうしたレガシーシステムのメンテナンスが属人化しており、併せてIT人材においては高齢化も進んでいます。加えて、1990年代後半から事業会社がITシステムの開発・運用をアウトソースする潮流が強まったため、いざDXを推進しようとしても内部人材が不足しているという課題も抱えています。伊藤忠本社では、経営陣の理解のもと定期的に基幹系システムに投資し、レガシーシステムから脱却できていますが、グループ会社全体に目を向けるとこれらが共通の経営課題として横たわっています。

「共創」で実現するファッション業界の業務改革